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哲学の科学

science of philosophy

高齢社会の終相(5)

2024-09-08 | その他


エリート優遇
大方の人に元気がないならば、少数のエリートに希望を持たせてがんばらせよう、というエリート主義があります。共産主義社会では国家エリートが優遇されて、科学や芸術、スポーツで国際的な活躍を期待されます。宇宙開発や高層ビル建設でもプライドは満たされます。
なんといっても、しかし、エリートから国全体に希望が広がるためには、経済の繁栄が一番大事でしょう。エリートが経営するエリート企業が活躍して、優秀な製品やサービスが行きわたり、輸出が増えて富が手に入れば、国民は幸福です。
企業のエリートが発明し工夫し、生産性をあげてくれれば、生活も豊かになります。政治のエリートが国民のために法律を整え、美しい秩序を維持してくれれば安心と安全を享受できます。エリートが作り出す希望を全体に敷衍するそういう体制を維持する国家はうまくいきそうです。
エリートを育成し優遇することが重要である、となります。明治の日本や共産主義最盛期のソ連や中国もそうしました。
自由経済を標榜する米国などは、実は、エリート優遇の最先端でしょう。自由競争を擁護するその体制で、新産業創業家のエリートは最大限活躍できるようになっています。インドもようやくそのシステムが回るようになってきたようです。
エリート優遇は、あからさまにすると、マスコミが嫌うので、言ってはいけないことになっています。エリート側は権力を握って、秘密警察でマスコミを弾圧するとか、それが評判悪いならばお抱えプロパガンダ専門家を雇ってコントロールするとか、しなくてはなりません。
エリート優遇はけしからん、と言っても言わなくても、現代社会がそれを使うシステムの快適さを享受しているならば、結局、そのシステムは利用され、その恩恵は敷衍します。エリートの活躍で楽観がいきわたって生活の底があがればよし。世界は、幸福を目指して進んでいます。
そうであれば、成長の上蓋が重いこの国の社会も、世界の楽観の拡散に身を預けて、日々を過ごすのも悪くない、との思いになってくるでしょう。








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高齢社会の終相(4)

2024-09-01 | その他


孫やひ孫の時代になればだんだんと世の中はよくなってくるだろう、未来は楽観的、と思えれば老人なりに夢を見ることもできます。これから来るそれが真実の時代だ、とも思えます。
一方、自分の後で真の時代が来るというのは不愉快ですから、自分が終わるころ世界も終わると思いたい、という感覚もあります(拙稿92章「耄碌頭巾」)。末世思想ですね。
年寄りには実はひそかにこの思想が多い。多数派なので時代気分を作ってしまいます。つまり、高齢社会では、マスメディアのペシミズムに反映しています。
多産多子の人口増加社会ならば楽観論に勢いがある。少産少子では悲観論になります。子を産む若い人は、自分の都合が優先するから、年寄りを慰めるために出産をすることはありません。少子化でマスメディアは悲観論になる。悪循環で少子化と悲観論は強くなるしかありません。
子孫繁栄、産めよ増やせよ、というと保守反動になる。封建イデオロギーの臭いがする。人間解放、女性解放の逆方向だから危険、と思う人もいます。何を言っても、結局は、少子化で仕方がないでしょう、と世の中はあきらめています。








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高齢社会の終相(3)

2024-08-24 | その他

動物は身体が弱るとエサが食べられないのですぐ死ぬ。苦しむ暇がない。孤立して仲間と一緒に行動できないとエサが食べられないのですぐ死ぬ。さびしさを感じる暇がありません。
人間は身体が弱っても誰かがエサを食べさせてくれるので、かえって苦しんで死んでいく。年を取って孤立してもコンビニや福祉があるのですぐ死にはしないが、結局かえってさびしく死んでいく。因果なものです。
ペットや動物園の動物は介護されて死にます。野生の兄弟に比べて寿命は二倍以上になりますが、彼らは幸せなのか?
子孫繁栄の夢
子どもを産んでおけばその成長を楽しむことができます。昔の人は五十代くらいで死んで、そのとき子供は三十代くらいなので、たくましい子供を残して死ぬことができました。子孫の行く末が楽しみ、と思うこともできました。
後期高齢まで生き延びてしまうと、子供自身も老年に入ってきてしまい、あまり頼りがいがない。人口減少と国力低下ばかり語られるようでは、自分たちは悲観的老境にある、と思うようになるのも無理ないでしょう。








