ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『ウインド・リバー』を観て

2018年07月30日 | 2010年代映画(外国)
新作『ウインド・リバー』(テイラー・シェリダン監督、2017年)を観てきた。

ワイオミング州のネイティブアメリカンの保留地。

野生生物局のハンター、コリー・ランバートは、別れている妻の親が住むウインド・リバー居留地に息子と向かう。
家畜を襲うピューマ狩りを依頼されたコリーは、雪深いなかピューマを追っていて、若い女性の死体を発見する。

コリーが部族警察長ベンに連絡して、FBIとしてやって来たのは新米の女性捜査官ジェーンだった。
ジェーンは、慣れない寒さと吹雪のために、この地をよく知るコリーに捜査協力を頼む・・・

死亡していたのは、18歳の少女ナタリー。
場所は、周囲に民家さえない雪原の中。
そして、気温がマイナス30度程になるのに素足のままであった。

検死の結果は、強姦のあとはあるが、極限の冷気を吸い込んだうえでの肺出血による窒息死なので、他殺とは認定できないと言う。
しかしナタリーは犯人から逃走中だったはずだから明らかに殺人事件だと、ジェーンは執念を燃やす。

話が進むうちに、コリーの娘エミリーの身に起こったことも明らかになる。
だから、コリーにとって家族崩壊の元となった復讐も絡む。

久々に面白い映画である。
大自然の雪の中、コリーとジェーンを乗せたスノーモービルでの謎解きに、観ていて緊張する。
このピーンと張り詰めて、グイグイと進んでいく辺りは、なかなか心地よい。
そればかりか、テイラー・シェリダンは、背景にあるネイティブアメリカンの実情を、社会問題とまではせずに自然にあぶり出す。
そして、人間関係の微妙なあやを見事に描き出す。

と言ってもラスト近くで、謎解きを飛ばして、急に犯行シーンになる辺りからの活劇調には驚いた。
反ってこれがあるから、深刻な社会劇にならずに十分に楽しめて、観てよかったと満足する作品になったと思っている。
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『上海から来た女』を観て

2018年07月25日 | 戦後40年代映画(外国)
『上海から来た女』(オーソン・ウェルズ監督、1947年)を借りてきて観た。

宵のニューヨーク・セントラルパーク。
散歩中のマイケルは馬車の女性エルザを見そめる。
その直後、マイケルは彼女の悲鳴を耳にし、駆けつけて暴漢をやっつける。
彼が助けたエルザは、弁護士で資産家のバニスターの妻だった。

マイケルが船乗りであると知ったエルザは、自分の船で働いてくれないかと頼む。
エルザの申し出を断った翌日、仕事斡旋所に来ていたマイケルのところにバニスターが来て、結局マイケルは雇われる。

豪華なヨットは、カリブ海からパナマ運河を抜け、メキシコ沿岸からサンフランシスコへと航海する。
そしてその途中で、グリズビ-と名乗るバニスターの同僚も乗り込んでくる・・・

物語は、マイケルが自分の身に起きたことを語るナレーションで進み、
その当人のマイケルは、何故あんなことをしてしまったのかと後悔し、その内容が徐々に明らかになっていく。

その内容とは、ふとしたキッカケで殺人事件に巻き込まれ、その男がたどっていくサスペンス・スリラーの趣きである。
それは、マイケルたちがサンフランシスコに到着した以降に、明らかに事件としての様相を帯びてくる。

グリズビーが、マイケルに5000ドルで自分を殺せと持ちかける。
と言っても実際には殺した振りだけで、結果的に死体がなければマイケルの殺人は成立しないから大丈夫と言う。
それに、保険を掛けているグリズビーの方も、別れないという妻から開放されると、誤魔化す。

それを承諾したマイケルだったが、そのグリズビーが実は死体で見つかったことで、殺人の嫌疑で裁判に掛けられていく。
この裁判でマイケルの弁護人を務めるのがエルザの夫バニスターで、彼はマイケルが妻を好きだということが解っていて、内心マイケルを有罪にしたがっている。
そのためマイケルは、益々不利な状況になっていく。

製作・監督・脚本はオーソン・ウェルズ。
オーソン・ウェルズといえば、当然『市民ケーン』(1941年)。

結末としてのジョージ殺しの犯人の動機にイマイチ納得できないが、不幸なことにこの作品は、会社の意向によって1時間もカットされズタズタにされてしまったと言うから、正当な評価はやはりできないのではないか。

