原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

神秘のビール

2011年10月28日 08時07分40秒 | 社会・文化

 昔の話だが「ミュンヘン(独)、サッポロ、ミルウォーキー(米)」という広告があった。サッポロビールのCMである。北緯43度周辺にある都市とビールを結びつけたもの。世界三大ビールを思わせるが、当然ながらこれが世界のベストではない。例えばセントルイスにはアメリカNo.1のブッシュビールがある。チェコやベルギーも有名だし、イギリスのビールも知られている。世界中のどこの国にも名だたるビールがあるのだ。みな同じようにうまい。だが、世界で唯一、誰もまねできないビールが存在する。ベルギーのブリュッセルで製造される「ランビック」だ。これはまさに神秘のビールなのである。

ビールには製造方法の違いで、上面醗酵、下面醗酵の二つに分けられる。醗酵中の酵母の挙動で分けて呼称されているのだが、製造工程にも多少の違いはある。上面醗酵ビールと言えばエールとかトラピストビールに代表され、下面醗酵のビールはいわゆるラガービールとなる。だがいずれのビールも人工のイースト菌を加えてビールを完成させる。ところがこのイースト菌を全く使わずに、空中の微生物を利用して作るビールがある。つまり自然醗酵のビールだ。

自然醗酵ビールの歴史は古い。イースト菌が作られる前はすべて自然醗酵であった。口に含んで唾液を含んで製造するビールも自然醗酵である。このビールも上面醗酵となる。

ブリュッセルのビールも自然醗酵である。空中にある微生物(野生の酵母)を利用するという独特のも。16世紀からブリュッセルでこの製法があったと言われている。とにかく個性的な味でビールのイメージを一新させる。それがランビックビールである。

(カンティオン醸造所)

ランビックビールを製造する醸造所はブリュッセルには10か所ほどある。だが、同じ方式で他の街や他の国で作ろうとしても、これができない。ブリュッセルの街や醸造所の中にある独特の野生酵母がなければランビックはできない。他では作れない、神秘のビールと呼ばれる由縁がここにある。

ブリュッセルを訪れた時、ランビックを製造するカンティオン醸造所を見学させてもらった。やはり醗酵タンクに目がいった。他では絶対見ることができない醗酵タンクだからである。麦を発芽させた麦芽を糖化させ、ろ過して麦汁(ウォート)を作り、ホップを加えて沸騰させる。ここまではどのビールも同じ過程。ここからがランビックは違う。普通はここで醗酵に適した温度まで冷却して、イースト菌を加えるのであるが、ランビックはしない。冷やした麦汁を広く浅い醗酵タンクに入れ、空気にさらすのである。

建物の最上階に8×6メートルの銅製のタンクが置かれていた。深さは30センチほど。大きなタライと思えばいい。タンクの上は建物の屋根だが、そこにはたくさんの穴があいている。空中にある酵母を取り込むためであった。穴からは空が見えていた。こんなビール工場はさすがに見たことがない。雨が降ったらどうするのだろうと思ってしまう。実際は大丈夫らしいが、ユニークすぎる。

(これが醗酵タンク。屋根には小さな穴が)

仕込みは11月から5月にかけて行われる。これは日本酒などと同じで、夏に一番おいしい状態で出荷できるようにするためであった。多くのランビックの製造工場がそうであるが、昔ながらの家内生産。少人数で製造している。多少は機械化されてはいるがほとんどが手作業であった。

さて、その味である。まだラベルが貼っていない瓶から注いでもらった。口あけのランビックである。ビールの色は普通であった。少し濃い感じかな。一口含んだ。突然、強烈な酸っぱさが口の中に広がった。梅干をガブリとかんだ感じ。今までまったく味わったことがないビールの味である。これはちょっと無理、と言うのが初めての感想であった。

このあと、樽で熟成させ、古酒とブレンドして作るグーズランビックや、チェリーをいれたクリークランビックを飲み、こちらはおいしいと思った。それほど、純粋のランビックは強烈だった。

ブリュッセルのパブでは普通にランビックがある。つい通ぶってランビックをオーダーしていた。相変わらず酸っぱい味が口を襲う。だが、パブで飲んだ二回目は、醸造所で最初に受けた強烈な衝撃はない。少し慣れたのかなと思った。調子に乗って二杯目三杯目と重ねる。するとどうだろう、何とも言えないおいしさを感じ始めた。大自然の中にいるような、実にいい心地よさがある。そこからだった、ブリュッセルにいる間中、ランビックを飲み続けることになったのである。やみつきと言うヤツである。その味は今でも蘇るほど忘れ難いものとなった。

帰国後、日本でもランビックビールを探し求めた。やはり日もちや輸送の問題があるのだろう。グーズランビックやクリークランビックはあったが、本来のランビックはなかった。いつの日かまたあの味にお目にかかりたいと、願っている。

(手作業で瓶を箱へ)

明日の29日から、プロ野球はクライマックスシリーズが始まる。札幌を本拠地にする日ハムが果たして日本シリーズにいけるかどうか?また、ビールを飲みながら観戦の日々が始まる。メジャーではミルウォーキー・ブルワーズがブッシュビールがあるセントルイス・カージナルスにポストシーズンで負け、ワールドシリーズに出場できなかった。北緯43度つながりで日ハムが敵を討てるかどうか。菅野を略奪された巨人軍が究極の下剋上を達成できるか。遺恨を懸けて日本シリーズが日ハムと巨人になったら一段と面白い。ランビックは飲めないが、ビールの量はどうやらしばらく減りそうにもない。ちなみに私はサッポロ派。キリンもアサヒも飲まない。道産子はやはりそうなる。発泡酒はビールではないので、もちろん飲まない。


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2 コメント

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日本酒の酵母も・・ (numapy)
2011-10-28 12:06:25
神秘のビールは飲んだこともありません。名前さえも知らなかった。ただ、アメリカ、テネシーで何と言うビールだったか、酸っぱいビールを飲んだことはあります。でも、ビールの美味さは日本がイチバンと思い込んでたので、思わず吐き出した記憶があります。
日本酒でも、野生の酵母を探し続けてる人がいるそうです。なかなかぶち当たらないそうですが・・。
明日からCSですね。楽しみだけど、ビールを飲めなくなった。これが哀しい。
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体調のせいですか? (原野人)
2011-10-28 16:15:27
ビールが飲めないというのは?
酒類は体調がいい時にもむのがベストです。そうでなければ、おいしくない。おいしくない酒は悪酔いの原因にもなります。体調を整えてから飲みましょう。
当方は、幸いにも飲める体調です。
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