スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「Moment 22」的な状況

2009-03-02 17:48:02 | コラム
先日、SAABについて書いたところで、こんなジレンマ的な状況を紹介した。

スウェーデン政府としては、SAABの新しい所有者が決まってからでないと、公的な支援をする気はない。一方で、SAABの買取に関心を示している民間企業や資本グループも、スウェーデン政府からの支援なしには、リスクが高すぎて及び腰。

このように、AのためにはBが必要だが、一方でBのためにはAが必要、というにっちもさっちもいかない状況のことを、スウェーデン語では一言でMoment 22、と呼ぶ。

この表現は、アメリカの小説『Catch-22』のスウェーデン語訳のタイトル『Moment 22』から来ているのだ。

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アメリカの作家ジョセフ・ヘラーが1961年に発表した小説『Catch-22』にこんな下りがある。

第二次世界大戦中。舞台は地中海の小島。アメリカ空軍の兵士(爆撃機の乗組員)としてこの島に配属された主人公は、狂気に満ちたこの島から逃れるために、除隊を希望する。軍規の第22項によると、「精神疾患に陥り、気が狂った者だけが除隊を認められる」という。

しかし一方で、「気が狂った」と自ら申告し除隊を希望したのでは、「気が狂ったフリ」をして従軍から逃れるようという理性的な判断がまだちゃんと働いている、と見なされ、認めてもらえない。つまり、自分の気が狂っていると自分で認識できるのは、まだ気が正常な証拠だ、というわけなのだ。

――――――
日本語で言えば「あちらが立てば、こちらが立たず」とか「鶏が先か、ヒヨコが先か」ということになるだろうか。

最近スウェーデンで耳にした例は、

- ある大学の博士課程に応募したい研究生に対し、その大学は「外部の奨学金を申請して、履修中のファイナンスを自ら確保すれば、入学を認めてもいい」という。一方、奨学金を給付している団体は「大学入学を認めるという証明書を大学側が発行しなければ、奨学金の給付はできない」という。

- スウェーデン近海でタラが枯渇しており、海洋生物学専門家はタラ漁の大幅な制限を推奨しているのに、スウェーデン水産庁は制限を厳しくしようとしない。その理由は「タラの水揚げ量が減れば、それで生計を立てる漁師や水産加工業が困るから」という。一方「そんなことを言っているうちに、タラが今まで以上に枯渇してしまえば、漁師や水産加工業はどっちにしろ困ってしまう」と専門家は反応する。


実は、英語でもこのようなジレンマ的状況を「Catch 22」というらしい。

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5 コメント

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Unknown (とおりすがり)
2009-03-02 20:00:19
三つだけど、「(蛇と蛙とナメクジの)三すくみ」が近いかな?
コンピューターサイエンスだと「デッドロック(deadlock)」という
単語もあります。(そっち方面だとメジャー。)

それから、Catch-22の状況は日本でも多用されてる気はします。

○会社の組織が時代遅れで改革を目指す若者がいる。
改革するためには昇進しなければならない。
若者が昇進するためには制度改革が必要。

どうやれば制度改革ができるだろう?

#そういう意味では「おととい来い」が近いのかも。。。orz
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Unknown (あや)
2009-03-03 01:34:57
海外でこうも言われてると、ますます心配になってしまいます。
http://english.aljazeera.net/business/2009/02/20092273519408820.html

今日は車のサイトを作成しているメディアの人から電話を受けました。
この不況時に車を使うなという活動に税金を使うなんて何考えているんだ!と、だんだんとヒートアップ。
それも一理あるのは事実だけど、真意を分かってもらうのはなかなか難しい。。上司に対応してもらうことになりました。
長期的に考えて、今のあり方は変えていくべき、そう思います。でもこれからも増えるであろう犠牲に関しては、何も言えません。。
Moment22とは違うけど、今日感じたジレンマです。
と同時に、こうしたメディアが新しい車のあり方を学び、世間に問うてくれたらどんなにかいいのにと思うのですが。

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Unknown (backcast)
2009-03-03 11:02:45
Yoshiさん、
こんにちわ!

 「Moment 22」を読んで、すぐ思い出したのは環境分野で90年代によく登場した「囚人のジレンマ」というゲームの論理でしたが、これはMoment 22と似て非なるsituationですね。

 次のブログでYoshiさんの「Moment 22」の説明とよく似たブログ「安倍首相のキャッチ22」(2006-10-05)に出会いました。
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200610050207084

 このブログは次のように結ばれています。

 主人公のヨッサリアンはこのジレンマから抜け出す解決策として、脱走し、スウェーデンに逃げる。安倍首相は脱走もできず、ジレンマを抜け出すことができないようだ。

 小説「Catch-22」の主人公の解決策は「スウェーデンに逃げることだった」というところが興味深かったのですが・・・・・
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Unknown (Yoshi)
2009-03-11 18:51:52
>小説「Catch-22」の主人公の解決策は「スウェーデンに逃げることだった」というところが興味深かったのですが・・・・・

なるほど、それは知りませんでした。中立国であったスウェーデンは、亡命先としては有名だったようです。読んでみる価値がありそうですね。
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Unknown (Yoshi)
2009-03-11 18:55:04
>あやさん

おそくなりました。

私は高速料金1000円という景気対策がよく理解できないでおります。給付金にしてもそうだけれども、国庫からの貴重なお金を拠出するなら、もっと効果を吟味した上で決定する必要がありますよね。しっかり事後評価をして欲しいものです。
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