「熱闘」のあとでひといき

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早稲田大学vs日本大学(2013年度春季大会)の感想

2013-06-14 02:46:54 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


先週の立正大グランドで大東大が見せたパフォーマンスは、大東大のみならずリーグ戦Gのファンにも明るい希望を与えたことは間違いない。なぜなら、かつての大東大はリーグ戦グループで観ていてもっとも楽しいラグビーをするチームだったから。ボールがダイナミックに動くランニングラグビーを指向している点で法政と双璧をなしていたことは間違いない。少なくとも私がリーグ戦グループのラグビーを本格的に観ることになった1997シーズンの頃はそうだった。

大東大のラグビーが面白かった理由は、FW、BK関係なく奔放にボールを繋ぎ、最後は決めるべき人がトライを取るラグビーだったから。けして留学生のパワーだけに頼っていたチームではなかった。FWの選手がBK選手顔負けのロングパスを披露したり、カットインをしてみせたりしてファンを驚かせていたことも思い出す。そもそも国立の晴れ舞台でHOの選手がドロップゴールを決めた実績があるチームだ。先日の立正大戦は、シンプルにボールを前に、横に、と動かすステディなラグビーに徹していた感もあるが、鏡さんが中心となって築き挙げた「大東ラグビー」のDNAは消えていなかった。それが今後どんな形で開花していくかが楽しみだ。

◆日大ラグビーへの想い

実は、大東大ほど派手ではないが、「個人でとことん勝負!」の荒削りながらも思いきりのいいラグビーでファンを魅了していたチームがあった。それは、私が流経大に次いで2番目に応援することになった日大。1997年度からの過去16シーズンを振り返ってみても、プレーが印象に残っている選手の数がダントツに多いのは、実は日大なのだ。もちろん、日大の看板は対戦相手のFWを震え上がらせたような強力スクラムだったのだが、卒業してからは断然「BKの日大」だった。一躍脚光を浴びるたのは、大学時代に奔放にグランド上を駆け巡っていたBKの選手たちだったから。

例えば...沢木智之、日原大介、沢木啓介、北條純一、今利貞政、窪田幸一郎、武井敬司、河野義光、松下馨、金川禎臣、藤原丈嗣、三友良平、ピエイ・マフィレオ、中村誠一と私が実際にグランドで観た歴代のOB達の名を連ねてみても、日大がいかに個人能力の高いBK選手達を輩出し続けてきたかがわかる。強みはトライゲッターから仕事人まで幅広い人材が揃っていることだが、基本戦は個人勝負を第一に考えるという点で一致している。時系列を無視して各選手の全盛期だけを切り取ってBKラインを組んだら、日大OBだけでもドリームラインの完成だ。

中でもとくに印象の残っている選手は、けがで出場機会自体が少なく、かつFBへのコンバートで持ち味が十分に発揮できたとは言いがたかった藤原丈嗣。187cm、90kgの大型WTBで、風を切るがごとくのスケールの大きなランニングが瞼に焼き付いている。ユース代表から始まり、セブンズの日本代表ではFWとして活躍するなど将来を嘱望されながらも、引退してしまったことが惜しまれる。あとは、ラインを動かすことにかけてはピカイチだったM選手。時々やってしまった珍プレーも懐かしい。

時間軸を現在に戻す。日大を加藤HCが率いるようになってから今年で5シーズン目となった。紆余曲折もあったが、昨シーズンは念願の大学選手権出場も果たし、今シーズンはいよいよ東海や流経へのチャレンジの年となるはず。ナイター設備の新設、練習場近接の寮の建設など、急速に進んだ環境整備の後押しもあるはずだから、誰もがそう考える。しかしながら、春シーズンのここまでの戦績は芳しいとは言えない。果たして、理由は小川の卒業だけなのだろうか?