しかし映像的な魅力でいえば、水族館を背景としたシーンとか、特にラストの遊園地でのクレイジー・ハウスから鏡の部屋の、そこに展開される映像マジック。
この「鏡の部屋」のシーンは、ブルース・リーの『燃えよドラゴン』(1973年)のあの鏡の間の対決シーンへと引き継がれていく。
そのようなことを考えれば、やはりこれは偉大な作品であることに間違いない。
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マルセル・カルネ監督作品

2018年07月24日 | 目次・マルセル・カルネ作品
1.マルセル・カルネ・1~『ジェニイの家』
2.マルセル・カルネ・2~『霧の波止場』
3.マルセル・カルネ・3~『北ホテル』
4.マルセル・カルネ・4~『陽は昇る』
5.マルセル・カルネ・5~『天井桟敷の人々』
6.マルセル・カルネ・6~『嘆きのテレーズ』
7.マルセル・カルネ・7~『愛人ジュリエット』
8.マルセル・カルネ・8~『港のマリィ』
9.マルセル・カルネ・9~『枯葉 ~夜の門~』
10. マルセル・カルネ・10~『悪魔が夜来る』
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ルネ・クレール監督作品

2018年07月24日 | 目次・ルネ・クレール作品

1.ルネ・クレール・1~『巴里の屋根の下』
2.ルネ・クレール・2~『最後の億萬長者』
3.ルネ・クレール・3~『沈黙は金』
4.ルネ・クレール・4~『幽霊西へ行く』
5.ルネ・クレール・5~『自由を我等に』
6.ルネ・クレール・6~『奥様は魔女』
7.ルネ・クレール・7~『眠るパリ』
8.ルネ・クレール・8~『幕間』
9.ルネ・クレール・9~『リラの門』
10.ルネ・クレール・10~『夜ごとの美女』
11.ルネ・クレール・11~『そして誰もいなくなった』
12.  ルネ・クレール・12~『ル・ミリオン』
13.  ルネ・クレール・13~『巴里祭』

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ジュリアン・デュヴィヴィエ監督作品

2018年07月24日 | 目次・ジュリアン・デュヴィヴィエ作品
1.ジュリアン・デュヴィヴィエ・1〜『商船テナシチー』
2.ジュリアン・デュヴィヴィエ・2〜『白き処女地』
3.ジュリアン・デュヴィヴィエ・3〜『地の果てを行く』
4.ジュリアン・デュヴィヴィエ・4〜『ゴルゴダの丘』
5.ジュリアン・デュヴィヴィエ・5〜『望郷』
6.ジュリアン・デュヴィヴィエ・6〜『舞踏会の手帖』
7.ジュリアン・デュヴィヴィエ・7〜『巴里の空の下セーヌは流れる』
8.ジュリアン・デュヴィヴィエ・8〜『にんじん』
9.ジュリアン・デュヴィヴィエ・9〜『我等の仲間』
10.ジュリアン・デュヴィヴィエ・10〜『グレート・ワルツ』
11.ジュリアン・デュヴィヴィエ・11〜『逃亡者』
12. ジュリアン・デュヴィヴィエ・12〜『モンパルナスの夜』
13. ジュリアン・デュヴィヴィエ・13〜『パニック』
14. ジュリアン・デュヴィヴィエ・14~『神々の王国』
15. ジュリアン・デュヴィヴィエ・15~『旅路の果て』
16. ジュリアン・デュヴィヴィエ・16〜『アンナ・カレニナ』
17. ジュリアン・デュヴィヴィエ・17〜『運命の饗宴』
18. ジュリアン・デュヴィヴィエ・18〜『リディアと四人の恋人』
19. ジュリアン・デュヴィヴィエ・19〜『肉体と幻想』 
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ジャン・ルノワール監督作品

2018年07月24日 | 目次・ジャン・ルノワール作品
1.『ピクニック』(1936年)を観て
2.ジャン・ルノワール・1〜『素晴らしき放浪者』
3.ジャン・ルノワール・2〜『どん底』
4.ジャン・ルノワール・3〜『フレンチ・カンカン』
5.ジャン・ルノワール・4〜『大いなる幻影』
6.ジャン・ルノワール・5〜『ゲームの規則』
7.ジャン・ルノワール・6〜『黄金の馬車』
8.ジャン・ルノワール・7〜『南部の人』
9.ジャン・ルノワール・8〜『河』
10.ジャン・ルノワール・9〜『自由への闘い』
11.ジャン・ルノワール・10〜『浜辺の女』
12.ジャン・ルノワール・11〜『獣人』
13. ジャン・ルノワール・12~『牝犬』
14. ジャン・ルノワール・13~『十字路の夜』
15. ジャン・ルノワール・14~『ランジュ氏の犯罪』
16. ジャン・ルノワール・15~『ラ・マルセイエーズ』
17. ジャン・ルノワール・16~『小間使の日記』


