映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

ル・アーブルの靴みがき  アキ・カウリスマキ

2012-05-03 20:39:45 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「ル・アーブルの靴みがき」を映画館で見てきました。
ブログ映画評いよいよ700到達という節目にいい映画が見れた。

フィンランドが生んだ世界的名匠アキ・カウリスマキ監督の新作で、評論家筋の評判もよくロードショーに向かった。しかし、東京周辺では渋谷しかやっていない。映画館に着き、エレベーターから降りると人の多さにびっくりだ。ミニシアターらしからぬ混雑ぶりで、どこがチケット売り場かわからないくらいだ。ここ最近こんなに前方の座席まで観客で埋まっているのは見たことがない。驚いた。いかにも評判の高さを語っているようだ。「過去のない男」「街のあかり」などアキ・カウリスマキ監督の作品は独自の個性が強い。殺風景な色づくりの画像だ。そこで到底美男美女といえない男女が、日本でいえば昭和40年代にタイムスリップしたようなレトロな国フィンランドを舞台に人間模様を繰り広げる構図だ。



今回は映画を見始めてしばらくしてフランス語が語られる中、フランスが舞台だということに気づく。原題でもある「ル・アーブル」はフランス西部の大西洋に面した町である。60年代のシトロエンやプジョーが街を走り、フランスらしいアコーディオン音楽も流れるが、いつものように朴訥とした雰囲気で映画が展開される。青緑がベースカラーの色彩設計は相変わらず地味だが、イエローやレッドのポイントカラーを効果的に使う。一つの希望を示しているようだ。
移民問題が基調にあり、その中に他に類のないやさしさが流れている。映画を見た後のすがすがしい爽快感はこれまでのアキカウリスマキ監督にはなかったものだ。見てよかった。

フランス西部ノルマンディ地方のル・アーブルという港町が舞台だ。
主人公マルクス(アンドレ・ウィルム)は靴磨きを職としている。映画はやくざ風の男がマルクスに靴磨きを頼む場面からスタートする。周りにその男を狙う男たちが現れ、靴が磨き終わるといきなり撃たれるシーンだ。
主人公は元々パリにいたが、今は妻(カティ・オウティネン)と下町で二人のんびり暮らしている。食事の前にカフェでアペリティフを飲むのだけが趣味の男であった。

場面は波止場に移る。警察が不法入国を取り締まる場面だ。コンテナの中に潜んで不法移送されたアフリカからの黒人移民たちが見つかった。連行しようとしたところ、一人の黒人の少年が逃げて行った。彼に向って銃を向ける警官もいたが、上司の警視がそれをとどめた。町では新聞沙汰になる騒ぎとなった。
マルクスが波止場で一人食事をしようとしていたところ、海の中で一人の黒人少年がこちらを見ていた。ものほしそうだったので、食事をあげた。「ロンドンは泳いですぐか?」と少年に聞かれたが、それは無理だと主人公は返した。ふと周りを見ると警官がいた。警視から「黒人の少年がいなかったか?」と聞かれ、少年の存在は黙っていた。そして脱走した不法入国者の存在を知った。


ある夜、黒人少年の面倒を見て帰りが遅くなった主人公を妻が迎えたが、妻は具合が悪そうだった。あわてて病院に運ぶ。主治医に妻は声をかけ「自分の病状は夫には話さないように」とくぎを刺した。妻は自分の病状が悪化していることを知っていて旦那に心配をかけたくなかったのだ。妻は入院した。

妻の入院の後、少年を家に連れてくるようになった。よく話をしてみると、少年はフランス語も話せて、普通の素直な子だった。ロンドンに住む母親に会いたいという。主人公はなんとか望みをかなえてあげたいと思うようになった。しかし、脱走した少年を探している警察の捜査が主人公の周辺に近づいているのであったが。。。



これまでの作品は地味な出演者がでて、みんな無口であった。極度に無駄が省かれる。
今回は若干違う。下町のパン屋や乾物屋、カフェバーの女ママなどに人情のようなものが感じられる。途中までは貧乏暮らしを続けている主人公は、ツケがたまっているのでパン屋や乾物屋の店主たちに嫌がられていたが、奥さんが入院したり、少年をかくまっている主人公を見て態度を変える。カフェのママと旧知の警視も人情味がありいい感じだ。日本映画の人情物に通じるところがある。
途中でロックアーチストを登場させる。オヤジバンドがロックを歌いまくるシーンは前にもあった。ここで稼いで密航の費用を稼ごうとするのである。主人公の切符切りも堂に入っている。


そうしてラストに向かう。ラストに向かう際も、いくつかの関門をつくる。密告者が出てくる。かなりしつこい嫌な奴だ。そこに映画「カサブランカ」を思わせる場面があったりする。そしてもう一つの山をつくる。予想外であった。今までにないうまさだ。前作「街のあかり」では主人公を谷底に落としたアキ・カウリスマキが世の中に希望を与えるような展開に持っていった。後味が良かった。