◆歴史的な1日を期待して上井草へ

日大と早稲田が公式戦で戦うのは19年ぶりだそうだ。練習試合ですら12年ぶりらしい。リーグは違っても大学選手権では明治や慶應との対戦は多いのだから意外な感じがする。その早稲田だが、ニッパツ三ツ沢で行われた法政戦を見る限り、どこか歯車が狂っているように見える。日大にとって歴史的な1日になるかも知れないという期待を抱いて上井草に向かった。

比較的近いこともあるが、気持が入りすぎていたためか、キックオフの1時間前にグランドに着いてしまった。初めての上井草だったが、やはり歴史を感じさせるところが多々ある。一大学の施設と言うよりも、由緒ある倶楽部といった趣で、まずは圧倒された。ちょうどメンバーが揃い、アップが始まったところで日大のメンバーを確認する。注目はやはり9番ということになる。ここ2年間は小川の独壇場だったし、その前は球捌きのいい中村が務めていた日大のキーポジション。谷口とリザーブの柏原(B戦で先発予定)の2人のルーキーでレギュラー争いをすることになるのだろうか。

FWでは走力のある大窪と館山、そして随所で光るプレーを見せるNo.8高橋が要注目選手。2年目となるLOのキテもそろそろ爆発していい頃だ。BKでは4年生のSO下地が1、2年生主体の若いラインをリードする形。遅ればせながらようやく本領発揮となりつつあるWTBマイケルに如何にいい形でボールを渡すかに注目したい。対する早稲田は、法政戦からかなりのメンバーの入替があるが、ひとつ言えるのは余裕を持ってのテストではなさそうに見えること。日大にとって注意すべき選手は、やはり司令塔を務める小倉ということになるだろう。不調とは言っても、選手層の厚さを見せつけることができるだろうか。



◆キックオフから攻めの姿勢を見せた日大だったが

早稲田のキックオフで試合開始。春季大会の場合は自陣深くからでも果敢にゴールを目指すチームが多い。一糸乱れぬ攻撃体制が整っている帝京、前に出る意欲がとにかく素晴らしかった大東に対して日大は? オープンに展開で攻めの姿勢を見せるものの、前2者に比べるとどこか中途半端な印象を受ける。果たして大外までボールが回ったところでノックオンがあり早くもピンチを迎える。もらったチャンスは逃さないのが試合巧者の早稲田。日大ゴール前でのスクラムを起点とした継続から最後はオープンに展開してWTB鹿野がゴールラインを越えた。

本日は小倉がSOとして先発したことで安定した戦いを見せてくれると、早稲田ファンに安堵感を与えた先制点...だったはずなのだが、メンバーは替わっても法政戦で見せたようなノックオン症候群としか言いようのない状況は続いている。開始5分にして早くもファーストノックオンが起こる。だが、チャンスをもらったはずの日大もボールを持ち込んではノット・リリースやオーバー・ザ・トップでアタックの流れを止めてしまう。最終的な日大の反則数は11個なのだが、もっとたくさん犯したような印象を受けるのは、肝心なところでの痛い反則が多かったからかも知れない。

日大が波に乗れないのは、反則もさることながら、ポイントからの球出しがスムースにいかなかったことにも原因がある。単純比較はできないが、SHの球捌きに関しては、Bで先発した柏原の方に軍配を挙げたい。さて、試合が膠着状態になったところで日大が気をつけなければならないのは、一瞬の隙を見逃さない早稲田の一発。果たして12分、早稲田は日大陣22mライン付近で得たPKからの速攻でFL金がインゴールに飛び込んだ。GKは失敗したが早稲田のリードは12点に拡がった。

先制パンチを2発受けたところでようやく日大のアタックが機能し始める。私見ながら、昨シーズンはリーグ戦Gでもっとも整ったアタックを見せてくれたチームだから、財産を簡単には手放して欲しくない。早稲田のディフェンスもピリッとしないからチャンスだ。初期フェイズの段階でBKラインに並んでいるのは背番号一桁台の選手ばかりという状況になっている。うまくミスマッチを突くことができれば日大も得点できるはず。だが、FWからの球出しが安定しないこともあるが、ルーキーSHには周りがよく見えていないと感じざるを得ないのが残念。突破役がいない状況なら、マイケルをFWに近い位置に立たせるオプションもあるのでは、とかついつい勝手なことを考えてしまう。

