空想のその社会にあるその会社には、交際相手がいないと採用されません。ただし希望すれば採用前に会社が交際相手を紹介してくれます。入社式が結婚式を兼ねます。婚活と就活は同じとなりますから手間が省ける。当然、経済的能力が高く社会的評価が高い企業と思われれば、人は集まるでしょう。一方、妊娠しない社員は左遷されるというようなブラックな面も出る。新入社員は妊娠しないと昇格昇給できない。
逆に出産保育の経費は全額会社負担、育児中の社員には手当と休暇が与えられます。配偶者は社外でもよいが社内を選ぶ人が多い。もちろん婚外妊娠でも差別はありません。こうすれば子供は増える。しかし会社はどうやって存続できるのか?皆さん、首をかしげるでしょう。市場競争でどのように優位に立てるのか、分かりません。
もう一つ会社に関して別のアイデア。社員の子弟以外は入社させないという方式もあります。たとえば家族のように極端に排他的で外部の人間を参加させない集団で会社を作る。冗談で極端なたとえを言えば、それぞれの企業を独立国のように孤立させる。そこで老子の小国寡民のごとく、ゼノフォビア、ナショナリズムを極端に奨励すれば、外部の人間を雇用することを避けるようになる。
トヨタ王国ではトヨタ語を公用語とし、トヨペットという貨幣を使用する。三菱帝国では、三菱語しか話してはいけない、通貨はスリーダイヤです。よそものは入れません。それぞれの企業内部で妊娠出産育児を実行しなければその会社国家を維持できません。独占メリットを享受するゆうせい王国なら、ある程度可能かもしれない。社員の子しか採用しない内規とする。
まあマンガ的冗談ですが、しかし、そのような会社が仮にできたとしても、はなはだ非効率な生産形態となり、いずれ国際市場での競争に敗れて消滅する恐れが大きいでしょう。
ここで誤解を避けるために現行の育児休暇など福利厚生施策を実施している会社とこの空想的会社との根本的な違いを確認しておきましょう。
現在多くの会社で行われている女性活躍施策あるいは妊娠出産育児の支援策は、フェミニズムのためあるいは優秀な女性を活用できるメリットのために、有給不労働時間をあえて増やすデメリットをコストとして支払うという方策です。それに対して、この空想会社は妊娠出産育児を生産に不可欠な要素として組み込んだシステムですから妊娠出産育児の時間は有給不労働時間ではなく、生産稼働時間になっています。
現代社会ではこのような空想的会社は存在しません。存在できないし、そもそも発生しないでしょう。あえて特殊な例として空想の会社に近い現代の生産形態としては、育児日記を書いて稼ぐ小説家、親子タレント、歌舞伎役者一家、茶の湯など伝統アート家元、家族経営旅館、子連れ狼(子連れの刺客)など。いずれも家族家業であってメジャーではありません。