ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『異端の鳥』を観て

2020年10月21日 | 2010年代映画(外国)
久しぶりに映画館に行ってきた。
観た映画は、チェコ・ウクライナの『異端の鳥』(ヴァーツラフ・マルホウル監督、2019年)。

東欧のどこか。
ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である一人暮らしの老婆が病死した上に火事で家が消失したことで、身寄りをなくし一人で旅に出ることになってしまう。
行く先々で彼を異物とみなす周囲の人間たちの酷い仕打ちに遭いながらも、彼はなんとか生き延びようと必死でもがき続ける―。
(公式サイトより)

この作品は九つのエピソードで綴られる。
その内容と言えば、この少年が行く先々で異端とみなされ、一般の村人たちに排除される残虐性に満ち溢れている。
その象徴として、いろいろな鳥がそのエピソードに関して出てくる。

幼い少年の、出生がユダヤ人である烙印された少年の、偶然に行きゆく先々の運命。
そこには生きるための少年の糧に対する、恵むものの支配力が垣間見える。
それをこの作品はリアルに、もっと言えば剥き出しに現実として見せる。
だから当然、上品な人間だったら見たくないもの見せられたりしてしまって、賛否両論となったというのも理解できる。
例えば、若い女が性の欲求不満に少年を代用しようとしてうまくいかず、その後、邪険にしたりする。
それに対して少年が自分の思いの丈を表現するすべは、裏返しの残虐性に行き着くのではないか。

要はこの作品は、余りにも人間性が剥き出しに提示される。
それを白黒画面で、鮮明な画像として自然そのものも映し出す。
その自然描写だけでも感嘆するのに、その中に繰り広げられる少年の運命は、やはり衝撃を与えられる。
私は、このような作品を傑作のうちと考える。
それ程、衝撃度が強い。
もっとも、この剥き出しの倫理観によって拒否する人がいるだろうことも理解する。
コメント
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