ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『スリー・ビルボード』を観て

2021年04月28日 | 2010年代映画(外国)
今回、『ノマドランド』(クロエ・ジャオ監督、2020年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが、
前回にも同賞を受賞している『スリー・ビルボード』(マーティン・マクドナー監督、2017年)を前々から観たいと思っていて、この機会に観てみた。

ミズーリ州の田舎町エビング。
7か月前に何者かに娘を殺されたミルドレッドは、一向に進展しない捜査に腹を立て、
大通りに面した3枚の広告看板に、警察署長のウィロビーを批判するメッセージを掲げる。
人情味あふれるウィロビーを敬愛する町の人々はミルドレッドを敵視するようになり、
捜査を進展させようとしたはずが、孤立無援になっていく・・・
(MOVIE WALKER PRESS)

ティーンエイジャーの娘アンジェラがレイプされた上に焼殺された母親のミルドレッド。
犯人の手掛かりを掴めない警察に不信感を抱くミルドレッドは、事件を風化させたくないという思いもあって、殺害現場近くの道路脇に長い間放置され、
朽ち果てたままその存在すら忘れ去られていた3枚の巨大な看板に、新しく広告内容を掲げる。

ミルドレッドの犯人逮捕に執着する理由には、殺害された当日のアンジェラとのやり取りに対する自責の念がある。
それは、友人らと遊びに出かけるために車を貸して欲しいと頼むアンジェラに、その素行の悪さに悩ますミルドレッドが断ったこと。
そして、歩いて行けばいいという母親に、アンジェラは「暗い夜道でレイプされたらどうするの?」と反論し、つい「レイプされればいい」と応じてしまったこと。

ミルドレッドの犯人捜しについての執念、それに対する警察との軋轢、地元民からの偏見と冷たい仕打ち、それらが軸となって物語は進み、
犯人は見つかるだろうかとのサスペンス的要素に目が離せない。
しかし、その内容はミルドレッドの家庭崩壊や、警察署長ウィロビーの職務と自身の末期癌に対する思い、部下の差別主義者であるディクソン巡査とか、
その他諸々の人間関係、心情がみごとに映し出されて進行する。

意志の強い母親を演じるフランシス・マクドーマンド、偏見主義者ディクソンのサム・ロックウェルほか出演者の見事さには目を見張らされる。
そして、ほとほと感心させられるのは、観客がこうだろうと予想する筋書きを見事にずらしながら展開していく人間の内面ドラマの脚本。
その方法は余りにも凄すぎると唸るしかない。

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