スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

フィンランドの悲劇 : 後記

2007-11-11 23:36:04 | コラム
フィンランドの高校の無差別殺人について取り上げたところ、アクセス数が3割ほど増えました。他のブログやHPのリンク集からリンクが張られたためです。いろんな人が関心を持っていた内容を紹介できたのは嬉しいことです。

リンクがある元サイトの中には、紹介文やコメントも書かれていました。

・18歳…老けてるね…
・こういう話だったのか…。うーん…どう考えるといいんだろう。銃が手に入る国では他人を殺し、手に入らない国では自分を殺す…。

これらはまぁ、いいとしても、下のコメントにはちょっとゾッとします。

・ラジオさん的にはすばらしい事件だろうなあ
・まあ、銃が手に入っていたら、やってましたね、高校生の時に。
・学校は銃を乱射したくなる場所だよ、そういうものだ。
・事件はもちろん許されないことだが(ええ、建前ですよ)、こうしたメッセージをきちんと残しておいた犯人にはある種の感動を覚えずにはいられない。

現実味に欠け、ここまで冷めたコメントがよく書けるものだ、と驚きます。特に最後のコメントなんか、「事件はもちろん許されないこと」だと書くのは建前に過ぎないのらしい。ということは本音は・・・?

まぁ、半分冗談で「なーんちゃって」で済ますつもりなのだろうけど、この手の(日本的?)“軽い”雰囲気、というか、何でも冗談で済まそうとする風潮には私はどうもついていけません。それは私が「×ちゃんねる」文化に染まれなかったせい? ブラックジョークというのは日本以外にももちろんあるけれど、人の生死までジョークにしてしまっては、「命の価値やかけがえの無さ」「生きているということの尊さ」が自然とないがしろにされてしまうような気がします。

犯人の心理状態の分析として、「彼はフィクションと現実の違いがつかなくなっていた」という指摘が一般的になされています。その通りだと思います。一方で、このような冷めたコメントが平気で書けてしまい、しかもそれが異常なことだと思われず、普通に流されてしまう社会も、まさにフィクションと現実の違いがつかくなってしまった、と言えるのではないでしょうか。(上のコメントを書いた人自身を批判するつもりはありません)

------
ところで・・・、

「教育システムがとても素晴らしい」と(特に)日本で評価されているフィンランドであっただけに、教育関係者にとっての衝撃もなおさら大きかったようです。これまでの絶大な評価の反動として、フィンランドに対する評価を問い直す動きも今後出てくるかもしれません。しかし、もっと冷静になるべきではないかと思います。

前回「フィンランドの教育制度が国際学力比較でトップなのに、今回の凶悪犯罪が起こってしまったのは何故か?という問題提起の仕方は的を射ていない」と書きましたが、そのことについてもう少し説明を加えます。

日本ではとかく白黒論が多く、固定観念に基づいた紹介のされ方が目立ちます。ある一つのこと(ここではフィンランドの教育制度)が日本でもてはやされると、「フィンランドの教育は素晴らしい」「フィンランドは素晴らしく、日本にあるような問題はないに違いない」という期待が蔓延し、少しでもその期待から外れる出来事があると「やっぱりフィンランドも大したことないんだ。問題だらけなんだ。」というような落胆に変わり、けなされがちです。 環境政策や福祉政策に関して、スウェーデンが取り上げられる時も同様にイメージ先行が目立ちます。

これは以前にもブログに書いたことですが、そんなパラダイスのような国はなく、どこの国も様々な(そして基本的に同じような)問題を抱えている、という前提に立ってモノを考えるべきだと思います。その上で、その問題に対してそれぞれの国なりシステムがどのように対処しようとしているのか? を分析すべきではないでしょうか。そして、それでもフィンランドのシステムの中に優れている点があれば、その点を評価すべきだと思うのです。これは単にメディアだけの責任ではなく、大学研究者にもかなり大きな責任があると思います。

今回の事件に関しては「あれだけ評判の高いフィンランドであったのに」という視点からモノを考えるのではなく、どこの国でも起き得た普遍的な問題と考え、それに対処できなかった理由はなにか?という点を分析するべきでしょう。そしてもし、フィンランドの教育自体に構造的な問題があったり、日本で高く評価されてきた部分(学力促進政策?)の裏側で心のケアが犠牲になっていたとするならば、そのときに初めて、これまでの評価を見直さなければならない、ということになるでしょう。

そういう意味で、今回の事件は、まずはこれまでの評価とは切り離して考えるべきだと思います。

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
賛成です (shchan)
2007-11-12 18:02:34
 Yoshiさんが述べておられることについて、前半部分についても後半部分についても賛成です。以前、「切断された首」が校門前にころがっていた「神戸の事件」の時も、「なぜ殺してはいけないのか」という子どもたちの問いかけに対して、大人たちがきちんと応えられなかったのではないか、という思いがあって「その行為が罪であることから出発すべきだ」と前回コメントさせていただきました。
 今回の事件は、まずはこれまでの(フィンランドの教育に対する)評価とは切り離して考えるべきだ、という意見についても賛同いたします。「教育制度や社会制度だけでは解決しがたい難しい問題がどの国にもあるのだ」と考えるべきなのでしょう。
 日本では何でも白黒はっきりさせたがる傾向があるので気をつけたほうがいいのでしょうね。ただ、事件後も文部科学省は先週の「研修会」で「フィンランドの教育に学ぶべき点が多い」ことを述べていたようなので、それほど大きな「反動」は心配しなくてもいいのかもしれません。
 ところで私は鳥取県で高校の教職員をしているのですが、いじめに関する高校生の討論内容をホームページに昨晩のせておきました。
http://sky.geocities.jp/shchan_3/pagetw.htm

 また、携帯電話にインターネット機能を搭載している日本の場合、「ネットいじめ」の実態はより深刻であると思います。その実態についても、「いじめ問題の背景にあるものは」に一端をまとめておきましたので、よろしければごらんください。
http://sky.geocities.jp/shchan_3/pagetr.htm

(Yoshiさん、わざわざホームページにおいでいただきありがとうございました。肩書きの間違いについては大変失礼いたしました。早速修正しておきました。) 
返信する

コメントを投稿