異なる発電形態における発電コストの優劣について世界的にも様々な議論があるが、スウェーデンでも新規で発電所を建設した場合の1kWhあたりのコストについて、だいたい3年おきに報告書が発表されている。最新の報告書は今年5月に発表された。作成している機関は「スウェーデン電力研究所」という、電力業界の各社が出資して設立された研究所だ。
ただ、電力業界の各社といっても、日本のように東北電力や東京電力、関西電力など、それぞれの地域で独占を維持している「殿様企業」の集まりではない。ヴァッテンファル、E-on、フォートゥムといった原発を所有・運転している大手電力会社だけでなく、水力発電所しか持たない地方の電力会社や、風力発電所を所有・運転する企業・組合の連合体、発電と暖房用熱水供給を併せておこなっている地方のエネルギー公社やゴミ処理施設で発電する公社など様々だ。そのため、原発一辺倒ではなく、客観的で公平な評価をしてくれることが期待できる。
その報告書で比較されているのは、これから新規の発電施設を建設した場合の発電コストの比較である。既に運転し、減価償却の大部分を終えたような施設の発電コストの比較ではない。電力会社をはじめとする投資主体がこれから新たな発電施設を建設したい場合に、コストの面からどの発電形態を選ぶだろうか?というのが比較の目的だからである。
そのため比較の対象となっているのは、現時点で最新鋭と考えられる発電施設である。詳しくは以下の通り。
【 原子力発電所 】
第3(+)世代と呼ばれ、現在フィンランドやフランスなどで建設が進む、発電出力160万キロワット(kW)の原子炉。発電効率36%。
この報告書の発表は2011年5月である。福島原発の大惨事を受けて、既存および今後建設される原子炉は今まで以上の安全対策が講じられると考えられ、そのためのコストが追加的にかかると見られている。しかし、今回のこの報告書では、そのコストを十分に吟味する時間がなく、今回の調査では加味されていない。(報告書上では、一応「限界的な(=わずかな)上昇に過ぎないと考えられる」としている。)
参考のために、160万キロワット(kW)という規模がどのものかを理解してもらうために、日本にある既存の原子炉と比較すると、福島第一原発の1号機(1971年運転開始)が46万kW、2~5号機(74年~78年運転開始)がそれぞれ78.4万kWであるのに対し、現在建設中の島根原発3号機は137.3万kWである。スウェーデンの既存の原子炉を見てみると、一番小さいものが50万kW、一番大きいものが123万kWである。
【石炭火力発電所】
ヨーロッパで最新の石炭火力発電施設である、発電出力74万kWの発電所。粉末状にした石炭を280気圧・620度の炉で燃焼させる。発電効率は46%。
参考のために、東京電力の常陸那珂火力発電所の1号機(石炭・2003年運転開始)が100万kW。北海道電力の苫東厚真発電所4号機(石炭・2002年運転開始)が70万kW。中国電力も三隅火力発電所(島根県)に出力100万kWの発電機(石炭・1998年運転開始)を持っている。
【天然ガス火力発電所】
発電出力42万kW。発電効率は58%。
【水力発電所】
スウェーデンもかつては100万kW級の大規模な水力発電所を建設したこともあったが、河川の生態系への影響も大きく、今後は新設するとすれば小規模な水力発電所に限定されると考えられている。
そのため、今回の報告書においては、新規建設は5000kWの水力発電所のみが考慮されている。スウェーデンの電力業界の定義では、小水力発電は出力が200kW~5400kWまでのものとされているため、小水力発電に分類されることになる。
それに加え、償却の終わった既存の9万kW級の水力発電所に、大規模な改良・メンテナンスを行って、今後も数十年間使えるようにした場合の、コストについても比較対象としている。
【風力発電所】
洋上の発電所は、以下の2つのケースを対象とする。
・羽の直径が126mで出力5000kWの発電機 × 75基=37.5万kW
・羽の直径が90mで出力3000kWの発電機 × 50基=15万kW
陸上の発電所は、以下の3つのケースを対象とする。
・羽の直径が110mで出力3000kWの発電機 × 20基=6万kW
