会津の猪苗代湖で桜の頃、「花春カップヨットレース」があった。猪苗代湖のそばの花春酒造が主催するレースである。大学の同級生のH氏が猪苗代湖にクルーザーを係留していて毎年このレースへ出ていた。15年くらい前に招ばれて3回ほど参加した。近くの東山温泉で前夜祭のパーティがあり楽しい時を過ごした後にヨットに戻り、H氏手製の洒落たオードブルで飲みなおす。夜が更ければヨットに寝る。
このヨットが珍しい構造である。Yamaha29のセンターコックピット艇である。太くて鈍重な形の船の真ん中にコックピットがあり、後ろ向きについた階段を下りると広々したパーティ向きのスターンルームがある。ギャレーもあり料理も出来る。スターンには大きな窓が2つついている。猪苗代湖は人家が無くいつも闇夜。スターンの窓から見える星空が綺麗である。夜風が吹いて船体を打つ風波の音が爽やかに聞こえる。聞けばH氏はパーティを楽しむために生産中止になっていたこの艇を5年間も探したという。コックピットの下の左右に長いルームがあり、大人が2人眠れる。スターンルームには4人眠れる。
次の朝快晴の空のもとで10時からレースが始まる。広く深い湖は澄み切って、磐梯山が湖面に映ってている。スタートの合図で30艇ほどのクルーザーが、風をつかみ一斉に走り出す。Yamaha29センターコックピットは太くて鈍重。遅い。みるみる抜かれてしまう。ゴールでは後ろから2、3番目になる。でもハンデキャップの点数のお陰で毎年、2位か3位になる。
その後、経済不況になり花春カップレースも中止になる。でも酒は作り続けていた。毎年、花咲く春になると、猪苗代湖のクルーザーレースのことを思い出す。
ここ2、3年、経営を拡大したらしく東京の電車の窓から「会津の地酒、花春」の広告看板を見るようになった。看板を見る度に楽しい思い出に心豊かになる。(終り)