政治の季節【稗史(はいし)倭人伝】

稗史とは通俗的な歴史書等をいいます。
現在進行形の歴史を低い視点から見つめます。

「地方分権」という名の虚構

2009-07-12 15:18:08 | 政治
「地方分権」がにわかに総選挙の最重要争点に躍り出てきた感がある。
今や「地方分権」は無条件に正義である、という論調が日本を覆おうとしている。
たかが二人のお笑いタレント知事に振り回されるこの国の政治基盤の脆弱さにはあらためて愕然とする。
彼等の主張する「地方分権」に対する批判や反論は、自民党からも民主党からもまったく出てこない。

自民も民主もひたすら二人の知事の意を迎えようと見苦しい争奪戦を国民の目の前で繰り広げている。
もっとも、見苦しさという点では自民党の方が数段上ではある。

彼等は都道府県知事会の要請を、踏み絵として各政党に突きつけている。
「中央集権」は悪、「地方分権」は正義、という対立の構図を作り出し、あたかもそれを自明の前提として行動している。

しかし、彼等の言う「中央対地方」という構図は、彼等の勝手な理屈であり、思いこみである。
わたしたち一人一人は、この国の国民であり、それぞれの地域に暮らす地域住民でもある。
わたしたちの目には、彼等の言う「中央対地方」という対立の構図も、「中央の為政者」と「地方の為政者」との対立にしか見えない。
統治する側の論理だけで、統治される側の視点はまったく無視されている。

わたしは現状での「地方分権推進」には反対である。
地方分権を推進するためには、条件がある。
「情報公開」である。
「徹底的な情報開示」を抜きにした「地方分権の推進」はむしろ弊害の方が大きくなるのではないかと危惧するからである。

全国知事会の要請の基本は、財源と権限の移譲である。
しかし、今のままの地方自治体に財源・権限を移譲することが、国民・住民の利益に繋がるのか?

国家公務員より高い地方公務員の給与。
お手盛りで引き上げられ続ける議員報酬。
地方には地方の天下り。
行財政の無駄と無責任。
まったく機能しない監査委員会等。
政官業の癒着構造

中央・地方ともに、情報公開はまったく不十分である。
しかし、中央集権的であればあるほど、監視の目は集中される。
今はまったく不十分であるが、それは国民世論・政治の力で今後改善されていく可能性がある。
これが地方においてはどうか。
監視の目つまりその代表である新聞・テレビ等は当てに出来ない。
地方政治の監視など彼等の利益には繋がらない。
多分販売部数の増加、視聴率のアップにはつながらないだろうから。
オンブズマン制度や市民の活動組織なども、地域によってバラツキが大きすぎる。

わたしたちの回りにいる地方議員を見て欲しい。
市町村レベルでみれば、町内会代表、業界・組合の代表、商店主、建設・土木会社の経営者、地域の名士、大抵は、別に本業を持つ兼業議員であろう。
都道府県レベルでみても大差はあるまい。

こんな連中に今のままで、財源と権限を増やしてやればどうなるか、考えるまでもない。

「地方分権推進」は、せめて「完全情報公開」を達成してからの話である。
情報公開を阻む理由として利用されているのが、「プライバシー保護」である。
それは当然尊重されるべきではあるが、恣意的な解釈を排する規定は厳格に設けられねばならない。
黒塗りだらけの、情報公開の名にまったく値しない資料開示が横行している。
外交・防衛を担当しない地方自治においては秘密にしなければならない情報など、原則的に存在しない。

情報公開と監視機関。
地方分権を推進するためには、不可欠の前提である。

地方自治体の一つの典型として、福島県矢祭町が頭に浮かぶ。
「平成の大合併」に対する抵抗で一躍全国の注目を集めた自治体である。

矢祭町(黒字部分・ウィキペディアより引用)

2001年10月31日 - 市町村合併をしない矢祭町宣言を町議会が可決。


1999年(平成11年)3月末に3,232あった市町村の数は、2006年(平成18年)4月には1,820にまで減少した。
1412の市町村数の減少である。
合併は少なくとも2つ以上の市町村によって行われる。つまり最大で1412×2=2824の市町村が合併を経験したことになる。
(3つ4つの合併もあるから実際にはこれよりいくらか少なくなろう)
3232-2824=408 つまり、合併した側、合併された側、対等合併のいずれも行わなかった市長村数は最小で408ということになる。
(同様に実際はこれよりいくらか多い数になるだろう)

全体の8~9割前後の市町村が国の要請に唯々諾々と従ったのである。
一体彼等に、地方自治体としての自負と能力があるのだろうか?