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高齢社会の終相(2)

2024-08-17 | その他

ひたすら延命
日々の生活が楽しみ。身体が衰えることで今の生活を変えたくない。
生活費は節約して、貧困化のリスクを避ける。一日でもふつうの機能を維持するため、健康対策は欠かせない。ひたすら延命を心がけます。そうはいっても、頑張りはいけません。過激な節約や健康志向はかえって身体に害ですから、適度にします。
毎日のルーティーンに節約と節制を組み込んで、それを楽しみにするとよい。歯を磨いたり、風呂に入ったり、廊下の電灯を消したりします。散歩など身体を緩慢に動かすのが人生最高の楽しみ、となってきます。

老人の夢
それでは明日の夢もなくて、退屈でしょう。過去の人生は失敗と悔恨の連続。未来はもうあり得ない。だから老人にはなりたくない、と若いころは思っていました。
だが、実際老人になってみれば、気分はそう暗くもありません。
老人には明日がない。明日がなければ「明日からは何をしたい」と言っても聞いてもらえません。ニヒルにならざるを得ません。しかし、ニヒルといってもこれは、うつうつと暗く救いがない、という若い頃のニヒルとは違います。
猫もニヒルですが、暗くない。吾輩は猫である、とも思っていませんが、猫であるのは嫌だとも思っていないらしい。どちらかといえば明るい。おおかたの年寄りは、若い人よりも実は笑っていることが多い。機嫌が悪いということはありません。
明日がなさそうな老人でも、ニヒルなりに、夢とはいえないが妄想はある。ピンピンコロリであるとか、子孫繁栄とか、夢のごときもの、はあります。その実現は、残念ながら、むずかしそうです。不可能ではない、という程度でしょうか。

動物の夢
ピンピンコロリであるとか子孫繁栄とか、人間以外の動物は、夢ではなく当然のごとく簡単に実行しています。人間は願っていてもうまくいかない。
人間だけが、最後に、苦しんでさびしく死んでいく。なぜか?







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高齢社会の終相(1)

2024-08-10 | その他


(99    高齢社会の終相  begin)




99    高齢社会の終相


筆者は今年で七八歳になりますが、この年になるともうサラリーマンや社長をしている人は少ない。ほとんどの人は家族に扶養されているか、年金生活者でしょう。年寄りには、だれも、なにも頼んでくれない。毎日のんきに暮らしていますが、さすがに年齢を感じる機会は増えてきます。
まず友人が死んでいく。配偶者をなくしたという話を聞く。身体を動かすとすぐ疲れる。手足がついてこない。運動の自由が利かなくなっています。
毎年ひとつずつ増える年齢は、ついに、親が死んだ年を越していくところです。

長寿世界一のこの国では、来年くらいから団塊の世代が後期高齢者層に達し、少子高齢化が加速する、となっています。高齢化がどこまでも進めば、全員高齢者になって国は終わる、という冗談のような社会の終相が見えてきました。
いわば最終段階に達しつつある、といわれるこの時代、後期高齢者の最期は、どうなるのでしょうか?

保守固陋
子どもには夢がある。青年にも夢はある。こういう人たちは、インタビューの最後に将来の夢は?と聞かれます。五〇歳くらいの人でも、自分から「私は六十くらいで・・・したい」とか、テレビでよく述べています。
これが後期高齢者、八十歳近くになると、もうだれも聞いてくれません。自分から「百まで元気で」などといえば、「できますよ」とかインタビュアーは励ましてくれますが(笑)目が笑っている。つまり当然の冗談が混ざってきています。
いずれにせよ、しばらくは、このまま行きたい。今日と同じように明日もあってくれれば最高。つまり保守固陋の権化にならざるを得ません。
保守固陋は変化しない。その層がどんどん増えるばかり。困ったことです。






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チンギス・カンの子孫(5)

