デンマークが危機に立っている。ことの発端はこうだ。デンマークの大手日刊紙が去年の9月末、新聞の挿絵にイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を使った。そこには陰険なテロリストに扮したムハンマドが描かれていた。直後に、イスラム圏の国々がデンマークに対して抗議をしたり、風刺画を書いた作者に殺人を仄めかす脅迫状が送られたりした。このような抗議活動もここまで大きなニュースになるほどではなかった。
しかし、今年に入ってから、デンマークに対する不信感に再び火がついた。ノルウェーのキリスト教系の雑誌が、この風刺画を掲載したのだ。直後からパレスチナやイラクを始め、エジプトやサウジアラビアなどのイスラム教圏の各地でデモが起こり、デンマーク人に対する脅迫やデンマーク製品のボイコット運動がここ1、2週間で日増しに激化している。赤地に白十字のデンマークの旗も燃やされている。しかも、スウェーデン人もこの騒ぎの中で一緒くたにされ、とばっちりを受け始めている。被害を未然に防ぐため、デンマークやノルウェーだけでなく、スウェーデンの大使館職員やビジネスマン、NGO職員なども、これらの地域から一時的に退避を始めている。そのため、スウェーデン国内でも一大ニュースになっている。
1989年に“悪魔の詩(うた)”という本が西側世界で出版された際には、イスラム教圏で大問題になったが、今回の事態も第二のケースになるのではないか、との声もある。
デンマーク本国でも、件の新聞社に対して爆破予告が昨日と今日、立て続けにあったり、イラクに駐留するデンマーク軍にも脅迫があった。アメリカのイラク戦争にずっと協力してきたデンマークに対しては、根強い反発が以前からあった。これも拍車を掛けている。
それにしても、問題となっている風刺画の出版から4ヶ月も経った今になって、イスラム教の人々の怒りが爆発したことに、北欧の人々は驚きが隠せないようだ。ふとしたところで、再び火がつき、それが見る見る間に大衆的な抗議活動に発展していったと思われる。そして、扇動された大衆感情が、反欧米感情を掲げるグループに利用されている。
今回の風刺画のいさかいは、国王でもイエス・キリストでもゴシップや風刺画の題材にしてしまう北欧の国々にとってはなかなか理解しにくい話だが、単なるカルチャー・ショック以上の根本的な問題も含んでいそうだ。
(追記:TTさん、追加情報ありがとうございました。一部訂正しました。)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060130-00000199-jij-int
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060202-00000012-san-int
日本の新聞記事も、自分で検索したのですが、うまく見つけることができませんでした。上のリンク、重宝しました。今や、日本のメディアも大々的に扱っているような感がしますが、いかがでしょうか?
「文明の衝突」のような表現が使われていますか?
ちなみに、日本での最初の報道と思われる10月21日の産経新聞の記事は以下の通りです。気になったので、パソコンに残しておいたのですが、もうネット上では見れないようです。著作権の問題等がある場合は、このコメント消去してください。
ノルウェーの総選挙の記事などを幾つか比較して読んだことがあるのですが、産経新聞の記事が一番まともだったような気がします。まぁ、ネット上に出てくるものだけを見ているのでなんともいえないのですが。
*************************************
新聞にムハンマドの漫画 イスラム教徒ら、デンマークでデモ
【ロンドン=蔭山実】デンマークの主要紙が掲載したイスラム教預言者、ムハンマドの漫画が、イスラ
ム教諸国のデンマーク駐在大使らを憤慨させ、イスラム教に関する報道の見直しを迫られたラスムセン首
相が対応に苦慮している。首都コペンハーゲンではイスラム教徒らによるデモも起きている。
BBCテレビによると、デンマーク紙ユランズ・ポステンが先月、ムハンマドを描いた漫画を掲載。こ
れにアラブ諸国とパキスタン、イラン、インドネシアなどのイスラム教諸国計十カ国の駐デンマーク大使
らが「偏見だらけの原理主義者として描いている」と反発し、ラスムセン首相に文書で抗議した。
イスラム教社会ではムハンマドを描くことすら禁じられているという。同紙では二十日、漫画を描いた
二人の漫画家が殺害の脅迫を受けたと伝えられ、首相報道官によると、ラスムセン首相も事態を重くみて
、近く何らかの回答を示す意向だ。
首相は今年七月にも、イスラム教に関する報道への苦情を受けてイスラム教社会の指導者と会談した。
その際は新聞の報道姿勢には触れなかったが、ユランズ・ポステンは欧米のルールに基づく報道と表現の
自由を訴え、抗議に反論した。
インドネシア大使館の参事官はデンマークのラジオで、「預言者に対するイスラム教徒の感情も理解し
てほしい。ユランズ・ポステンは謝罪すべきだ」と主張している。
(産経新聞) - 10月21日15時48分更新
情報ありがとうございます。そうなんですね。産経新聞の国際欄もチェックしてみます。
---
デンマークや件の新聞社の擁護として「言論・出版の自由」という言葉がヨーロッパでも盛んに使われていますが、どうも二つの意味がごっちゃまぜで使われているような気がふとしました。
一つは、「言論・出版の自由」=「思ったこと、考えたことを何でも自由に表現していい」。Jyllands-postenを擁護すべく、安易に風刺画の掲載を行った、フランスの新聞なんかは、こんな意味合いで使っているみたいです。ただ、以前も書いたように、自由の行使には、責任が伴うことを、あまり理解していない、安易な主張が多いように見受けられます。
もう一つは、「言論・出版の自由」=「政府の検閲なしに民間メディアが自由に主張でき、彼らの書くこと・伝えることに政府が責任を負わない」というもの。今回、争点にすべきなのは、むしろこの意味合いでの「言論の自由」だと思います。
でも、ヨーロッパの議論でも、この二つが混同されているために、「自由」名の下でやりたい放題の西側メディア vs 怒り狂うイスラム教徒 みたいな単純な構図に描かれがちなのは、いかがなものかと、ふと思いました。