歯止めがかからない少子化に大きな危機感を抱いている国がある。出生率が1.36とヨーロッパの中でもかなり低いほうに位置するドイツだ。
2007年初めからドイツの街角にドイツ家族省の広告が掲げられた。写真には、床に座って子供とボール遊びをするお父さん。
実は2007年から新しい育児休暇保険制度がドイツで導入されたのだ。育児休暇中の給付額を大幅に引き上げるとともに、男性にも徐々に育児休暇を取らせようという意図も込められている。なんとスウェーデンの制度がお手本となっているのだ。
ドイツといえば、宗教観に基づく家族主義の意識が伝統的に強く、子育てや家事は女性の仕事、そして、家族が決めるべきこと(育児・家事分担etc)に国が介入すべきではない、という考えが強い。福祉国家の大分類を行ったエスピン=アンデルセン(Esping-Andersen)もドイツを、伝統的な家族主義の概念を基礎にし、家族で手に負えない部分にのみ国が補完的にサービスを提供するという「保守的福祉国家」の代表例と述べている。家族ではなく個人が社会保障政策を考える上での基本である「北欧型(社会民主的)福祉国家」とは大きく異なる。
結果として、公的な保育所の整備が遅れた。また税制も個人ではなく家族を基本とし、扶養控除(稼ぎが男性のみの場合、所得税が減額)が取り入れられた制度となった。
女性が仕事キャリアと家庭を両立しにくい社会制度は、結婚の晩婚化や少子化をもたらす。出生率が1.36に落ち込み、ドイツ社会の長期的な存立が危うくなった。今日8200万人いるドイツ人も2050年には6900万人に減少するとの予測が出ている。そうなると年金給付開始年齢を74歳にまで引き上げなければならなくなるのだ!
それまでの育児休暇制度では、子供が生まれた後の最初の3年間、女性だけに休暇を取ることが認められていた。その上、給付水準が定額で月300ユーロ(約5万円)と低く、また、所得審査も設けられ、誰もが給付を受けられる(ユニバーサル)というわけではなかった。
北方の小さな隣国スウェーデンを見習った新制度では、子供一人につき12ヶ月間の育児休暇給付を受けることができる。給付水準はそれまでの所得の最大67%(失業保険給付と同水準)。これに加え、父親にも最低2ヶ月間の育児休暇給付の受給権が認められ、これを併せれば最長14ヶ月間、国から給付を受けることができるのだ。しかも、所得審査はなくユニバーサルだ。(最大給付額は月1800ユーロ、約30万円。また出産以前に所得がなかった人には月300ユーロの最低保障水準が給付される。さらには、3年以内に次の子供が生まれた場合には、前の子の出産以前の所得水準がもとになり給付水準が決定される。)
とまあ、スウェーデンの制度とよく似ている(スウェーデンの場合、最長16ヶ月で給付水準は最大80%)。スウェーデンのある新聞は「ドイツは30年遅れて、家族政策において世界で最も近代的だとよく呼ばれる国に追いついてきた」と、(スウェーデン人らしくない)自尊的コメントを付け加えている。
2007年初めからドイツの街角にドイツ家族省の広告が掲げられた。写真には、床に座って子供とボール遊びをするお父さん。
実は2007年から新しい育児休暇保険制度がドイツで導入されたのだ。育児休暇中の給付額を大幅に引き上げるとともに、男性にも徐々に育児休暇を取らせようという意図も込められている。なんとスウェーデンの制度がお手本となっているのだ。
ドイツといえば、宗教観に基づく家族主義の意識が伝統的に強く、子育てや家事は女性の仕事、そして、家族が決めるべきこと(育児・家事分担etc)に国が介入すべきではない、という考えが強い。福祉国家の大分類を行ったエスピン=アンデルセン(Esping-Andersen)もドイツを、伝統的な家族主義の概念を基礎にし、家族で手に負えない部分にのみ国が補完的にサービスを提供するという「保守的福祉国家」の代表例と述べている。家族ではなく個人が社会保障政策を考える上での基本である「北欧型(社会民主的)福祉国家」とは大きく異なる。
結果として、公的な保育所の整備が遅れた。また税制も個人ではなく家族を基本とし、扶養控除(稼ぎが男性のみの場合、所得税が減額)が取り入れられた制度となった。
女性が仕事キャリアと家庭を両立しにくい社会制度は、結婚の晩婚化や少子化をもたらす。出生率が1.36に落ち込み、ドイツ社会の長期的な存立が危うくなった。今日8200万人いるドイツ人も2050年には6900万人に減少するとの予測が出ている。そうなると年金給付開始年齢を74歳にまで引き上げなければならなくなるのだ!
