スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ユーロ・プロジェクトの致命的な問題

2010-03-17 18:11:02 | スウェーデン・その他の経済
ギリシャだけでなく、スペインポルトガルなども財政危機に瀕しており、抜本的な財政緊縮政策を求められている。年金の給付水準の引き下げや、退職年齢の引き上げ、公務員の給与カットなどが発表されており、反発が強まっている。

しかし、今回の問題は、統一通貨ユーロというプロジェクトが潜在的に抱え持っていた問題であり、起こるべくして起こったともいえる。

一つの理由は、既に何回か書いたように、経済基盤が大きく異なる国々が同じ通貨を用いるため、経済力がもともと弱かった国にとっては通貨が過大評価されることになり、その結果、国際競争力が損なわれ、他のユーロ参加国との経済格差がさらに広がってしまうことだ。経済力の割に人件費が高すぎ、国際競争力が弱くなっている国であれば、為替レートが変動することで外貨建てにした場合の人件費が抑えられ、国際競争力が回復したであろうが、統一通貨の下ではその調整メカニズムが働かない。

もう一つの理由は、ユーロ参加諸国全体をカバーする「財政政策」が存在しないことだ。現状のように、一部の国が経済的に落ち込んでしまい、財政赤字が大きく、国債残高も累積してしまうと、統一通貨ユーロの信頼性を揺るがす恐れがあるから、他の国が財政支援などを行って、遅れた国を支援してやる必要がある。しかし、今のところ、ユーロ内でそのようなシステムはない。ギリシャを巡る論争でも「加盟国それぞれが自助努力で危機から抜け出すべき」という原則論が叫ばれてきた。

ユーロ圏全体の財政政策がないのにはもっともな理由もある。ある加盟国が後先考えずに財政支出だけを拡大して、国債をバンバン発行した結果、窮地に陥ってしまったときに、他の国がレスキュー隊のように駆けつけて後始末をしてくれるのであれば、深刻なモラルハザードを引き起こす可能性がある。だから、財政赤字はGDPの3%までに抑えるように、というルールが設けられてきた。

しかし、残念ながらその先のことはあまり考えられてこなかった。つまり、ある国がこのルールを違反したときはどう対応するのか? ルールとして課す以上、加盟国には守ってもらいたい。とすれば、違反したときには何らかのペナルティーを与える必要がある。その国に深刻な帰結をもたらしかねない、何か重大な罰則がいい。罰金? 国の資産の差し押さえ?

でも、財政難に陥ってルール違反を犯す国というのは、多くの場合、経済的にうまくいっておらず、ユーロ圏全体の足を引っ張っている国だ。そのような国に、高額の罰金を課したりすれば、経済がさらに疲弊して、財政的にさらに厳しくなるという悪循環に陥りかねない。

だから、モラルハザードを引き起こさないような形で財政支援を行うような制度が必要となる。

先週はドイツやフランスの財務大臣が間接的にギリシャを支援することを発表した。直接お金を融資すると「自助努力を行う」という原則に反してしまうので、あくまで、ギリシャ政府が発行する国債を直接引き受ける、もしくは信用保証をおこなう(ギリシャが支払不能に陥ったときには代わりに支払いを行うという約束)という形だ。とにかく、今の大きな問題は、ギリシャが新規に国債を発行しようとしても、リスクが高いために利子率が高騰しているということなのだ。

一方で、ペナルティーについても議論されている。欧州中央銀行(ECB)における議決権を1年間停止するとか、場合によっては、ユーロから追放する、つまり、再び自国の通貨を導入させる、という案も検討されているとか。