映画「ル・アーブルの靴みがき」を映画館で見てきました。
ブログ映画評いよいよ700到達という節目にいい映画が見れた。
フィンランドが生んだ世界的名匠アキ・カウリスマキ監督の新作で、評論家筋の評判もよくロードショーに向かった。しかし、東京周辺では渋谷しかやっていない。映画館に着き、エレベーターから降りると人の多さにびっくりだ。ミニシアターらしからぬ混雑ぶりで、どこがチケット売り場かわからないくらいだ。ここ最近こんなに前方の座席まで観客で埋まっているのは見たことがない。驚いた。いかにも評判の高さを語っているようだ。「過去のない男」「街のあかり」などアキ・カウリスマキ監督の作品は独自の個性が強い。殺風景な色づくりの画像だ。そこで到底美男美女といえない男女が、日本でいえば昭和40年代にタイムスリップしたようなレトロな国フィンランドを舞台に人間模様を繰り広げる構図だ。
今回は映画を見始めてしばらくしてフランス語が語られる中、フランスが舞台だということに気づく。原題でもある「ル・アーブル」はフランス西部の大西洋に面した町である。60年代のシトロエンやプジョーが街を走り、フランスらしいアコーディオン音楽も流れるが、いつものように朴訥とした雰囲気で映画が展開される。青緑がベースカラーの色彩設計は相変わらず地味だが、イエローやレッドのポイントカラーを効果的に使う。一つの希望を示しているようだ。
移民問題が基調にあり、その中に他に類のないやさしさが流れている。映画を見た後のすがすがしい爽快感はこれまでのアキカウリスマキ監督にはなかったものだ。見てよかった。
フランス西部ノルマンディ地方のル・アーブルという港町が舞台だ。
主人公マルクス(アンドレ・ウィルム)は靴磨きを職としている。映画はやくざ風の男がマルクスに靴磨きを頼む場面からスタートする。周りにその男を狙う男たちが現れ、靴が磨き終わるといきなり撃たれるシーンだ。
主人公は元々パリにいたが、今は妻(カティ・オウティネン)と下町で二人のんびり暮らしている。食事の前にカフェでアペリティフを飲むのだけが趣味の男であった。
場面は波止場に移る。警察が不法入国を取り締まる場面だ。コンテナの中に潜んで不法移送されたアフリカからの黒人移民たちが見つかった。連行しようとしたところ、一人の黒人の少年が逃げて行った。彼に向って銃を向ける警官もいたが、上司の警視がそれをとどめた。町では新聞沙汰になる騒ぎとなった。
マルクスが波止場で一人食事をしようとしていたところ、海の中で一人の黒人少年がこちらを見ていた。ものほしそうだったので、食事をあげた。「ロンドンは泳いですぐか?」と少年に聞かれたが、それは無理だと主人公は返した。ふと周りを見ると警官がいた。警視から「黒人の少年がいなかったか?」と聞かれ、少年の存在は黙っていた。そして脱走した不法入国者の存在を知った。
ある夜、黒人少年の面倒を見て帰りが遅くなった主人公を妻が迎えたが、妻は具合が悪そうだった。あわてて病院に運ぶ。主治医に妻は声をかけ「自分の病状は夫には話さないように」とくぎを刺した。妻は自分の病状が悪化していることを知っていて旦那に心配をかけたくなかったのだ。妻は入院した。
妻の入院の後、少年を家に連れてくるようになった。よく話をしてみると、少年はフランス語も話せて、普通の素直な子だった。ロンドンに住む母親に会いたいという。主人公はなんとか望みをかなえてあげたいと思うようになった。しかし、脱走した少年を探している警察の捜査が主人公の周辺に近づいているのであったが。。。
これまでの作品は地味な出演者がでて、みんな無口であった。極度に無駄が省かれる。
今回は若干違う。下町のパン屋や乾物屋、カフェバーの女ママなどに人情のようなものが感じられる。途中までは貧乏暮らしを続けている主人公は、ツケがたまっているのでパン屋や乾物屋の店主たちに嫌がられていたが、奥さんが入院したり、少年をかくまっている主人公を見て態度を変える。カフェのママと旧知の警視も人情味がありいい感じだ。日本映画の人情物に通じるところがある。
途中でロックアーチストを登場させる。オヤジバンドがロックを歌いまくるシーンは前にもあった。ここで稼いで密航の費用を稼ごうとするのである。主人公の切符切りも堂に入っている。
そうしてラストに向かう。ラストに向かう際も、いくつかの関門をつくる。密告者が出てくる。かなりしつこい嫌な奴だ。そこに映画「カサブランカ」を思わせる場面があったりする。そしてもう一つの山をつくる。予想外であった。今までにないうまさだ。前作「街のあかり」では主人公を谷底に落としたアキ・カウリスマキが世の中に希望を与えるような展開に持っていった。後味が良かった。
映画を見終わってなんかすっきりした。
暗闇から待合室にでたら、次の回の上映を待っている大勢の人がいた。映画館を出ると、円山町のホテル街だ。若い頃はお世話になった。この映画館の前に父と子供のころからきていたロシア料理「サモワール」が数年前まであった。ツタのからまる建物が懐かしい。ストロガノフがうまかった。なくなったのは悲しい。東急本店に向かって坂を下りながら、たぶんこういう映画好きだったろうなあと父のことを思った。
