ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『はちどり』を観て

2022年10月18日 | 2010年代映画(外国)
『はちどり』(キム・ボラ監督、2018年)を観た。

1994年、ソウル。
家族と集合団地で暮らす14歳のウニは、学校に馴染めず、 別の学校に通う親友と遊んだり、男子学生や後輩女子とデートをしたりして過ごしていた。
両親は小さな店を必死に切り盛りし、 子供達の心の動きと向き合う余裕がない。
ウニは、自分に無関心な大人に囲まれ、孤独な思いを抱えていた。

ある日、通っていた漢文塾に女性教師のヨンジがやってくる。
ウニは、 自分の話に耳を傾けてくれるヨンジに次第に心を開いていく。
ヨンジは、 ウニにとって初めて自分の人生を気にかけてくれる大人だった。
ある朝、ソンス大橋崩落の知らせが入る。
それは、いつも姉が乗るバスが橋を通過する時間帯だった。
ほどなくして、ウニのもとにヨンジから一通の手紙と小包が届く・・・
(公式サイトより)

ウニの家族の描かれ方を見ていると、1990年代の韓国はまだ相当に家父長制となっているようで、
支配的な父親が、家族に対する抑圧は多少緩やかになっていたとしても、母親や兄・姉、そしてウニは当然逆らえない。
そんな父は、いずれ兄デフンにはソウル大学に入学をと期待する。
中学2年生のウニは勉強が好きでなく、兄からは殴られたりして、バラバラな感じの家庭の中で居場所が定まらない。
ウニの心は揺れ動き、ボーイフレンドのジワンと一緒にいるのは心地良いが、
それでも、親友ジスクと万引きに手を染めて店主に捕まり、連絡を受けた父親は警察に引き渡してもらってもいいと言う。

そんな少女ウニの心の満たされない日常の中にあって、ジスクと二人で通う塾の新しい先生ヨンジに出会い、
内に秘めた感じのヨンジになぜか徐々に親しみを覚え、自分の拠りどころとなっていく。
そればかりか、後輩の少女ユリからは恋愛の感情に似た憧れの思いの熱意で慕われたりもしていく。

しかし、それもこれも壊れたり再生したり、そしてまた崩れ去って行ったりして、揺れ動く心のウニは、
先生ヨンジの悲しい出来事とも相まって、これからも続いていく日々の中で少しずつ成長していくのではと予感する。
その中心点にあるのは、多少ギクシャクしながらもやはり家族の愛と絆の結びつきと想像する。

一人の少女をこのように中心に据え、ドラマぽくなくリアルで繊細な心の綾を紡ぎ出す演出を、
第一作目の作品として監督するキム・ボラという人の今後に恐ろしさも感じ、心に沁みるこれ程の傑作は久し振りと感心した。

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2 コメント

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Unknown (Izumi)
2022-10-19 15:55:35
『はちどり』はDVDで観ました。
1965年頃の日本、私の中学時代と似ているなぁ、と思いながら観ました。習い事も塾も好きな部活もしていましたが、それでも親は"女は~" と言って、兄弟とはなんとなく差別?区別?していましたね。男親が一番、そんな時代でした。
主役の女の子の真っ直ぐな哀しみを秘めた眼差しが痛々しくも綺麗でした。

韓国映画には、高校生の女の子を描いたキム・ギドク監督の『サマリア』や、はちどりで塾の先生役をしたキム・セビョクさんも出演したホン・サンス監督『逃げた女』など、日常を切り取った、むやみに絆などを誇張しない、そんな秀逸な映画がありますね。
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>Izumiさんへ (ツカヤス)
2022-10-19 21:30:30
コメントありがとうございます。
久し振りにいつまでも心に残る作品を観た、と感じました。
その良さを文章に書き切れないもどかしさがありますが、しかしこの作品の中に登場する人々の、演技ではないと思われる自然体の振る舞いを見ていると、どの一コマを捉えても、ただ“いいなぁ”と、のめり込んで観てしまいました。
最近の日本映画は、だいぶ前から失望する作品が多すぎて余り観ていません。
ですので、日本映画でもこの作品に匹敵するようなのがあるのかなぁ、あれば観てみたいと思っていますが、その前に期待する気持ちが萎えてしまっています。
と思うのは、独断と偏見すぎるかもしれませんが、それ程この「はちどり」には心底感心しました。
「サマリア」はキム・ギドクを観るキッカケとなった作品で、鮮明な印象のまま脳裏に焼き付いています。キム・ギドクの後半期は案外つまらない作品もあったりすると感じても、あの「サマリア」のような作品を残す監督がもう生存していないことは非常な残念な思いで悔やまれます。
「逃げた女」は未見ですので機会をみて鑑賞してみたいと思っています。
コメントありがとうございました。
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