それまでの育児休暇制度では、子供が生まれた後の最初の3年間、女性だけに休暇を取ることが認められていた。その上、給付水準が定額で月300ユーロ(約5万円)と低く、また、所得審査も設けられ、誰もが給付を受けられる(ユニバーサル)というわけではなかった。
北方の小さな隣国スウェーデンを見習った新制度では、子供一人につき12ヶ月間の育児休暇給付を受けることができる。給付水準はそれまでの所得の最大67%(失業保険給付と同水準)。これに加え、父親にも最低2ヶ月間の育児休暇給付の受給権が認められ、これを併せれば最長14ヶ月間、国から給付を受けることができるのだ。しかも、所得審査はなくユニバーサルだ。(最大給付額は月1800ユーロ、約30万円。また出産以前に所得がなかった人には月300ユーロの最低保障水準が給付される。さらには、3年以内に次の子供が生まれた場合には、前の子の出産以前の所得水準がもとになり給付水準が決定される。)
とまあ、スウェーデンの制度とよく似ている(スウェーデンの場合、最長16ヶ月で給付水準は最大80%)。スウェーデンのある新聞は「ドイツは30年遅れて、家族政策において世界で最も近代的だとよく呼ばれる国に追いついてきた」と、(スウェーデン人らしくない)自尊的コメントを付け加えている。
最近、フランスでは社会保障を厚くすることで出生率が回復しつつあるという新聞記事を読みました。疑問なのですが、
①フランスに行ったとき移民の多さとその子供たちの多さに驚きました。出生率回復には移民の力が大きいのでは? また、フランス人、スウェーデン人に関わらず、公費が自分たちのルーツを持たない人間に使われることをどう思っているのですか?
②世界人口が60億人を突破し、そのため人類は食量、水、石油などの天然資源、その他をめぐって利権争いをしています。どうして、賢いヨーロッパ人の間(EU)の間で世界人口の削減の話がでないのですか?
10年前に比べ発展途上国も豊かになり、今では中国などの国にも寿司ブームが起こり、水産資源をめぐる問題も出てきています。資源不足、もしくはそこから派生される問題は、現在一番に思い浮かぶのがバイオエタノールの問題かもしれません。
今は影響が少ないかも知れませんが、アフリカ、その他の発展途上国の国々でも医療の進歩などにより、(乳児の)死亡率が低下しています。また、これから
発展途上国の国々が発展し、将来的に現在の先進国と同じ生活レベルを維持できるようになったとき、上記の利権をめぐる争いは今よりも激しさを増し、いわゆる世界での「格差社会」はより広がるような気がします。
欧米では聖書の考え方があるので、「世界人口を減らしていこう」ということになったら、''Oh my
God!!!''の話でしょう。 しかし、世界経済は発展していく、発展させることが前提なので、世界は年金などの問題ばかりにとらわれず、人口問題を真剣に考えなくてはいけない時点にさしかかっている時だと気づく必要があるのかもしれません。
長くなり、またスウェーデンの話題からかなり逸れてしまい申し訳ありません。
これからもブログを続けてください。楽しみにしています。また、楽しい休暇をお過ごしください。
②の点については面白い指摘だと思います。少子化の議論で焦点となっているのは、社会の高齢化が進む中で、少ない労働人口によって高齢世代を養っていくのが難しい、ということです。一方、ご指摘のような地球上の資源の限界という点からの人口抑制論は先進国では聞かれませんね。この二つは全く別問題と考えられているようです。
この理由はハッキリ分かりません。一つ思うのは、人口増加と気候変動のために、アフリカ・アジアの途上国では資源や食料・水の所有を巡って、現実に争いが生じている上、増え続ける人口の一人一人が満足に食べていくほど豊かな社会ではないので、社会・貧困問題と人口増加問題が直結して捉えられているのに対し、そのような問題がない先進国ではこの関連が認識されないためでしょう。少なくとも先進国の人々は人口に多寡に関係なく、ほとんどの人々が満足に食べられるだけの経済・社会システムがすでに成り立っているので、人口抑制は先進国には関係ない、むしろ中国やインドを含む途上国の人口抑制が急務だ、と考えられているのでしょう。
ちなみに、途上国における人口抑制については、手段はあくまで出生率の抑制であって、高い死亡率の放置といった手は倫理的に許されないでしょう。
ただ、環境や資源のキャパシティーの限界を考えた場合に、人口問題に関してどのようなビジョンを先進各国やEUが持っているのか、そもそもそのような大局的な視野を持っているのか、は分かりません。
