(朝刊より)
「原子力ムラ」は3・11後も何の反省もしていない。憤りと同時に、「やっぱり」との思いがつのる。
原子力委員会の事務局(内閣府)が、電力会社など原発推進の側だけを集めた非公式な会合を20回以上も重ね、核燃料サイクル政策の見直しを議論する小委員会の審議前に情報を流していた。
会合に小委員会から出席していたのは座長だけ。報告書案も事業者に有利になるよう書き換えられていた。
原子力委員会への信用を根本から揺さぶる事態である。偏向したやり方が発覚した以上、組織は白紙から見直すべきだ。これまでの議論も不正な点がないか検証する必要がある。
原子力委員会は、国の原子力政策の基本を決める役割を担ってきた。親委員会のもとに、いくつかの小委員会や専門部会が置かれている。原子力を推進する最高機関である。
原発事故を受けて、原子力安全・保安院や原子力安全委員会など規制機関については改組が決まったが、原子力委員会は手つかずだ。
今回の不祥事をみる限り、「原子力ムラ」の巣窟になっているとしか思えない。
例えば、事務局には以前から電力会社や原子炉メーカーの出向社員が複数、常駐しているという。おかしな話だ。
原子力に批判的な識者からは「意見が反映されない」との不満もあがっていた。
別の委員会に属する浅岡美恵弁護士は、審議が事務局に誘導されたり、実際の議論と事務局がまとめる内容に隔たりがあったりすることを詳細な資料にして提出している。
非公式会合はこうした中で明らかになった。浮かび上がるのは、事務局を通じて利害関係者が情報を入手し、委員を差し置いて政策を取り仕切ろうとする「ムラ」そのものの図式だ。
原子力委員会は原子力政策大綱の改定も審議している。核燃サイクル問題とあわせて政府のエネルギー・環境会議に複数の改定案を示し、政府は他のエネルギー政策とともに「国民的議論」を経て決める段取りだ。
だが、こんな行為が繰り返された末にできた「案」を、どうやって信用しろというのか。
野田首相、細野原子力担当相は事態を深刻に受け止めるべきだ。実態の解明を急ぐ。委員長らの進退を含め、組織のあり方を抜本的に改める。
そこからやり直さないまま、原子力政策を議論しても、誰も信用しない。