ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

ロベール・ブレッソン・9~『湖のランスロ』

2022年05月22日 | 1970年代映画(外国)
『湖のランスロ』(ロベール・ブレッソン監督、1974年)を観た。

時は中世。
城に帰還したものの、聖杯探しに失敗し多くの戦死者を出したアルテュス王の円卓の騎士たち。
その中のひとり、ランスロは王妃グニエーヴルとの道ならぬ恋に苦悩していた。
神に不倫をやめると誓うランスロだったが、グニエーヴルにその気はない。
仲間のゴーヴァンはランスロを心配するものの、権力を手に入れようと企むモルドレッドは罪深きランスロを貶め、自分の仲間を増やそうと暗躍する。
団結していたはずの騎士の間に亀裂が入り始め、思わぬ事態が引き起こされるのだった・・・
(テアトルシネマグループより)

アーサー(アルテュス)王伝説に由来する円卓の騎士ランスロと王妃グニエーヴルの不義の恋。
この恋に終止符と打つと神に誓ったランスロだったが、グニエーヴルの方は絶対諦めない。
その不義を利用して権力を手にしようと企むモルドレッド。

その辺りをブレッソンは、登場人物の感情の流れをカットし、シーンとシーンの繋ぎも大胆にカットしながらひとつの物語としていく。
そればかりか王、王妃と言えば、きらびやかであったり権威的であったりするのをイメージするが、ここでは全く素朴な普通な人物として提示する。

画面カットの独自性にも目を見張らされる。
騎馬槍戦では、騎士の顔は一切写さず、騎馬の胴体が中心。
そして勝った負けたは、次に出場する騎士の旗によって表現し、倒れた騎士は甲冑のため表情は判らない。
それが何度も何度も繰り返される。

併せて効果を上げるのが、音響そのもの。
それは騎馬のいななきであったり、蹄鉄の音や重そうな鎧のガシャガシャ音。
他にも、騎馬槍戦で何度も反復されるバクパイプの演奏。
そのような音を繰り返し聞くうちに、いつしか独特の雰囲気にのめり込まれていく。

この作品を鑑賞し、ついつい中毒になりそうで何度でも観てみたくなる誘惑にかられた。

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ロベール・ブレッソン・8~『たぶん悪魔が』

2022年05月16日 | 1970年代映画(外国)
『たぶん悪魔が』(ロベール・ブレッソン監督、1977年)を観てきた。

裕福な家柄に生まれた美貌の青年シャルルは、自殺願望にとり憑かれている。
政治集会や教会の討論会に参加しても、違和感を抱くだけで何も変わらない。
環境破壊を危惧する生態学者の友人ミシェルや、シャルルに寄り添う2人の女性アルベルトとエドヴィージュと一緒に過ごしても、死への誘惑を断ち切ることはできない。
やがて冤罪で警察に連行されたシャルルは、さらなる虚無にさいなまれていく・・・
(映画.comより)

DVDには成っているが、ブレッソンのこの作品と『湖のランスロ』が日本初公開ということでミニ・シアターに行ってきた。

作品の舞台はパリ。
銃弾を2発受けて死んだ青年の6ヶ月前に遡り、その後の日常や行動を追っていく。

で、その感想はと言うと、97分の作品がとても長く感じられて苦痛でしょうがなかった。
まず、何が言いたいのかのテーマがちっとも伝わらなくって、どこへ連れていってくれるのかも判らなく、つい少し気を緩めると瞼が三度ほど閉じてしまった。
だから、観てから半日しか経っていないのに、内容がおぼろげな状態に陥っている。
ブレッソンだと期待して観たが、折角作品を作るのなら、もっと内容を練りに練って吟味して貰わないと困るなぁ、と言うのが感想でした。

次回は、もう一方の『湖のランスロ』(1974年)について書こうと思っています。
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『エール!』を観て

2022年05月01日 | 2010年代映画(外国)
『エール!』(エリック・ラルティゴ監督、2014年)を観た。

フランスの田舎町で酪農を営むベリエ家。
16歳の高校生ポーラの家族は、両親のルドルフとジジ、そして弟が聾唖者である。
家畜を育ててチーズの販売で生計を立てる家族にとっては、ポーラは健常者との通訳、仲立ちとして必要だった。

ポーラは、気に入る男生徒ガブリエルがコーラス部を希望したため、自分もオーディションを受け入部する。
ポーラの歌声に才能を感じる音楽教師トマソンは、ある日、パリにある音楽学校のオーディションを彼女に勧める。
ポーラは家族のことも考え内緒で、3ヶ月後のオーディションに向け歌の練習をトマソンの自宅で始めた。

その頃、近く行われる村長選に父ルドルフが立候補すると言いだして家族は大忙しとなる。
そんな中、ポーラは両親に歌のことを打ち明ける。
ポーラの歌声を聴くことのできない家族は、彼女の才能を信じることができず、
もし受かってパリに行ってしまったら自分たちはどうすればと不安になり大反対する・・・

1ヶ月ほど前に『コーダ あいのうた』(シアン・ヘダー監督、2021年)を観て、その元となる作品『エール!』を是非観てみたいと思っていた。
観た結果、比較すると、親の職業が漁業と酪農の違い、細かいところでは家族が兄と弟の違い、
また、この作品では父親が村長選に立候補しようとするとかの目に見えた違いはあるけれど、後はほぼ同じ流れ。

本来は『コーダ あいのうた』がリメイク作品なので、この『エール!』から見て『コーダ』の方を感想対象にしなければいけないが、
所詮、観るタイミングが逆になってしまったので以下のような比較印象となってしまう。
『コーダ』は実生活感がリアルに出ていて共鳴するところが非常に多かったが、こちらの『エール!』は生活臭がなぜか薄く、その分全体的にスッキリしていて雰囲気も明るい。
これは良い悪いの問題ではなく、そのような雰囲気が作品の特徴として現われているとしか言いようがない。
だから、『コーダ』を観てしまった後でも、この『エール!』にも十分に感動してしまう。
それ程愛らしい作品であって、もし『コーダ』以前にこれを鑑賞していたならば、その感動は底知れなく倍加していたと確信する。
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