・羽の直径が90mで出力2000kWの発電機 × 5基=1万kW
・羽の直径が64mで出力1000kWの発電機 × 1基=1000kW
複数の風力発電機を集中して設置すると効率が若干低下する(例えば、1列にたくさんの風力発電機を並べた場合、1基目の羽によって風のエネルギーが少し弱まり、2基目は1基目ほど発電できない)。この報告書では、その影響も考慮に入れた上でコスト計算をしている。
【各種コジェネ発電所】
コジェネとは、発電と熱水供給を同時に行う施設である。通常の火力発電では、燃料の持つエネルギーの3割か4割ほどしか電力に変えることができない(ただし上記のように、最新技術を駆使した大型施設であれば5割から6割まで高めることができる)。残りのエネルギーは熱として本来なら煙突から放出されるため、その熱をうまく回収して温水を作り、それを一般家庭やオフィスビルなどに配管を通じて供給し、暖房として使うのである。燃料は石油、石炭、天然ガスやバイオマス、ゴミなど燃えるものなら何でも使える。発電と熱利用を合わせたエネルギー効率は90%を超える。
この報告書では、天然ガスとバイオマスを使うコジェネ発電施設について、それぞれ規模の異なる施設の発電コストを比較している。
ゴミを燃料とするコジェネ発電所も調査し、それに加え、ゴミを他国から輸入するケースについても比較している。
さて、結果はどうか?(以下、コストの単位は円。もともとはスウェーデン・クローナだったが、私が1クローナ=13円で換算した)
まず、税や補助金を含めない場合のコスト比較の結果(1kWhあたり・円)
次に、税や補助金を含めた場合のコスト比較の結果(1kWhあたり・円)
参考までに、上記の両方を一つのグラフで同時に示してみます。
このグラフを基にした私なりの考察や、計算に使われている様々な仮定・条件については、次回書くことにします。
ぱっと見て、ゴミ発電(コジェネ)が非常に低コストであることにビックリされる方もおられるでしょう。これは、ゴミ収集のためにスウェーデンの自治体が手数料を住民から徴収しているため、燃料費が実質的に「マイナス」であるためです。
これに対し、輸入ゴミを利用したコジェネ発電は、ゴミを外国から買わなければならないため、発電コストが他の発電形態と同じくらい高くなるわけです。
ただ、電力業界の各社といっても、日本のように東北電力や東京電力、関西電力など、それぞれの地域で独占を維持している「殿様企業」の集まりではない。ヴァッテンファル、E-on、フォートゥムといった原発を所有・運転している大手電力会社だけでなく、水力発電所しか持たない地方の電力会社や、風力発電所を所有・運転する企業・組合の連合体、発電と暖房用熱水供給を併せておこなっている地方のエネルギー公社やゴミ処理施設で発電する公社など様々だ。そのため、原発一辺倒ではなく、客観的で公平な評価をしてくれることが期待できる。
その報告書で比較されているのは、これから新規の発電施設を建設した場合の発電コストの比較である。既に運転し、減価償却の大部分を終えたような施設の発電コストの比較ではない。電力会社をはじめとする投資主体がこれから新たな発電施設を建設したい場合に、コストの面からどの発電形態を選ぶだろうか?というのが比較の目的だからである。
そのため比較の対象となっているのは、現時点で最新鋭と考えられる発電施設である。詳しくは以下の通り。
【 原子力発電所 】
第3(+)世代と呼ばれ、現在フィンランドやフランスなどで建設が進む、発電出力160万キロワット(kW)の原子炉。発電効率36%。
この報告書の発表は2011年5月である。福島原発の大惨事を受けて、既存および今後建設される原子炉は今まで以上の安全対策が講じられると考えられ、そのためのコストが追加的にかかると見られている。しかし、今回のこの報告書では、そのコストを十分に吟味する時間がなく、今回の調査では加味されていない。(報告書上では、一応「限界的な(=わずかな)上昇に過ぎないと考えられる」としている。)
