スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

男性の育児休暇の取得率

2006-12-09 01:53:30 | スウェーデン・その他の社会
父親でも育児休暇が取りやすいといわれるスウェーデンだが、それでも父親が取る割合は、女性のそれよりはるかに低い。他国との比較をするためのデータが今手元にないので、ここではスウェーデンの現状だけを詳しく見てみよう。

まずは、スウェーデンの育児休暇制度の簡単な復習から。
・子供を持つ親は最大480日(16ヶ月)の育児休暇を、子供が8歳を迎えるまでにとることができる。給付は給与の最大80%(最大、というのは、つまり、いくら高所得でも給付額には上限があるということ。現在この上限は月26100クローナ(42万円)。ただ、職種や業界によっては、最大80%の上限にさらに上乗せされることが、集団賃金交渉の際に盛り込まれることもある)。一方で、いくら所得が低くても、月5400クローナ(8.6万円)はもらえる。ただ、最後の90日間は一律に月額5400クローナ(8.6万円)に減らされる
・最大480日の育児休暇のうち、60日分はそれぞれの親に固定されているため、もう一人の親に譲ることはできず、この日数を活用したい場合は、自分で消化しなければならない。
過去のブログより

これを踏まえた上で、スウェーデンの現状について、最新の分析結果(対象は2003・2004年)をみてみよう。スウェーデン国会は2006年5月に、男女平等に向けた新たな目標を採択している。その目標の一つは、給料が支払われない家事(料理・洗濯・掃除・育児)への責任が、男女間に均等に分担されることであるが、育児休暇だけを見た場合、この目標にはまだまだ大きな努力が必要なことが分かる。

一日でも育児休暇を取得する父親は、全体の4分の3。ただ、このうちの多くは父親に割り与えられた60日の一部、もしくは全部を消化しているに過ぎず、60日を超えて育児休暇を取る父親は全体の3分の1に過ぎない。

◎ 結果として、父親が取得する育児休暇の平均日数は52日(中間値(median))は35日)。取得日数全体に占める父親の平均取得率はわずか15%に過ぎないのだ(中間値は10%)。(平均値と中間値を比較すれば、小さいほうに向かって分布が歪んでいることが分かる)

◎ 予想できることではあるが、母親の所得が高くなるにつれ、そして特に、母親の所得が父親の所得を上回るにつれ、父親の取得率は上昇する。その逆のケース、つまり父親が母親に比べて高給を得ている家庭は、父親の取得率は低い。

◎ 両親のうち、少なくとも片方が高学歴を持つ家庭では、父親の取得率が高く、両方が高学歴を持つ家庭では、さらに高くなる(平均21%の取得率)。

◎ 民間と公的部門の職場を比べた場合、父親が民間で働く家庭では、父親の取得率が低くなる。また、母親が公的部門(公務員)の家庭ほど、父親の取得率は高くなる。(つまり、両方の親が公的部門で働く家庭で、一番高い)


最初の点については、42%(=3/4–1/3)の父親が、割り当てられた60日の範囲内でしか取得していないが、それでも、「60日分はそれぞれの親に固定」という制度が、父親の取得行動にそれなりの影響力を持っていることを示唆しているのではなかろうか。それに、一日でも育児休暇を取る父親が全体の4分の3に上るという国は、なかなか無いのではなかろうか。

最後から二つ目については、学歴の高い家庭ほど、男女平等や家事分担に対して理解が高いということを示しているのだろうか。(ただ、父親だけが高学歴の場合には、母親との給料格差が大きいだろうから、男性の取得率に対する効果は相殺されるだろうが)

最後に関しては、スウェーデンでも民間では男性がなかなか取りにくいことを示しているのだろう。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
教えてください。 (キョトンC)
2006-12-09 09:06:26
いくつか教えていただけると助かります。
①自営業の場合も前年度の所得に対して80%ですよね。これは国のどの機関が所得を保障して。くれるのでしょうか
②給与の80%を保障する場合に、上限が設定されているわけですが、32000SEKが現在の上限であると何かの資料で読んだことがあります。日本の資料は私の論文同様ミスが多いので26100SEKが正しい可能性の方が高いのですが、ご確認いただけると助かります。
③父親母親のクオータ制は確か1995年にスタートし、当時は30日でした。2002年に倍増し60日になったわけですが、このように大きな変化を国のどのセクションで決めるのでしょうか。
④大きな変化と言えば、最後の90日の保障額が今年から一日180SEKに3倍になりました。ついこの前までは60SEKでしたので。このような大幅な改善をすぐに実行できるのがスウェーデンの素晴らしさだと思っています。
返信する
Unknown (Yoshi)
2006-12-11 08:27:59
キョトンC先生

ご質問、大歓迎です。

①、②については、大体答えられると思います。③、④については、少々リサーチが必要ですが、今週中に返事ができたらと思っています。

それから、大変遅くなりましたが、写真を送っていただき、ありがとうございました。研究室に貼ってあって、私の同僚も気に入っています。すぐにお返事すべきところなのに、私の悪い癖でこんなに遅くなり申し訳ありませんでした。
返信する

コメントを投稿