(2)分野横断的制度
①公の施設の指定管理者制度
地方自治法244条には公の施設について「住民の福祉の増進する目的」と明記されている。指定管理者制度は、自治体が設備投資した施設を使って、指定管理者が管理をおこなう仕組みである。
指定管理者制度は、住民サービスの低下、癒着、雇用問題などが常に付きまとう。板橋区では、スポーツ施設を管理する企業のPRビデオに担当課長が登場するなど問題が起こった。また、指定管理者は数年に一度募集がおこなわれるため、事業の継続、雇用の継続という観点からも大きな問題がある。総務省が通知した「指定管理者制度の運用について」(101228)では、「公共サービスの水準確保という要請」「単なる価格競争による入札とは異なる」「指定管理者が労働法令を遵守することは当然」などの制度開始以来、価格競争が激化し、住民サービスの低下がおこっていることの改善を支持した。また、当時の片山総務大臣は、「コストカットのツールとして使ってきた嫌いがあります」「例えば、公共図書館とか、まして学校図書館なんかは、指定管理になじまないと私は思うのです。やはり、きちっと行政がちゃんと直営で、スタッフを配置して運営すべきだ」「結果として官製ワーキングプアというものを随分生んでしまった」と会見で語っている。
②PFI(Private Finance Initiative)
「仕様発注から性能発注へ」というのが、PFIの大きな特徴である。自治体側は性能だけを発注してあとは企業に任せられている。尾林弁護士が各地のPFI施設を見てきた特徴として、①ガラス張り(床に総合医療センターは特殊なガラスであるため1ヶ月穴が塞がらず)、②吹き抜け、③じゅうたん敷き──の3つが上げられるという。
PFIは従来に比べて管理経費が安くなることがふれこみだったが、実際には野洲市立小・幼の維持管理契約解除で5億円経費削減された事例などが生まれている。PFIは、政治献金への規制もないことも大きな問題である。
③地方独立行政法人
総務省研究会報告書にある「事務・事業の垂直的減量(官から民へ、民から廃止へ)」に見られるように、事業を行政の手から離していく役割を持っている。機動的・戦略的に対応するためのツールと称して、議会が関与の後退も起こる。
首都大学東京は、毎年3億円の予算削減が。教員に対して「顕著な外部資金の獲得」などとして企業とタイアップして外部から研究費を獲得することが打ち出された。本来の大学は、都民・国民のために研究であり、お金を稼ぐことではない。こうした事例が各地で起こっている。
④構造改革特区
現在、総合特区法を使って産業競争力会議が提言した、解雇規制の緩和、ホワイトカラーエグゼンプションなどをやろうという動きが強められている。これらは議会を通さずに、自治体から内閣府に問い合わせ、自治体当局者だけですすめることができる仕組みだという。
⑤市場化テスト
市場化テスト「官から民へ」を加速させる仕組みである。いくつかの自治代では、市役所の中枢部分についても、民営化、委託と派遣ですべて住民票などの発行業務を任せようとする動きもある。
(3)各分野ごとのサービスの担い手と質の問題
ここで重要なのは、ある特定の分野だけに関心を持つ人たちに対して、直接の利害関係でなくても全般的な理解を深めてもらうということである。これは、新自由主義的構造改革に対抗するということになる。
基調講演の中では、保育、学童保育、図書館、文化・芸術、介護、水道、体育施設、建築確認、学校給食、試験研究機関、公共交通について報告があった。ここでは、特別報告があったふじみ野市プール事故と新潟市学校図書館司書問題について報告する。
□事故調査の重要性を考えるプール事故刑事裁判と事故調査機関設置を求める運動の経験から(ふじみ野市職員労働組合 鶴田昌弘執行委員)
06年7月31日に起きたふじみ野市大井プール死亡事故。流れるプールのポンプに吸い込まれて小学生が亡くなった。低下していた公共業務の総合性、管理運営、事故をどうすれば防げたのか(直近責任)について検討を加えてきたという。
自治体合併した直後の事故であったことも強調され、合併そのものも性急で、時間的余裕もなかったという分析も寄せられた。同一業者への委託で「同じ業者だから大丈夫であろう」という間違った安心感がこうした深刻な事故を起こすことになった。受託先の力を見抜ける力をもっていなかった
消費者庁が事務局となり、消費者安全調査委員会が事故調査機関として発足したことは、こうした動きは「事故の再発防止・未然防止」に向けての画期的前進。
□公務労働の雇用の劣化を調査し、議会で取り上げる(日本共産党新潟市議団)