参考のために、160万キロワット(kW)という規模がどのものかを理解してもらうために、日本にある既存の原子炉と比較すると、福島第一原発の1号機(1971年運転開始)が46万kW、2~5号機(74年~78年運転開始)がそれぞれ78.4万kWであるのに対し、現在建設中の島根原発3号機は137.3万kWである。スウェーデンの既存の原子炉を見てみると、一番小さいものが50万kW、一番大きいものが123万kWである。
【石炭火力発電所】
ヨーロッパで最新の石炭火力発電施設である、発電出力74万kWの発電所。粉末状にした石炭を280気圧・620度の炉で燃焼させる。発電効率は46%。
参考のために、東京電力の常陸那珂火力発電所の1号機(石炭・2003年運転開始)が100万kW。北海道電力の苫東厚真発電所4号機(石炭・2002年運転開始)が70万kW。中国電力も三隅火力発電所(島根県)に出力100万kWの発電機(石炭・1998年運転開始)を持っている。
【天然ガス火力発電所】
発電出力42万kW。発電効率は58%。
【水力発電所】
スウェーデンもかつては100万kW級の大規模な水力発電所を建設したこともあったが、河川の生態系への影響も大きく、今後は新設するとすれば小規模な水力発電所に限定されると考えられている。
そのため、今回の報告書においては、新規建設は5000kWの水力発電所のみが考慮されている。スウェーデンの電力業界の定義では、小水力発電は出力が200kW~5400kWまでのものとされているため、小水力発電に分類されることになる。
それに加え、償却の終わった既存の9万kW級の水力発電所に、大規模な改良・メンテナンスを行って、今後も数十年間使えるようにした場合の、コストについても比較対象としている。
【風力発電所】
洋上の発電所は、以下の2つのケースを対象とする。
・羽の直径が126mで出力5000kWの発電機 × 75基=37.5万kW
・羽の直径が90mで出力3000kWの発電機 × 50基=15万kW
陸上の発電所は、以下の3つのケースを対象とする。
・羽の直径が110mで出力3000kWの発電機 × 20基=6万kW
・羽の直径が90mで出力2000kWの発電機 × 5基=1万kW
・羽の直径が64mで出力1000kWの発電機 × 1基=1000kW
複数の風力発電機を集中して設置すると効率が若干低下する(例えば、1列にたくさんの風力発電機を並べた場合、1基目の羽によって風のエネルギーが少し弱まり、2基目は1基目ほど発電できない)。この報告書では、その影響も考慮に入れた上でコスト計算をしている。
【各種コジェネ発電所】
コジェネとは、発電と熱水供給を同時に行う施設である。通常の火力発電では、燃料の持つエネルギーの3割か4割ほどしか電力に変えることができない(ただし上記のように、最新技術を駆使した大型施設であれば5割から6割まで高めることができる)。残りのエネルギーは熱として本来なら煙突から放出されるため、その熱をうまく回収して温水を作り、それを一般家庭やオフィスビルなどに配管を通じて供給し、暖房として使うのである。燃料は石油、石炭、天然ガスやバイオマス、ゴミなど燃えるものなら何でも使える。発電と熱利用を合わせたエネルギー効率は90%を超える。
この報告書では、天然ガスとバイオマスを使うコジェネ発電施設について、それぞれ規模の異なる施設の発電コストを比較している。
ゴミを燃料とするコジェネ発電所も調査し、それに加え、ゴミを他国から輸入するケースについても比較している。
さて、結果はどうか?(以下、コストの単位は円。もともとはスウェーデン・クローナだったが、私が1クローナ=13円で換算した)
まず、税や補助金を含めない場合のコスト比較の結果(1kWhあたり・円)
次に、税や補助金を含めた場合のコスト比較の結果(1kWhあたり・円)
参考までに、上記の両方を一つのグラフで同時に示してみます。
このグラフを基にした私なりの考察や、計算に使われている様々な仮定・条件については、次回書くことにします。
ぱっと見て、ゴミ発電(コジェネ)が非常に低コストであることにビックリされる方もおられるでしょう。これは、ゴミ収集のためにスウェーデンの自治体が手数料を住民から徴収しているため、燃料費が実質的に「マイナス」であるためです。
これに対し、輸入ゴミを利用したコジェネ発電は、ゴミを外国から買わなければならないため、発電コストが他の発電形態と同じくらい高くなるわけです。