ポケットの中で映画を温めて

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『スポットライト』を観て

2016年04月21日 | 2010年代映画(外国)
『スポットライト』(トム・マッカーシー監督、2015年)を観てきた。

2001年の夏、ボストン・グローブ紙に新しい編集局長のマーティ・バロンが着任する。
マイアミからやってきたアウトサイダーのバロンは、地元出身の誰もがタブー視するカトリック教会の権威にひるまず、
ある神父による性的虐待事件を詳しく掘り下げる方針を打ち出す。
その担当を命じられたのは、独自の極秘調査に基づく特集記事欄《スポットライト》を手がける4人の記者たち。
デスクのウォルター"ロビー"ロビンソンをリーダーとするチームは、事件の被害者や弁護士らへの地道な取材を積み重ね、
大勢の神父が同様の罪を犯しているおぞましい実態と、その背後に教会の隠蔽システムが存在する疑惑を探り当てる・・・・
(公式サイトより)

作品はいたって正攻法な作り方で、実在の話を、記者たちの名も本名のまま使っている。
なので、内容をあらかじめ知っていても何の支障もないと思うし、むしろ予備知識があったほうが、よりわかり易いぐらいである。
ただ、私が苦手とする会話を主としたストーリー展開だから、気を抜いて観ると筋から置いてけぼりそうになる。
でも内容の重大性からして、苦手なんて呑気なことは言っていられない。

ことの発端は、1976年に地元ボストンでゲーガン神父が多数の児童に性的虐待をしたとの疑惑が持ち上がる。
が、うやむやのまま闇に葬り去られてしまう。
その“ゲーガン事件”を新任局長のバロンが詳しく探るよう意向を出す。
なにしろ明るみに出せば、地域に深く根ざしている教会を敵に回すような記事である。
そして、グローブ紙の購読者53%が信者であることを考えると、社運にとって無謀というか、すごく勇気がいる。
それを、着々と調査、取材し、個々の神父を裁くのではなく背後に教会が隠ぺいしていた事実を、翌年の02年1月、とうとう記事にして発表する。
映画としては、そこまでの道のりをじっくりと映し出す。

聖職者による児童性的虐待といっても、日本人として少しピンと来ないところがあるけど、
宗教が自然に身に付いているだろうアメリカ人からすれば、大変なスキャンダルである。
神に近い神父が、貧しい家庭のおとなしそうな子に目をつける。
目を掛けられた子や、その親は大変栄誉な出来事となる。
だが、ターゲットされた子はいずれ餌食となる。
そして、そのことを親にも、ましてや他人に相談することができない。
その結果、それが原因のトラウマになって精神が病んだり、挙句の果ては自殺者まで出る。

片や神父の方は、いざ、ばれた時は貧乏な家が相手だから賠償金でと、計算が働いている。
教会という絶対権力の「組織」が、このような事実を把握しながら疑惑の神父をどうしたか。
遠くへ転任させるなどして事実を隠ぺいし、事をなしにする。
それによって、これらの神父が行先で同じことを繰り返し、悪と被害がどんどん散らばっていく。
判明したアメリカ国内の都市が105、それ以外の国・地域の教区が102。その地名が映画のエンドクレジットに出る。

現実の暴露は、映画の終わった場面以後から真に始まり、発表後、次々と虐待被害が明るみに出てくる。
それを、《スポットライト》チームは600本近くの記事にし、それによって、03年ピューリッツァー賞調査報道部門を受ける。
今回、《スポットライト》チームに敬意を表する形で作成されたこの映画は、アカデミー賞を受賞した。
『大統領の陰謀』(アラン・J・パクラ監督、1976年)が、ウォーターゲート事件を扱ったように、
これら一連の報道、映画化について考えるとき、アメリカの良心の一端をみる思いがする。

しかし、この事件は終わったわけではなく、パンフレットによれば、
2014年の時点で、アメリカ国内では6,427人の神父が17,259人を性的虐待したとして、その罪に問われていると言う。

(注) これらのことに関しては、 Wikipediaに「カトリック教会の性的虐待事件」として概要が出ている。

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2 コメント

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Unknown (グライセン)
2016-04-22 06:57:21
神父や牧師と言っても人ですからね・・・
それにしても性的虐待って職以前に人としてどうなのか・・・って話ですよね。
所で、映画は字幕派ですか?吹き替え派ですか?
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>グライセンさんへ (初老ytおじ)
2016-04-22 10:12:53
>映画は字幕派ですか?吹き替え派ですか?
グライセンさんのこの記事よみました。私も字幕派です。
吹き替えだと、言葉のニュアンスとか奥行きが平面的になってイメージが変わってしまうからです。
この映画、字幕をいっぱい読んで頭の中でストーリーを組み立てなければいけないので、テレビドラマが好きな人だったら、そんなに苦にせず内容が追えるかなと思いました。
このような社会的問題作、事柄を知るきっかけとして、なるべく観るように私は意識したりしています。
そして、事件の全体を知るために、今回は珍しくパンフレットが役立ちました。
それによると、アメリカ全体の男性人口に対する性犯罪率が4%で、聖職者・神父だけが決して多いわけでなく普通だそうです。
この映画がらみですと、聖職者が相手にした児童は80%が男子だそうです。
もっとも、女性がもっと名乗り出ればその比率は変わるかもしれないと思います。
それにしても、こんな話を知ると信じられないというか、驚きがいっぱいです。
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