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ジャック・フェデー監督作品

2018年07月24日 | 目次・ジャック・フェデー作品
1.ジャック・フェデー・1〜『外人部隊』
2.ジャック・フェデー・2〜『女だけの都』
3.ジャック・フェデー・3〜『ミモザ館』
4.ジャック・フェデー・4〜『鎧なき騎士』
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『王手飛車取り』を観て

2018年07月18日 | 1950年代映画(外国)
『王手飛車取り』(ジャック・リヴェット監督、1956年)を観る。

ある月曜日、クレールは「妹に会いに行く」と夫ジャンに言って、実は愛人のクロードのアパートに行く。
クロードはクレールに毛皮のコートをプレゼントするが、クレールとしては、それをそのまま家に持ち帰る訳にもいかない。
そこで、クロードに駅の手荷物預り所に預けさせ、預り証はタクシーの中で拾ったことにする。

家に帰ったクレールは荷物にこだわって、翌日夫にそれを取りに行くことを約束させる。
そして次の日、夫が引き取って来たカバンを開けてみると、中には安物のウサギの毛皮が入っていた。

その夜、ジャン夫婦の家ではパーティが開かれ、現われたクレールの妹ソランジュが着てきたのは例のコートだった・・・

邦題は将棋用語だが、原題からするとチェスの最短負けのこと。
クレールからすると、クロードからのプレゼントに関してうまく夫を騙すつもりでいたが、まんまと夫にしてやられ、それも妹と出来てしまっていたという内容。

この作品は、クロード・シャブロルが妻アニエス・ヴァルダの祖母の遺産を相続して出資し、かつ『カイエ・デュ・シネマ』誌の同人たちも出資しての、彼ら若手批評家による商業映画第一作目の短編映画(30分弱)であり、ここからヌーヴェル・ヴァーグが始まっていく。
だから、製作にはクロード・シャブロルもいるし、脚本・台詞にはリヴェット、シャブロルのほかフランソワ・トリュフォーもいて、
それ以降のヌーヴェル・ヴァーグにとっての、貴重なとても興味深い内容となっている。
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ジャン・ルノワール・11~『獣人』

2018年07月16日 | 戦前・戦中映画(外国)
『獣人』(ジャン・ルノワール監督、1938年)を観た。

パリ、ル・アーヴル間の機関士であるジャック・ランティエが、ル・アーヴル駅に着いて列車を点検してみると車軸の修理の必要性があり、そのため3日間の足留めをくらう。
その間にランティエは、ブレオテで踏切の番人をしている代母のミザー夫人に会いに行く。
そして、久し振りに見る娘のフロールが美しくなっているのを感じたランティエは、彼女に恋愛感情を抱く。
抱擁する二人だったが、ランティエは、いつしか無意識のうちにフロールの首に手を掛けて絞めようとしていた。

一方、ル・アーヴルの駅長ルボーは、些細なことで地位が危なくなり、有力者で、妻セヴリーヌの代父でもあるグランモランにどうにかして貰いたいと考える。
セヴリーヌを通して解決の手筈を得たルボーだったが、嫉妬深いルボーは、妻とグランモランの仲を疑い、とうとうセヴリーヌに白状をさせる。
ルボーはセヴリーヌに手紙を書かせ、“サン・ラザール駅6:20発”ル・アーヴル駅行きの同列車にグランモランも乗せる。

その列車には、丁度、ミザー夫人の元から帰るランティエも途中から乗り合わせる。
怒りに燃えるルボーはセヴリーヌを連れて、グランモランがいる個室座席に行き彼にナイフを突き刺す。
慌てて自分たちの座席に戻るルボー夫婦は、たまたま通路の向こうにランティエが出ている姿を見て・・・

犯行がばれたと思ったセヴリーヌは、ランティエを味方に付けようと近づいていく。
片やランティエは、取り調べにルボー夫婦を見たことは喋らない。

知り合いになる、ランティエとセヴリーヌ。
ランティエは、セヴリーヌを愛してしまう。
だがセヴリーヌは、私に必要なのは何でも話せる親友だと言う。
それでも、急速に親しくなる二人。

