映画とライフデザイン

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映画「すばらしき世界」西川美和&役所広司

2021-02-11 18:02:46 | 映画(自分好みベスト100)
映画「すばらしき世界」を映画館で観てきました。

傑作である。心にじわっとくる。ここ一年の日本映画では1番の娯楽性を持った作品だと思う。たぶん今年有数の作品と評価されるであろう。



つい先日、神保町の東京堂書店の映画コーナーに西川美和監督の本が置いてあった。そこで、この新作があることを知った。好きな監督の本だけど、映画見てからと購入はためらってしまう。西川美和さんは映画作品が公開されたときには必ず映画館に行く監督である。それなので、本作「すばらしき世界」が公開され朝一番ですぐ向かう。

役所広司が出演する以外の予備知識はなかった。殺人で13 年の刑を受けた男が出所して、生活保護を受けながら生活するも、職がなかなか得られず悪戦苦闘する話である。出所後の身元引受人夫婦が橋爪功と梶芽衣子、ドキュメンタリーでTV番組にしてしまおうとするディレクターが長澤まさみで中心スタッフが仲野大賀というのがキーとなる配役である。傑作を次から次へと生む西川美和監督作品だけにその他配役も芸達者が出演してくれる。


映画を観ていて一連の伊丹十三監督作品のような娯楽感がある。難解な部分もなく映画は心にすっと入る。ストーリーも途中でだれる部分はない。映画には数多くの逸話をちりばめている。いい方向に進んだかな?と思ったら、思いがけない障害を発生させる。緩急自在な西川美和監督のわれわれを楽しませる脚本作りには敬服する。

殺人で13 年の刑を受けてようやく出所できた。身元引受人のもとに厄介になりながら、役所に行き生活保護の申請を無理やり通し、アパートで1人暮らしをすることになった。でも、職を探そうとしたがうまくいかない。運転手ならできると失効した運転免許を復活させようと本試験所に行ったけど、うまく行くわけがない。


芸者の私生児として生まれ、認知されず母親からも見捨てられ養護施設に入る。きがつくと、ぐれて少年院に入り、出所してからも堅気でない生活に足を突っ込む。様々な罪を繰り返して刑務所暮らしは長きに渡る。

そんな男が出所したという情報がTVプロデューサーのもとに入る。そこで、作家として独立しようとしたがうまくいかず、ブラブラしている男に母親を探すという名目で番組を作ろうと連絡が入る。母親を探すというキーワードで接近したが、普通じゃない動きをする男に手を持てやますのであるが。。。


⒈一本気な主人公
不器用である。バカ正直な部分もあり、殺人の意思があるかどうかでもっと軽く済むところがそうは取られず、刑も重くなった。刑務所内でもイザコザを繰り返したようだ。住んだアパートの階下で外国人労働者たちが大騒ぎするのに対して、文句をつけてその親分的立場の半グレ男と一悶着を起こす。それとは別に、街で普通のカタギがチンピラに因縁をつけられているのを見ると放っておけない。この映画では、単なるワルにしないで、観客に共感を持たれるような元ヤクザに仕立てられている。


⒉現代世相が取り入れられる部分
八方塞がりで、何もかもうまくいかない時に昔の兄弟分についつい電話してしまう。ヤクザからすると、出所は実にめでたく歓待を受ける。でも、そのヤクザも、金を持ち逃げした手下が本来であれば追い詰められる存在なのに、手下が警察に逃げ込んで逆にこちらが追い込みをかけられる。ヤクザの取り扱いもそうは簡単にいかないと、ひと時代前と違う現代反体制社会事情を語る。

主人公が職を求めた介護施設で、障がい者の職員が働いていたが、普通の健常者職員からお前はなっていないと暴力を振るわれている。例の障がい者施設の殺傷事件は、ある意味ヒトラーナチスの優生政策を思わせる部分があると自分は感じるが、障がい者職員が迫害を受けているシーンもここで存在する。本来この映画は出所後受刑者が思い通りに生活できないことを示すという趣旨なのであろう。それに加えて軽く社会性がある部分もある。社会性が強いと鼻につくが、その体裁はない。

それにしてもよくできた映画である。女性監督なのにソープランドのシーンがあったり、取材もしっかりしているのであろう。丹念にディテイルもまとめていて、ヤクザの親分と姉さんの配役や男女関係のあやなども実によく捉えている。最後に向けてはすんなりにはいかない。こういう形でエンディングに結びつけるのもお見事だ。


エンディングロールのクレジットで安田成美の名前を見て、ドキッとした。そうか、主人公の元奥さん役か!顔を見ても全くわからなかった。久々である。最後西川美和監督のクレジットを見るまでずっと座席に座って余韻に浸った。

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