新潟市は、公務員の定数削減、非正規への置き換えをすすめてきた。この結果、2013年4月現在、約1万2千人のうち正規職員は約7300人となっている。市民から見れば市の職員だが、実際には非正規労働者でありトラブルも起きている。非正規が増えるような状況でいいのかという問題意識をもってとりくみをおこなってきた。
新潟市では、非常勤の学校図書館司書が、図書を中古書店に転売するという事件が会った。この行為は許されるものではないが、こうした事件が起こる背景が問題になった。日本共産党新潟市議団では、この問題が起こる前から学校図書館司書にアンケートをおこなっていた。
学校図書館司書からアンケートをおこなった結果、49・3%の回収率で自由記述欄を含めてびっしりと書かれていたという。ほとんどの司書が仕事にやりがいを持ちながら、一方で学校との連携や賃金・労働条件などで多くの不安・不満を抱えていることも明らかになった。また、「意見を聞いていただけることを大変ありがたく思います」など感謝の声も寄せられたという。生の声をしっかりとらえて議会活動に反映をしている。議会の質問に対して「必要に応じて賃金の引き上げなど、待遇の改善を図っていく」「通勤手当や雇用期間の拡大については、市長部局とも調整し、できる部分は改善していきたい」と教育長から答弁があった。
(4)公務公共サービスの質の擁護と運動
公務公共サービスの質の擁護運動が重要である。現在のように、官製ワーキングプアを生むような状態であってはならない。本来の公共サービスとは、①専門性・科学性、②人権保障と法令遵守、③実質的平等性、④民主性、⑤安定性──福祉国家的な政策・公共部門の充実である。
富裕層ほど、公共サービスを使う機会は少ない。一方、貧困層ほど公共サービスを必要としている。たとえば、富裕層が六本木ヒルズの高級スポーツクラブでスポーツをやれるのに対して、市民は公共施設のスポーツができる場所を求めてスポーツをおこなう。この点では、社会教育法のなかで誰もが利用できるスポーツ施設を運営することが求められてくるが、実際には安全を後退させて、財源措置はしない事例が起こっている。
公共サービスの向上を願う市民と公務労働者の利益は一致する。だからこそ、「自治体民営化」によって住民サービスの後退が起こっている実態を鋭く告発していくことが重要になる。また、公共サービスに頼らざる得ない市民と、頼らなくていい富裕層のコントラストをしっかりと出していく必要がある。
これらは、世界的な民衆のなかでは当然のことになっている。イギリスでは、「いまこそ積極的に公共性の意味を訴えよう」とスローガンを掲げ、公務員である消防士が地下鉄テロのときに活躍した様子を大々的に宣伝している。
カナダでは、グッドキャンペーンをおこない、「福祉の充実のために、公務ストライキを支持します」というステッカーを街中に貼っていく運動がおこなわれている。
EUでは、「明白なことは、今日の政治的議論や経済学の主流において支配的な民営化し浄化の経済的効果に対する積極的な期待は、あまりにも単純すぎるし、あまりにも一面的」と指摘され、欧州公共サービス憲章(欧州自治体協会)では「公共サービスを提供する最良の方策を民主的かつ自主的に決定することは地方自治体の責任であり権利」が掲げられている。
地域循環型政策は自治体の基本的な権利である。公共サービス──住民の福祉の増進と公務労働者の働く問題は一致した要求になっている。
(さいごに)
今回の分科会を通して、「自治体民営化」のねらいと具体的な手法について事例も示しながら学ぶことができた。町田市でも、職員の非正規化、指定管理者制度の活用、清掃工場や保育園の民営化などがおこなわれている。市民にとってどういう影響があるのか──このモノサシで見ていくことが必要であり、同時にそこで働く労働者にとってどういうことになっていくのかという視点を持つことが重要だと感じた。
「住民の福祉の増進」(地方自治法1条)という精神を発揮して、住民のいのちと暮らしを守る自治体の役割を最大限発揮できるように今後の活動に生かしていく。
(おわり)
にほんブログ村←ブログを見ていただきありがとうございます。ぜひ、応援クリックをお願いします。
┏┓池川友一|日本共産党町田市議会議員
┗╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【事務所】
〒195-0061 町田市鶴川5‐10‐4
電話・FAX/042(734)1116
メール/up1@shore.ocn.ne.jp
※無料のなんでも相談、法律相談もおこなっています。なんでもお気軽にご連絡ください。