映画を見終わってなんかすっきりした。
暗闇から待合室にでたら、次の回の上映を待っている大勢の人がいた。映画館を出ると、円山町のホテル街だ。若い頃はお世話になった。この映画館の前に父と子供のころからきていたロシア料理「サモワール」が数年前まであった。ツタのからまる建物が懐かしい。ストロガノフがうまかった。なくなったのは悲しい。東急本店に向かって坂を下りながら、たぶんこういう映画好きだったろうなあと父のことを思った。
コメント (6)
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座頭市地獄旅  勝新太郎

2012-05-03 06:53:32 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「座頭市地獄旅」は昭和40年の座頭市シリーズ12作目である。

12作目となると、当初本当のやくざみたいで殺気じみていた勝新太郎の表情に柔らかさが見える。この映画でキーとなるのが「将棋」だ。盲目の市が将棋をするということ自体、ありえるのかいといった感じだが、「3四歩」とか盤の記号を言い続けて指してしまう。さすが「天才」市だ。

ゲストは成田三樹夫である。将棋好きの浪人を演じる。当時30歳でまだ俳優としての格は高くはない。しかし、「仁義なき戦い」やテレビの「探偵物語」で見せた独特のにがみ味は片りんを見せている。


下総館山が映し出される。ある時5人の剣使いに襲われた座頭市(勝新太郎)が華麗な剣を見せ、5人を返り打ちにするシーンからスタートする。市は船に乗り江の島を目指す。船に乗る前に足を滑らせて、危うく海に転落するのを一人の浪人(成田三樹夫)が助けた。船で市はいかさまじみたさいころ賭博で金をさらっていた。やられた連中が恨んで、市を手篭めにしようとして返り打ちを食らっていた。そんなところを横で一瞥しながら、浪人は将棋をしていた。市もメクラながら将棋に付き合っていた。

江の島に行ったあともやられた連中は市を追いかけていた。市の宿を襲うがまた返り打ちにあう。その時市の剣に2階の窓から表に放り出されてしまった男が外を歩いていた母子の子供の足にぶつかってしまう。子供(藤山直子)が倒れているのを感じた市は2人を助ける。2人は市たちと一緒の船に乗っていた。子供は高熱を出す。地元の医者に診てもらったら「破傷風」だという。これを直すには南蛮渡来の薬が必要になる。しかも薬の値段は高い。途方に暮れる母であったが、なんとかそれを市が用立てようとする。
市は鉄火場でさいころバクチで稼ごうとする。また得意のいかさまをしようとしたら失敗。こんなこと今までなかったのにとグチっているところに浪人ナリミキがいいアイディアがあるとタネ銭の稼ぎ方を教えるが。。。。

座頭市の第1作はのちに10chで渋い味を出していた天地茂との対決であった。旅に出た市が剣の腕が立つ浪人と知り合う。おたがい釣りが好きということで意気投合するが、相手は自分と相対する一味に雇われていて、やがて二人は対決することに。。。。なんてストーリーは時代劇ではよくある話だ。
この作品もその流れを外さない。今回は将棋で友情を深めるたあと、一つの因縁で対決することになる。
これだけワンパターンのストーリーでも、みんな見てしまうところが時代劇の吸引力なのであろう。

それにしても市のいかさまバクチも腹を立てられてもおかしくない。市がさいころの壺を振る。床を叩くとさいころが2つ飛び出している。2つの目がわかっているので、まわりはひっそりと大笑い。メクラの市もバカをしたなとばかりに当然その目に賭ける。ところが、壺を開けようとすると、市が「あれ、間違ってさいころが袖から飛び出してしまったよ」とばかり、袖に戻して壺の中の2つのさいころを出す。それが飛び出した2つの目の反対となり市が総取りという構図だ。いくらなんでもこれこそいかさまだ。これで腹を立てない方がおかしい。やられた連中が市に復讐しようとするのも無理はない。でもこんなインチキで脚本をつくってしまうんだから、当時の映画量産体制がよくわかる。

勝新とナリミキがメインだが、渋い俳優が脇役で出ている。その一人が藤岡琢也だ。
完全な脇役である。さいころ賭博をやって、市に金をさらわれるみじめな役だ。その後仕返しをしようとしてもことごとく返り討ちにあう構図だ。彼が人気出たのはもう少し後だったと思う。後年は「渡る世間は鬼ばかり」など死ぬまでやった人気俳優になったが、まだまだ大部屋を一歩出たくらいだった。
山本学が親の仇を果たそうとする侍を演じる。山本3兄弟というと、昭和40年代から50年代にかけてはドラマには欠かせない男たちだった。今でも健在だ。叔父さんが山本薩夫監督だけにどちらかというと「アカ」系インテリの色彩が強く、医者役もうまいが反体制映画によく出ている印象が強い。
娘役のクレジットが藤山直子となっている。DVDなのでもう一度見返してみたが、たぶん藤山寛美の娘の藤山直美の幼い頃であろう。顔に若干面影がある。

座頭市としては普通、温泉場のセットなど美術がうまく、闇夜の撮影に強い大映らしい映画だ。

(参考作品)
座頭市地獄旅
盲目の市が将棋を指す


座頭市物語
記念すべき第1作、天地茂が強い
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