ブログ映画評いよいよ700到達という節目にいい映画が見れた。
フィンランドが生んだ世界的名匠アキ・カウリスマキ監督の新作で、評論家筋の評判もよくロードショーに向かった。しかし、東京周辺では渋谷しかやっていない。映画館に着き、エレベーターから降りると人の多さにびっくりだ。ミニシアターらしからぬ混雑ぶりで、どこがチケット売り場かわからないくらいだ。ここ最近こんなに前方の座席まで観客で埋まっているのは見たことがない。驚いた。いかにも評判の高さを語っているようだ。「過去のない男」「街のあかり」などアキ・カウリスマキ監督の作品は独自の個性が強い。殺風景な色づくりの画像だ。そこで到底美男美女といえない男女が、日本でいえば昭和40年代にタイムスリップしたようなレトロな国フィンランドを舞台に人間模様を繰り広げる構図だ。
今回は映画を見始めてしばらくしてフランス語が語られる中、フランスが舞台だということに気づく。原題でもある「ル・アーブル」はフランス西部の大西洋に面した町である。60年代のシトロエンやプジョーが街を走り、フランスらしいアコーディオン音楽も流れるが、いつものように朴訥とした雰囲気で映画が展開される。青緑がベースカラーの色彩設計は相変わらず地味だが、イエローやレッドのポイントカラーを効果的に使う。一つの希望を示しているようだ。
移民問題が基調にあり、その中に他に類のないやさしさが流れている。映画を見た後のすがすがしい爽快感はこれまでのアキカウリスマキ監督にはなかったものだ。見てよかった。
フランス西部ノルマンディ地方のル・アーブルという港町が舞台だ。
主人公マルクス(アンドレ・ウィルム)は靴磨きを職としている。映画はやくざ風の男がマルクスに靴磨きを頼む場面からスタートする。周りにその男を狙う男たちが現れ、靴が磨き終わるといきなり撃たれるシーンだ。
主人公は元々パリにいたが、今は妻(カティ・オウティネン)と下町で二人のんびり暮らしている。食事の前にカフェでアペリティフを飲むのだけが趣味の男であった。
場面は波止場に移る。警察が不法入国を取り締まる場面だ。コンテナの中に潜んで不法移送されたアフリカからの黒人移民たちが見つかった。連行しようとしたところ、一人の黒人の少年が逃げて行った。彼に向って銃を向ける警官もいたが、上司の警視がそれをとどめた。町では新聞沙汰になる騒ぎとなった。
マルクスが波止場で一人食事をしようとしていたところ、海の中で一人の黒人少年がこちらを見ていた。ものほしそうだったので、食事をあげた。「ロンドンは泳いですぐか?」と少年に聞かれたが、それは無理だと主人公は返した。ふと周りを見ると警官がいた。警視から「黒人の少年がいなかったか?」と聞かれ、少年の存在は黙っていた。そして脱走した不法入国者の存在を知った。
ある夜、黒人少年の面倒を見て帰りが遅くなった主人公を妻が迎えたが、妻は具合が悪そうだった。あわてて病院に運ぶ。主治医に妻は声をかけ「自分の病状は夫には話さないように」とくぎを刺した。妻は自分の病状が悪化していることを知っていて旦那に心配をかけたくなかったのだ。妻は入院した。
妻の入院の後、少年を家に連れてくるようになった。よく話をしてみると、少年はフランス語も話せて、普通の素直な子だった。ロンドンに住む母親に会いたいという。主人公はなんとか望みをかなえてあげたいと思うようになった。しかし、脱走した少年を探している警察の捜査が主人公の周辺に近づいているのであったが。。。
これまでの作品は地味な出演者がでて、みんな無口であった。極度に無駄が省かれる。
今回は若干違う。下町のパン屋や乾物屋、カフェバーの女ママなどに人情のようなものが感じられる。途中までは貧乏暮らしを続けている主人公は、ツケがたまっているのでパン屋や乾物屋の店主たちに嫌がられていたが、奥さんが入院したり、少年をかくまっている主人公を見て態度を変える。カフェのママと旧知の警視も人情味がありいい感じだ。日本映画の人情物に通じるところがある。
途中でロックアーチストを登場させる。オヤジバンドがロックを歌いまくるシーンは前にもあった。ここで稼いで密航の費用を稼ごうとするのである。主人公の切符切りも堂に入っている。
そうしてラストに向かう。ラストに向かう際も、いくつかの関門をつくる。密告者が出てくる。かなりしつこい嫌な奴だ。そこに映画「カサブランカ」を思わせる場面があったりする。そしてもう一つの山をつくる。予想外であった。今までにないうまさだ。前作「街のあかり」では主人公を谷底に落としたアキ・カウリスマキが世の中に希望を与えるような展開に持っていった。後味が良かった。
映画を見終わってなんかすっきりした。
暗闇から待合室にでたら、次の回の上映を待っている大勢の人がいた。映画館を出ると、円山町のホテル街だ。若い頃はお世話になった。この映画館の前に父と子供のころからきていたロシア料理「サモワール」が数年前まであった。ツタのからまる建物が懐かしい。ストロガノフがうまかった。なくなったのは悲しい。東急本店に向かって坂を下りながら、たぶんこういう映画好きだったろうなあと父のことを思った。