①に関しては、フランスのことは分かりませんが、
>公費が自分たちのルーツを持たない人間に使われることを
という点に関して、「自分たちのルーツ」があるかないかという区別は的を射ていません。スウェーデンのルーツがある人・ない人に限らず、職がある人はしっかり働いて労働所得を稼ぎ、所得税・消費税etcを国に納め、そのほかの形でも社会に貢献しています。失業率は移民の背景を持つ人々がどうしても高くなりますが、移民・難民ならすべてが国や社会の“お荷物”になっている、というわけではありません。90年代はボスニア難民が8万人もスウェーデンに受け入れられましたが、苦労しながらもスウェーデン語を勉強して、職を得ようと努力している人や失業者でもボランティアとして社会に貢献しようとしている人もいます。政治家になって社会の意思決定に携わる人もいます。一方で、落ちこぼれて社会給付にばかり頼る人もいます。スウェーデン人の中にもそういう人はいます。
つまり言いたいのは、スウェーデン系の人々、とそうでない人を、それぞれグループとして見る見方はあまりなされない、ということなのです。これはもしかしたら日本人があまり馴染めない(理解しにくい)考え方かもしれません。
あくまで、これは私の意見です。スウェーデン人、日本人に限らず、他の人に同じ質問をすれば、全く違う答えが返ってくるかもしれません。
一方、増え続ける難民・移民の受け入れに危機感を抱いている人々はもちろんいます。反移民政党なども少しずつ勢力を拡大しています。ここ2年でスウェーデンは4、5万人ほどのイラク難民を受け入れていますが、受け入れ手続きやスウェーデン社会へのオリエンテーションに必要な費用、生活保護、言語教育、社会統合などに大きな費用がかかっています。
スウェーデンの各政党は、人道的観点から難民の受け入れは正当化されるべき、だと考えていますが、ただあまりに多くの人々が一度にやってきたために、むしろ「他のEUにも受け入れ責任を分担して欲しい」と悲鳴を上げるようになっています。
一般の人々のレベルでは、難民受け入れに対する嫌悪感は政治家のレベルよりも強いでしょう。
ごめんなさい、長くなってしまいました。
世界的には人口を一定レベルに押さえないと地球が破綻しかねないという問題はあるでしょう。ですが、仮にどこかの先進国が他の国に対して出生率を押さえることを強制しようとしても、それぞれの国の文化や政治形態も異なることもあって事実上不可能です。一番現実的な手段が戦争をしかけて核ミサイルでも撃ち込むことでしょうが、同時に最も非人道的な手段でもあります。(そもそも地球環境に悪影響を与えるので本末転倒です。)
ある一カ国で考えた場合は、人口は緩やかに減少させることは可能かもしれませんが、急激な減少は年齢構成がアンバランスになります。それは通常は急激な高齢化を引き起こし、その国に様々な歪みをもたらすでしょう。これは今の日本を見れば良く分かることですね。晩婚化と出生率の減少、それによる急激な高齢化。これにバブル崩壊と諸々の要因が重なって、自治体の経営破綻も年金破綻も時間の問題かもですよ。
次のステージは人材の海外流出かな?
>強制しようとしても、それぞれの国の文化や政治形態も異なることもあ
>って事実上不可能です。
ただ、アフリカやアジアの途上国では、避妊器具の普及によって人口成長に歯止めをかける試みもあります。これには、エイズの蔓延の防止という目的も同時にあります。それから、計画的な家計管理や長期的視野に立った思考を人々に心がけさせるという脱貧困のための政策の一環でもあるでしょう。(つまり、人々が無計画に子供を生むのではなく、自分の家計や経済力、生活状況に応じて計画的に子供を作る、という先進国では当たり前の考え方ができなければ「貧困の罠」を抜け出せない)
これらの試みの現状はよく知りませんし、実現のためには簡単ではないでしょうが、効果を発揮してもおかしくない気がします。
上のハウエルさんの指摘は、このように途上国で人口調整が試みられている一方で、先進国ではむしろ人口を増やそうとしているのは、大きな矛盾ではないか?ということです。
そのような問題提起が先進国でなされないのは、先進国ではおっしゃるように急激な人口構造の変化への危機感が強いためでしょう。それから、先進国と途上国では事情が全く異なっており、先進国で人口を増やしたところで、無計画な増加や貧困の深刻化とは無関係だからでしょう。特に年金財政という時限爆弾がありますからね。
人材の海外流出も気になります。日本ではそのような兆候は見られますか?