遠い記憶の中に“ほうずき”があった。赤い袋を裂くと、中には赤く丸い実。その実が柔らかくなるまで手で揉み、中身を絞りだす。皮だけになった袋に空気を入れて、それを口に含み、舌で押すと音が鳴る。ブーッ、とか、ギュッという音が。懐かしい、たわいない子供の遊びである。だが、子供の頃、この音を鳴らすことができなかった。いくら教えられても音が出ない。生来の不器用さがそうさせた。以来、この遊びをしていない。学校に上がる前のことだったと思う。ほうずきを見るたびに、馴染めなかった記憶が蘇る。ほうずきは、女の遊びだ、という私なりのこだわりも、実はあった。
なぜ、女の子の遊びなのだ、と聞かれると、答えに困る。特別な理由などない。たぶん、ほうずき遊びを教えてくれたのが、少し年上の女の子だった(姉ではない)からではないだろうか。なんとなく意地悪な教え方であったと記憶している。教え方のせいで音が出なかったというわけではない。ただ、こんなおんなの遊びができるか、という反発心があった。以来、ほうずき→おんなの遊び→きらい、となったような気がする。ほうずきが何となく好きになれなかった根拠はこんなところだ。幼児体験とは、かくも恐ろしいものだ。
山歩きを終えて、家に帰る途中で庭の畑になる朱色の実を見た。一瞬でそれがほうずきであることは分かった。その鮮やかな色合いに多少驚いていた。ほうずきって、こんなきれいな色していたのか、と、あらためて思った。実を包むガクという袋の色のきれいさに初めて気づいた。ゆっくり近づき、カメラに収めた。ファインダー越しに眺めながら、長い間目をそむけていた己の浅知恵を恥じていた。
*ほうずきは鬼灯と表記する。実を包む袋の形が提灯に似ているところから、精霊棚(盆棚)に枝つきで飾るようになったとか。提灯の代わりである。鬼は中国では小さな赤という意味もある。そんなところから鬼灯と表記されるようになった。後になって、お盆の時期に死者の霊を導く提灯という意味が加えられた。ちなみに英語ではChinese lantarn plantとなる。どうやら、ほうずきは中国からの渡来らしい。
*赤色は雷がきらいという言い伝えから、雷よけに使うこともある。
*酸奨と表記することもある。これは中国では漢方薬として使われていたから。酸奨根(さんしょうこん)は堕胎薬ともなる。このせいなのか、昔から妊婦にはほうずき遊びはさせなかった。
*ほうずきという名前は、果実を鳴らして遊ぶ子供たちの頬の様子から、頬突きが語源となった、という説がある。どうやらこれは後付けのようだ。実際はこの植物がやたらに好きで、いつもまとわりつく虫からきている。匂いが強いカメムシの一種である。この虫の地方名でフウ(九州地方)やホオ(長野地方)があり、ここから「ほうづき」の語源となった。つまり「ホウがつく」植物。現代かな遣いから、「ほうずき」となった。
*今は食用ほうずきもある。また「海ほうずき」というのもある。これはニシン貝(巻貝)の卵嚢をほうずきのように使って遊ぶところから名がついたとか。ほうずき一つにもいろいろな話がついてくる。
*有名な浅草のほうずき市は毎年7月初旬。お盆に飾ることなどから、日本全体では、ほうずきは7月8月に実をつけるのが常識。しかし北国の道東では9月10月に実をつける。
ただ一点、教えてくれた、というよりやって見せてくれたのは農家の男子同級生だった。そこで、自分が鳴らせないコンプレックスが、今に至ってるんじゃないかと…
食用ホウズキ、阿寒でも広がりつつあります。ジャムにしてみたけど、歩留まりが悪い。いろいろ研究中です。それにしても人がいない…
しかしながら、子供の時のイメージと言うものは、結構ひきずるものですね。
鬼灯と表記するのも、この植物の人とのかかわりを感じます。お盆に飾ると言うのは、日本だけなのかな。中国ではこんな風習はないと思うのですが。