日大が攻めあぐむ状況の中で、早稲田はワンチャンスをものにする。22分、日大ゴール前のスクラムから8単で抜けてラックからオープンに展開しWTB鹿野がこの日2トライ目を挙げる。スイッチを切り替えてしっかり点が取れる早稲田は流石といったところだが、日大のディフェンスが弱いことも気になる。なかなか低くタックルには入れず、ヒットしてもはね飛ばされる。追いタックルで止める形なら必然的にボールは前に運ばれていく。GK成功で早稲田のリードは19点に拡がった。

得点板にはホームチームの方の得点のみが増えていく状況にあるのだが、一方的な展開に感じられないのがこの試合の不思議なところ。28分には日大がHWL付近でのラインアウトを起点としてボールを繋ぎ早稲田のゴール前に迫る。ここで早稲田に反則があり、日大は絶好のチャンスを掴む。だが、ここで日大は早稲田ファンもびっくりのスクラムを選択する。ここまで日大は殆どスクラムをしっかりとは組ませてもらえない状況で圧倒されている。果たしてマイボールをあっさり失い、絶好の得点機を逃してしまった。「スクラムの日大」の看板が完全に下ろされてしまって早や何年という現実は取り繕いようがない。

前半も終盤にさしかかった34分、日大はマイケルの豪快な突破からフェイズを重ね、最後はHO小谷がゴールラインの突破に成功。GKは外れるが5点を返して日大は遅まきながら反撃体制に入る。しかし、その後がいけなかった。No.8高橋が自陣22m内からカウンターアタックを仕掛けるもののディフェンダーに捕まりボールを失う。早稲田はプレゼントされたような形のチャンスを活かしてCTB飯野がゴールラインを越えた。相手キックに対しては必ず反応できる位置にいる高橋だから起こったミスとも言えそうだが、無理に仕掛ける場面でもなく、結果的に重い失点となってしまった。前半は24-5と早稲田の19点リードで終了。



◆後半こそは爆発したい日大だったが

上井草は早稲田のホームグランドだけあって、日大サイドでも多くの早稲田ファンが観戦している。だが、後ろから聞こえてくるのは雑談モードの会話で、ラグビーに集中したい人間にとってはちょっと迷惑かな。とは言っても、早稲田ファンが肝を冷やす状況が起こるわけでもないのでそうなってしまうのも致し方ない。ピッチに立っている選手達が、日大のラグビーをアピールする絶好のチャンスを逃しているように見受けられるのが歯がゆい。

さて、リードを許しているとは言ってもまだ19点。相変わらずノックオンやパスミスを頻発させて観客席のため息を誘っているような早稲田だから、先に点を取れば逆転のチャンスは十分にある。早稲田は後半からCTBの藤近に替えて水野を投入。法政戦でも途中出場ながら存在感を見せた水野がここでも力を発揮する。日大のキックオフに対するカウンターアタックでFB滝沢からパスを受けた水野がボールを前に大きく運び、再びパスを受けた滝沢がゴールラインを越えた。手元のストップウォッチはまだ1分を指していない中での電光石火の追加点で31-5と早稲田のリードは26点に拡がった。法政戦でも感じたことだが、水野にはチームの空気を変える力がありそうだ。おそらく、今後も出場機会が増えていくような気がする。

お互いにピリッとしないなかで時計が進むが、12分にようやく日大の得点ボードが動いた。日大がPKからの連続攻撃でボールを前に運び、最後はLO館山がゴールラインを越えた。ここで、リンクプレーヤーとして機能したのがNo.8高橋だった。2年生だった昨年度から既に日大FWの中心選手として活躍している選手。サイズはないものの、シャープな動きで攻守にキレを見せる。ただ、前半のカウンターアタックの失敗に見られるように、回りの選手とうまくコミュニケーションが取れていないようにみえるのが気になる。

