2007年9月9日(日)05:33
◇問題への認識 教員、家族でズレ
「ささいなことで友達をぶつ」「保育園を飛び出してしまう」――。東京都内の小4男児(9)は、2歳前後で保育士から問題行動を指摘されるようになった。
■しつけの問題?
「しつけの問題」「愛情不足かも」。保育士に言われ、母親(39)はしかったり、家庭で触れ合う時間を増やした。だが、園での振る舞いは変わらない。家で
は活発に動き回るが、問題児と思えなかったという。「園と家の行動が違っていたのだろうが、保育園の認識とズレがあり不信感が募った」と母親は振り返る。
親や保育士からしかられ続けた男児は、おどおどしたり、パニックを起こして暴れることもあった。注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されたのは小学1年
の時。「今でも時々、怒られている風景がよみがえる」と男児。母親は「『もしかして』という視点を持てたら、もっと早く障害が分かったかも」と話す。
■集団の中で発見
子どもが集団生活を送る幼稚園や保育園は、自閉症やアスペルガー症候群、ADHDなどの発達障害に気づきやすい。特に知的な遅れがない場合、ほかの子とか
かわる中で「違い」が見えてくる。研修などが行われているが、知識不足から発見が遅れたり、気づいても親に伝えづらいと悩む教員、保育士もいる。
対応を工夫する園も出始めた。横浜市の港南台幼稚園は、2年前にスクールカウンセラー(SC)を導入。専門的な視点から子どもの発達を観察してもらい、保護者の相談にものる。
「幼児期特有の行動なのか、早期から対応する必要があるのか、SC導入前は見極めが難しかった。今は教師も保護者も気軽に相談でき、子どもへの理解が深め
られる」とレーポー智子園長。同園のSC、山下直樹さんは「子ども自身が一番困っていると認識して、親や教師が接し方を変えると、子どもも少しずつ集団生
活になじむ」と話す。
■悩む親
「保健師は医師の受診を勧めるが、夫や夫の両親は『必要ない』と反対する。一体どうすればいいのか……」
国立精神・神経センター武蔵病院の佐々木征行・小児神経科医師のもとに、ある母親から届いたメール。幼稚園児の息子が同世代の子と口をきかず、不安な気持ちを切々と訴えていた。
保健師や保育士に指摘されても、我が子が障害者と呼ばれることを拒み、受け入れに時間がかかる場合は多い。母親が気づいても、他の家族が理解しないことも
ある。佐々木医師は「誰にも言えずに悩んでいる親は多い」とみる。5年程悩んだ末、子どもを受診させた母親が、「育て方が悪いと思っていたが、障害と分か
りかえってほっとした」と漏らしたこともあるという。
偏見も残る。日本自閉症協会が昨年、市民6000人を対象に行ったアンケート(回収
率43%)では、自閉症の原因を「脳機能障害」と正しく認識していたのは女性7割、男性6割弱。2割以上が誤って「心の病」と答えた。また、「自分の子が
自閉症児と一緒に遊ぶことをどう思うか」の問いには「不安」と回答した人も1割近くいる。
同協会の石井哲夫会長は「一時、凶悪事件の加害者に発達障害があったという報道が目立った。障害そのものが原因ではないのだが、誤解している人もいるようだ」と話す。
厚生労働省精神・障害保健課の日詰正文・発達障害対策専門官は「早期発見は、偏見をなくすことと合わせて進めることが必要」と指摘。同省は今年度中に、啓発や情報発信を行う「発達障害情報センター」(仮称)を設置する予定だ。【反橋希美】
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◇障害児教育、遅れる幼稚園の対応
今年4月、学校教育法の改正ですべての幼稚園・小中学校・高校に対し、障害児一人一人に応じて適切な教育を行う「特別支援教育」が義務づけられた。文部科
学省は障害を持つ子どもの実態把握と支援策を検討する「校内委員会」の設置を求めているが、設置率は小中学校が90%を超えるのに対し幼稚園はわずか
33%(06年9月現在)。専門家が発達障害を持った子どもの指導法などを助言する巡回相談は約6割の幼稚園で行われているが、専門家が常勤する相談室や
支援教室を設置している幼稚園は極めて少数だ。また、保育園は、そうした支援体制についての状況調査も実施されていない。