こうなると、今度は夫が邪魔になる。
セヴリーヌは、夫が死んでくれたら悩みがなくなり自由になれるのに、とランティエに言う。
ランティエは、ルボーを殺害しようとする。
だが、どうしても殺せない。

二人だけの世界を作るため、ランティエは再度、実行しようとする。
ところがその直後、物語は意外な方向に進んで行く。

冒頭、ランティエには遺伝的な精神の病があり、時折、自分の意志とは関係なくある行為を犯してしまう、とある。
だから、突然のその発病を恐れているランティエは、好きになったフロールとの結婚も諦めている。
そして、ラストの悲劇もこの病に負っている。

内容的には、いざという時に現われるこの病が何となく安易に感じられ、そればかりか、ルボーがグランモランを殺害しようとする動機も完全には納得できない。
それでも、ランティエとセヴリーヌの恋愛シ-ンは、ジャン・ギャバンとシモーヌ・シモンの雰囲気がよく、二人の思いが溢れている。
それに、何度も現われる機関車が驀進するシーンの力強さが、全体を引き締めて飽きない。
だからこの作品も、私にとって愛すべき作品のひとつと言える。
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『ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生』を観て

2018年07月07日 | 2010年代映画(外国)
気になっていた『ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生』(ルイーズ・オズモンド監督、2016年)をレンタルしてきた。

ケン・ローチは、現在のイギリスにおける最も優れた映画監督である。
この作品は、そのケン・ローチの最新作『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)の撮影風景を映しながら、BBCへ入社した60年代以後の映画人生を追ったドキュメンタリーである。

友人でありプロデューサーのトニー・ガーネットの語りと、本人ケン・ローチの思い、過去の作品場面等によって映像は進む。

ケン・ローチは2014年、50年に渡るキャリアに終止符を打つため引退を表明する。
しかし翌年、保守党が選挙で圧勝したために、その2ヶ月後、引退を撤回して最後の映画に着手する。
それが『わたしは、ダニエル・ブレイク』である。

トニー・ガーネットは言う、「ケン・ローチはとても上品で礼儀正しく、控えめで寡黙な紳士だが、実際はイギリス史上もっとも左翼的な映画監督だ」と。
そのケン・ローチは、“社会には相反するふたつの力が働いている、世の中のその状況を伝えたい”と常に意識している。
そして、「人々の暮らしについての映画を作るなら、政治は不可欠だと考えている」と言う。

その視点から、ケン・ローチは労働者階級に寄り添いながら、社会をありのまま描く。
また、その視野に沿いながら国境を越えた問題も扱ってきた。

この『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、監督作としての50本目であり、BBC時代のテレビドキュメンタリー『キャシー・カム・ホーム』(1966年)の製作から50周年目となる。
その『わたしは、ダニエル・ブレイク』が、『麦の穂をゆらす風』(2006年)に続いてカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞する。
しかし、ケン・ローチがいかにフランスや全ヨーロッパで崇拝されていても、イギリスの人たちは左程知らない。
そればかりか、保守党の政治家や右派の、作品を観ていないし観たくもないと考える人が攻撃を加える。

では、ケン・ローチの何が凄いのか。

そもそも、ケン・ローチの映画作りは、まず出演者に演技指導をしない特徴がある。
演技を離れた、本人の人としての内面を描き出そうとする。
出演者がその人物に一体となりその状況を作り出すため、撮影は物語に沿って時系列的に撮る。
その結果得られるのは、声なき人々からの「近所の誰かの話みたいだった」という感想。

ケン・ローチの個々の作品からのメーセージは、「自分たちの人生が投影されていることを気付いてほしい、その人生は政治の影響を受けているから」と言うこと。
ケン・ローチは政治を意識しながらも、声高には作品に投影しない。
そこにあるのは、労働者とか下級生活者に寄り添った愛情ある表現である。

このドキュメンタリーは、ケン・ローチの人を知るうえで映像的魅力もあり優れた内容となっている。
そう言えば、この最も尊敬するケン・ローチのことをもっと知りたいと『ケン・ローチ 映画作家が自身を語る』(フィルムアート社:2000年10月)を読んでから、もう15年以上になる。
このドキュメンタリーの刺激で、再読してみようかと思う。
そして、2000年以前の映画作品が探せれば、再確認も含めて観てみたいと思う。
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