スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

イェヴレ市のヤギ人形

2006-12-31 10:14:04 | コラム
スウェーデンのクリスマスや新年を祝うときに登場する伝統的なシンボルといえば、ワラで作ったヤギの人形Julbockと呼ばれるものだ(bockはヤギの意、ご指摘ありがとうございます)。クリスマスの飾り物として使われたり、今ではそれほど一般的でないにしろ、クリスマス・ツリーの飾り物にされることもある。このヤギの飾りの歴史はかなり長く、古くはキリスト教が北欧に伝わる以前に信仰されていた古代神話にまでさかのぼるという。この神話の中では、雷の神様であるTor(トール)は2頭のヤギに引かれたソリに乗って天空を駆け抜けたという。そのヤギにちなむ、という説がある。

ストックホルムから北方に120kmほど行ったところにあるGävle(イェヴレ)には毎年、このヤギをかたどった、巨大なワラ人形が街中に登場し、クリスマスに先駆けた雰囲気を醸し出す。

しかし、巨大で人目につくところに展示されている上、可燃性の高いワラでできているという性質のために、毎年毎年、地元のワルがきどもの悪戯に遭うのだ。つまり、クリスマスや新年が来るのを待たず、火をつけられて燃やされてしまうのだ。

この巨大なヤギ人形の展示は、商工組合や学校など地元の有志によって、毎年12月に設立されるのだが、この伝統が始まった1966年ですら既に、新年1967年の鐘が鳴ったとたんに何者かに火をつけられ、炎上してしまう。

その後、ほとんど毎年のように、クリスマスや新年を待たず、火をつけられてしまう。焼くのは免れたとしても、代わりに何者かによって殴り倒されたり、車が突っ込んで倒壊した年もある。ある年は、建てられてからわずか6時間後に炎上、灰と化したこともあった。犯人が捕まることもある。この場合、器物損壊という罪の立派な犯罪である。

このような妨害行為にもかかわらず、Gävle(イェヴレ)市の根気の良い人々の手によって、毎年12月になると建てられ、年を追うごとに規模拡大が図られた結果、1985年には高さ12.5mにまでなり、ギネスブックに登場するなど、国際デビューを果たす。1993年には16mに達し、再びギネスの記録を塗り替える。

しかし、ギネスブック以上に、このGävle(イェブレ)のヤギ人形を世界的に有名にしたのは、今年は燃やされるか? 新年まで生き残るか?、という駆け引きである。噂が噂を呼び、1988年にイギリスのギャンブルを皮切りに、ギャンブルで実際にオッズが付けられて賭け事が行われるにまでも至っているのだ。

市民としては、街のシンボルであるこのヤギ人形を新年まで残したい。ということで、有志による見張り番が1990年から登場している。1996年にはウェブ・カメラも取り付けられ、厳しい監視体制に置かれる。

それでも、妨害行為は続く…。(12月13日のルシア祭以前に破壊された場合は、再建されるということに今ではなっている)
1997年:花火をヤギ人形に向かって射撃する者がおり、部分的に炎上するもの生き残る。
1998年:12月11日、雪模様にもかかわらず放火炎上。再建。
1999年:設立後、2時間で放火炎上。再建。
2000年:新年を2日に控え、放火炎上。
2001年:51歳アメリカ人旅行者が放火。このイェブレ市のヤギ人形と放火の伝統を聞きつけてやって来て、犯行に及んだらしい。
2002年:生き残る。
2003年:12月11日、放火炎上。再建。
2004年:12月21日、放火炎上。

そして、2005年が大爆笑! 防犯カメラの厳重なる監視にもかかわらず、ある夜、サンタクロースと、ジンジャー・クッキー男(Pepparkaksgubbe)の着ぐるみを着た2人組がヤギ人形にある一定距離まで近づいたと思ったら、彼らは突然、弓矢を取り出し、矢の先に火をつけて、発射。見事命中し、炎上。大きな全国ニュースになる。犯人は不明。

というわけで、今年2006年は、防犯カメラ以上のハイテク技術に頼ることになる。航空機の機体の炎上防止にも使われる防火剤をヤギ全体に使ったのだ。今年も例年のごとく、12月15日の時点で放火行為があったものの、このおかげで部分的炎上に留まり、いまだに生存。

さて、新年まであと1日。果たして、生き残るのか・・・?


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4 コメント

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Unknown (Yoshi)
2007-01-13 22:05:20
そうらしいです。
あごの下がひげというのが、よくできています。
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Unknown (izumi)
2007-01-07 19:16:13
あぁ、あれはヤギだったんですね!!
私は想像上の動物だと思ってました。笑
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Unknown (Yoshi)
2007-01-04 22:14:53
ハハハ、恥ずかしい間違いでしたね。

どこかで「ヘスト」と聞いたか読んだような気がして、それからずっと馬だと思い込んでいました。実はあの原稿を書いている段階にも、友人にbockってヤギのことだよね、と指摘されていたのですが、あえて調べることもせず、思い込みのままかいてしまいました。ご指摘大歓迎です。
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馬ではありません・・・ (fuku)
2007-01-03 23:29:32
初めまして。時々、ブログを拝見しています。
私もスウェーデン在住なのですが、政治の話などになると、スウェーデン語では理解しにくい部分も多く、Yoshiさんのブログで勉強させていただいています。

ところで、私も最初。julbockを「馬」だと思っていたのですが、これは「ヤギ」なんだそうです。
アゴの部分のもしゃもしゃっとしたのが、ヒゲだと聞きました。

これからも、ブログを楽しみにしています!
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