ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『エレナの惑い』を観て

2020年12月09日 | 2010年代映画(外国)
『エレナの惑い』(アンドレイ・ズビャギンツェフ監督、2011年)を観た。

モスクワ、冬。
初老の資産家と再婚した元看護士のエレナは、生活感のない高級マンションで、一見裕福で何不自由のない生活を送っている。
しかしその生活で夫が求めるのは、家政婦のように家事をし、求められるままにセックスをする従順な女の姿だ。
そんな生活の中で、彼女は夫の顔色をうかがいながらも、唯一の自己主張のように、前の結婚でもうけた働く気のない息子家族の生活費を工面している。
しかしそんな日常は、夫の急病により一変する。
「明日、遺言を作成する」――。
死期を悟った夫のその言葉と共に、彼女の「罪」の境界線がゆらいでいく。
そして、彼女がとった行動とは・・・
(公式サイトより)

ゆったりと流れる日常生活。
端から見ると初老夫婦の何気ない生活のなかにも、じっくりとみてみると問題は潜んでいる。
妻のエレナは、郊外に住む、だらしない息子セルゲイの子、サーシャの行く末を気にする。
そのセルゲイは、不良仲間とつるむサーシャに説教するはずが、つい一緒にオンラインゲームに夢中になる。
そんな最低な親子でも、サーシャが大学に行けないとなると必然的に軍隊行きとなるのを気に病む。
だからその大学行きの資金のためにセルゲイは、エレナの夫の金を当てにし、エレナ自身もどうにかしなければとヤキモキする。

片やエレナの夫ウラジーミルには、一人娘のカテリナがいる。
カテリナは独立して自由気ままな生活をしているが、父ウラジーミルには反撥心を持っている。
そんなカテリナであってもウラジーミルは内心、娘を溺愛している。

ある日、ジムに行ったウラジーミルはプールで心臓マヒを起こす。
その後一命を取り留めて自宅療養となったウラジーミルは、遺言書をしたためようと考える。
その内容は、すべての財産を娘カテリナに、そして年金はエレナに。

エレナは考える。孫サーシャの大学行き資金が工面できなくなる、どうしょう、と。

普通のおばさん役であるナデシュダ・マキナという人の自然体演技が素晴らしい。
いい年になっても生活費を稼ごうとしない息子親子を、それでもどうにかしようと思う母心から醸し出される雰囲気。
決意を込めた瞬間の静かな行動。
全体が静的に流れる画面の中に緊張感が走る。
そこから湧き出る親子の絆といびつな溺愛関係。
それはエレナの親子関係でもあり、もう一方のウラジーミルと娘カテリナの関係でもある。
それを見事に際ただせる演出とカメラワーク。
唯々魅了される。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 清水宏・8~『花形選手』 | トップ | キム・ギドク監督、死去の報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

2010年代映画(外国)」カテゴリの最新記事