マイケルのGKはポストに弾かれるものの一矢報いた日大のビハインドは21点となる。残り時間から考えたら、あきらめるのは早いし、日大の選手は頑張っていることもわかる。でも、どこか空回りしているように感じるのは気のせいだろうか。選手達のプレーからは「逆転してやるぞ!」という熱い湯気のような熱気が伝わってこないのである。元来、日大はピッチ上もスタンド上もクールなチームだが、それをより強く感じることになってしまおうとは。

以後、30分くらいまではシンビンによる一時退場者が出たこともあり、日大が自陣を背にして耐える時間帯となる。逆に30分以降から試合終了までは日大が攻勢に出て早稲田が背水の陣を敷く形となった。しかしながら、両チームとも目の前に見えているはずのゴールラインが果てしなく遠い。終了間際の日大のチャンスもインゴールノックオン。結局、試合はそのまま終了した。後半に限っては5-7で、その早稲田の7点もキックオフ直後の1分にも満たない間に記録されたもの。ホームチームの勝利で事なきを得た感じだが、お互いに意図不明なプレーも多く、早稲田、日大とも課題山積かつ前途多難を想わせる試合となってしまった。

◆Bチームの練習マッチを眺めながら

Aチームの公式戦の後はBチーム同士による練習マッチが行われるのが春季大会のお約束ごとになっている。それは、対抗戦Gとリーグ戦Gの選手層の厚さの違いに起因する実力差がはっきりと示される時間帯でもある。A同士なら接戦なのに、B戦だと3ケタ失点の負けゲームになってしまうことも珍しくない。もしかしたらBの方が強いのでは思わせるくらいに戦力が充実しているのが対抗戦G上位校の強みだ。

しかしながら、日大Bはなかなか健闘している。というかむしろ押し気味に試合を進めている。SHの球裁きがいいこともあり、ボールをしっかり前に運ぶラグビーができている。もしかしたら勝てるかもと思わせるくらいの戦いができているのだ。ただ、詰めが甘いのはAチームと同じかそれ以上。あとは確実にボールをパスするだけというところでミスをしてしまうのは何故だろうか。逆に早稲田は一瞬の切り返しで素早くボールを運んで得点を重ねる。

そんな早稲田で印象に残った選手はSOの浅見。A戦ではリザーブとして後半35分から出場し、Bでスタメン出場となったわけだが、元気いっぱいのプレーを見せている。Bで頑張ればAに上がるチャンスも出てくるという試合でしっかりアピールしようとしている姿勢が感じられた。この辺りが早稲田他、多くのファンがいる対抗戦G所属校の力の源泉になっているのだろう。何ともうらやましい限りだ。



◆日大で気になったこと

内容とは裏腹にどんどんホームチーム側の得点が増えていく状況で、終盤は場所を移動して試合を観ることにした。タッチライン沿いで自分達のチームの試合をじっと観ている控え選手達の様子が気になったのだ。そして、そこで見てはいけないものを見てしまったような気がした。まず目に付いたのは、試合を観ながらも楕円球を弄んでいる選手が数名いたこと。

そして、控え選手達が築いたショッキングピンク(練習着の色)のカーテンの裏では、つい先ほどまでピッチ上に立っていた選手の何人かが談笑している。立ち位置はカーテンの裏だから当然Bチームの戦いを見ることはできない。これで何となくわかった。チームには何かが欠けていると言うことを。Bの選手達はチームメイトではあるが、Aの選手達にとってはライバルのはずだ。自分達よりいいプレーをしたらすぐに立場は逆転する。危機感が欠如しているとしか思えない。

帝京だったらこんなことはまず考えられない。筑波にしてもB戦の時にはベンチのAの選手から激しいゲキが飛んでいた。厳しい言い方になってしまうが、日大は戦わずして負けていた。強くなろうという気持ちがあるのなら、たとえ数は少なくても、期待感を胸に抱きながら観ているファンがいることに対して自覚を持ち、真摯にラグビーに取り組んで欲しい。
コメント (1)
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