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小説 『MM9』 山本弘 レビュー #MM9

2010-07-05 | その他
『MM9』 山本弘

地震,台風などと同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代.
有数の怪獣大国である日本では気象庁内に設置された怪獣対策のスペシャリスト集団“特異生物対策部”略して“気特対”が,昼夜を問わず駆け回っている.
多種多様な怪獣たちの出現予測に,正体の特定,自衛隊と連携しての作戦行動…….
相次ぐ難局に立ち向かう気特対の活躍を描く本格SF+怪獣小説!


一応書いておきます
><ネタバレあり><

MBSにて7月7日から放送されるドラマの原作です.
各局放送日程は

MBS 7月7日(水)25:30
BS-TBS 7月10日(土)27:00
CBC 7月16日(金)26:30
TOKYO MX 7月10日(土)26:30

小説とドラマは登場人物がちょっと変わってます.
いわゆるテレビ受けする形に


怪獣による被害が自然災害として現実に起こっている地球.
パラレルワールド,この小説の表現ではちょっと違うかな.が舞台.

過去に発生した主な大地震やハリケーンの被害は怪獣災害だったとして記録されています.
日本では“関東大震災”や“阪神・淡路大震災”が大型怪獣による自然災害として扱われています.

ちなみに,作中の1923年の怪獣大災害は関東大震災がベースですが,ゴジラ関東侵攻がモデルとの事.
他にも様々な怪獣映画がベースとなって怪獣災害として描かれています.

だからといって無茶苦茶な理由で怪獣災害なんて謳っているわけではなく,『人間原理』に基づく『多重人間原理』によって説明されています.

登場人物の1人,宇宙物理学者の案野悠里の言葉を借りると,人間原理とは
<宇宙は人間によって認識されなければ存在しない>という考え方

それを発展させた,多重人間原理とは
<人間の存在を許す宇宙はたったひとつではなく,ビッグバンによって生まれた宇宙の他に,物理法則の異なる宇宙(つまり,怪獣が存在する宇宙)もあり得る.それを“神話宇宙”と呼ぶ>という考え方.

で,この神話宇宙というのはビッグバン宇宙の元素などから構成される物理法則は適用されず,いわゆる魔法や妖怪,怪獣といったものを許容できる宇宙であると.

かつて,人間が意識を持たなかった時代はビッグバン宇宙と神話宇宙は共存していてギリシャ神話や各地に残る伝説などが人間の生活と共にあった.しかし,人間が意識を持つようになり,それらの出来事を次々と自分たちの都合に合うように改変していく事で,神話宇宙の存在はビッグバン宇宙から切り離されていった.
怪獣災害が未だに存在しているのは,この人間による神話宇宙の切り離しが完全に完了していないからだという.

ちなみに,この『神話宇宙』というのは“myth universe”と“miss universe”の洒落だとか.

題名にある“MM”とはMonster Magnitudeの略であり,怪獣の体積や種類から予想される怪獣災害の規模を表すための数値.MM0は1トンの水に等しい体積であり,MMが1あがるごとに体積が2.5倍となっていく.
MM8は水重量換算1600トンから4000トン相当(二足歩行型の怪獣であれば身長40メートルから50メートル)であり,歴史上MM9以上の怪獣は神話や伝説の中でしか確認されていない.


こういった,ハードSF要素をベースに怪獣災害が存在し,これに立ち向かう気象庁の職員たちが日本中を駆け回る箱庭冒険活劇となっています.

では,この小説も章ごとに行きますか.


<第一話 緊急!怪獣警報発令>
怪獣3号 固有名「シークラウド」 MM8.7
深海で成長したエビが餌場を求めるために数千匹の群体生物となり東京湾に向かって移動しているのがその正体.

気象庁特異生物対策部,通称“気特対”の説明と,小笠原海域で発見された海洋怪獣の話.
いや,エビの大群が海中を一直線に進んでくるなんて想像しただけでゾクゾクします.
海中カメラにエビの大群が映る描写なんて,細かい表現でもないのに,思わず部屋をみまわしてしまう.

<第二話 危険! 少女逃亡中>
怪獣6号 固有名 「ヒメ」 MM4.6
岐阜県に出現した外見が10歳の少女にみえる体長20メートルの怪獣.
自分の意志で体のサイズを変更する事が可能であり,手から光の刃を形成することが可能.

表現はかわいいんですけど,出現時にはいわゆる放送禁止な格好をしているわけで,おそらく映像化はこのままでは困難なシナリオ.でっかいヒメにも服を着せるとかの処置ができるかもしれませんが,それでは多重人間原理を都合良く解釈しすぎです.
物語上,このあとすべての話に関係してくるので重要な怪獣なんですが,ドラマはどうするんでしょうか.
もしかして全然違う話になるかな.

<第三話 脅威! 飛行怪獣襲来>
怪獣1号 固有名 「グロウバット」 推定MM1.5
コウモリに似た飛翔怪獣で体内に放射性物質を持つ.
科学博物館に展示してあるあるものを目指してアフリカから飛来した.

もう話がギャオス.コウモリと表現されていますが,頭の中ではギャオスが東京に向かって一直線に飛んでいる様子が頭に浮かんでいました.

<第四話 密着! 気特対24時>
怪獣5号 固有名 「メガドレイク」 推定MM6.0
吹田市に出現.女子高生が公園に埋めた違法に持ち込まれたマンドレイクが巨大化したもの.

テレビ局が気特対の活躍を世間に広めるために密着取材をするお話.
ビル群に巨大植物怪獣ってやっぱり大レギオンしか思い浮かばない.あっちはもっとたちが悪くて,ガメラが被害を最小限に抑えるために自爆して仙台もろとも吹き飛んだけど.結果として宮城県は仙台を中心に壊滅.

<第五話 出現! 黙示録大怪獣>
怪獣7号 固有名 「クトウリュウ」 MM9.0
8つの龍のような頭を持ち,背中には人間の上半身がのっている.

いわゆる神話宇宙とビックバン宇宙は神と呼ばれた多頭龍がつくり,その後,別の生物と戦い,肉体を滅ぼしたが魂だけは神話宇宙に存在し続けた.1000年に一度,多頭龍ともう一つの生物との戦いが再現され,勝利した方に宇宙が委ねられる.

世界中に存在する神話や伝説,宇宙創造の話がすべてかつて神だった多頭龍と人間の意志による真実の改変によって表現されている,一回読んだだけではなかなか理解できないお話に仕上がっています.
これまでの4話で張られた伏線を見事に回収した良エピソードです.


やっぱり,日本で怪獣ものをやるなら自衛隊にがんばってもらわないと.
でも,自衛隊ではなかなか刃が立たず,別の怪獣の助け(実際は地球を守るためだったりする)によって窮地を乗り切るってのは怪獣ものには外せない設定.
だからやっぱり平成ガメラは好きなんです.

もちろん,ゴジラみたいに自衛隊内に特別編成チームがあってメーサーのような特殊武器や,かつて人類が倒したゴジラの亡骸から作った機龍をつかって危機を脱するという話も好きなんですけどね.

単に機龍シリーズは好きなだけですが.

コンセプトとしては武器を持たない公務員が怪獣相手に現場と対策室を駆け回りながら奮闘する人間ドラマ.であるため,怪獣はあくまで脇役.
名前の出てこないオペレーターとか部員が多いけど,その人たちにも何となくキャスティングができるというのはやっぱりおもしろい証拠.

特に,最後の部分はこの小説,ひいてはこの世界に存在するすべての特撮物を表現する会話となっていて,これは秀逸.
絶対に後ろから読んではいけません.

ドラマが楽しみです.


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