住民基本台帳ネットワークシステムに非接続
2002年7月、全国で最初に離脱を宣言。個人情報保護の観点と、利用者が年10人足らずだったことから。

新規採用停止(2003年以降)、嘱託職員削減、「収入役」廃止
議会定数削減(18人から10人へ、2002年9月)

町議会が議員報酬を月額制から日当制に変更
月額20万8000円を廃止し議会に1回出席するごとに日当制の3万円とし、ボーナスに当たる期末手当も廃止

2006年には図書館(矢祭もったいない図書館)設立のため蔵書の寄贈を一般に募り、約1年で全国から約43万5000冊の寄贈を受けた(収納容量に到達したため図書の募集は終了した)。建屋は古い武道館を改修した。

削減するだけでなく、住民サービスは格段に向上している。また、大規模で破格的な条件で企業・住宅誘致を行うことで町税の増収を図っている。
介護保険料は福島県で最も安い。


これらは前町長・現町長と継続した動きである。

「地方分権」を叫び、財源と権限の移譲を要求するなら、せめてこれぐらいのことをやってからにしてほしい。





裁判員制度廃止!天下り禁止!議員世襲禁止!


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
zhuzhu@163.com (replicas bag)
2010-08-04 12:42:42
この連中の地方分権は国からいかにお金を持ってくるか、ということだけです。
お金の使い道は道路に箱物。
他にはなにも思いつかないのです。
国民にしてみれば、国に無駄遣いされるのか、ちほうの首長・役人どもに無駄使いされるのか、という不毛の選択を強いられることになります。
返信する
タレント知事に怒りを様 (亭主)
2009-07-13 12:12:53
この連中の地方分権は国からいかにお金を持ってくるか、ということだけです。
お金の使い道は道路に箱物。
他にはなにも思いつかないのです。
国民にしてみれば、国に無駄遣いされるのか、ちほうの首長・役人どもに無駄使いされるのか、という不毛の選択を強いられることになります。
返信する
二人の知事は道路族? (タレント知事に怒りを)
2009-07-13 01:28:37
初めて投稿します。


ゲンダイが報じていましたが、橋下は、高速道路工事を進めようとするスタンス。そのまんまもまた同様です。さて、自民でコイツラに接近しているのは、これまた道路で知られる古賀。


これは、地方分権の錦の御旗を利用して、利益誘導構造を地方に移そうという魂胆に見えなくもないかと。また、地方の弱みにつけこむ選挙対策という見方もできるのでは。
返信する
岩手様 (亭主)
2009-07-12 23:02:22
通貨発行権に関してはやや過激に過ぎるのではないでしょうか?

県境を越えると通貨価値が異なったり、金利が異なるというのは、国という統治形態に対する大きな挑戦でしょう。
わたしはそれを頭から否定するものではありません。
が、それにしてもそれによってもたらされる混乱を調整する力は現在はどこにもないでしょう。

>金融政策、財政政策をとおしてバラまかれた金の分捕り合いの形

現今の地方分権論はおっしゃる通りの状況です。
こんなものを無批判に受け入れることは、けっして国民すなわち地域住民の利益を念頭に置いた議論とはとうてい思えません。




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通貨発行に関わらない地方政府は都道府県を超えることは出来ない (岩手)
2009-07-12 19:00:04
通貨発行権にかんする議論がない地方分権論は、全て実効性がありません。

金融政策、財政政策をとおしてバラまかれた金の分捕り合いの形が壊れない限り、中央政府・中央銀行の力は他を圧倒しています。
最近は地方分権を通り越して地方主権と言う言い方が流行っているそうですが、通貨に関して力を持たない地方政府など何も怖くないし、今の都道府県以上のものになることはありません。

最近の急な盛り上がりは無視して構いません。
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