2024-08-03 | その他




チンギス・カン個人とその後継者たちの実務能力の優秀性が、当時の歴史環境に適応していたがゆえに適者生存となり、大増殖した結果、と見ることができます。
このような過去の歴史が、一個のY染色体DNA型の急速増殖による地球規模の拡散という物理的現象になって現代に残っている、という事実の発見は、現代生物学のホールマークと言えるでしょう。■















(98 チンギス・カンの子孫  end)





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チンギス・カンの子孫(4)

2024-07-29 | その他


征服地の王族を抹殺し、貴族と豪族の女子を妻妾として王子にめとらせることで新しい宮廷(オルド)を形成し、そのもとに多くの千人軍団を組織し新しいウルスとする。こうして王子たちのY染色体DNA型は新しい支配地に拡散していきます。
チンギス・カン一族による世界制覇の特徴は、子孫を増殖するシステムを、超遠隔地にまで急速に拡大できる能力です。強力な騎馬軍団の常勝実績と移動速度が他朝の王国システムに卓越していたことが挙げられます。
戦闘軍団の形成と維持の能力、支配地、隷属民の取得と維持の能力、が他の政治勢力に比べて抜群の実績を持っています。これが王族としての増殖力、つまり一族のY染色体DNA型の急速な拡散を実現した、と推測できます。
ウルスの中心にあった宮殿(オルド)における妻妾集団の経済的自立がありました。皇后を中心とする側室、女官、数十人からなる閉鎖されたこの女性集団は、王族の増殖システムであるばかりでなく、従僕や宦官を介して外部の外国商人との商業取引を業務としていました。
オルドの内部統制から発展して、警護体制、下僕奴婢の管理、隷属民の牧畜生産の支配、外国商人を介する物流・貿易の保護と活用を通じて、ウルス経済の重要なハブとなっていました。
軍の遠征により獲得される戦利品、金銀財宝、奴隷、家畜群、物品の需要、供給、流通の活発化が、戦争経済の急速な拡大とそれに並存するユーラシア横断商圏の活性化に寄与していた、という理論が可能です。

Y染色体DNA型の急速な拡散が実現するためには、一夫多妻制の王族を持つ大帝国の存在が必要です。同時に遠隔地に展開する支配者一族の安定的な増殖と権力維持を可能とする支配体制が必要です。最後に王権の男系相続のルールが徹底されなければなりません。
大英帝国などにはなく、モンゴル帝国だけが装備するこれらの構造を、意図し、設計して創造した何者かがいたのでしょうか?チンギス・カンがその設計者なのでしょうか?
モンゴル帝国の構造は、たしかにチンギス・カンが命令し指揮して構築されたものが基盤となっています。しかし彼の完全な独創とはいえません。戦争技術、婚姻制度など、多くのシステムはモンゴルその他の大陸遊牧民族の伝統的習俗から引き継がれています。
チンギス・カンの独創は、世界にたぐいまれな常勝実績を持つ侵略軍をつくりあげたことでしょう。大陸遊牧民が伝統的に持つ騎兵戦闘力を再編成して厳しい軍紀のもとに明快な指揮命令系統を備えた大軍団を創設しました。
これを支える家族軍団による機動的兵站、外国貿易商人による財務流通交通のインフラ。武器、馬具、馬車、天幕などの技術改良を進め、効率的機動的な戦争体制を築き上げました。これらの創意工夫、技術、開発、組織機構の発展が、地球上の他の民族、王国、国家連合など当時の軍事システムのどれよりも抜群に優れていたから、大帝国が実現した、といえます。








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チンギス・カンの子孫(3)

2024-07-19 | その他


軍は左右両翼と中央軍に分ける。進軍方向の左右です。モンゴルから見て右翼軍五万人くらいは西に進軍させる。左翼軍五万人は東に進軍。実際の戦闘は最大でも二、三万人くらいで戦う。左右の各一翼は一万人なのでその将軍を万人長(トゥメン)と呼びます。
進軍は家族家畜帯同で進み、万人長軍の支配領域(ウルス)は牧草地を中心に山地砂漠湖水被征服民居住地など広大な土地を含み、人口は数万人から数十万と推定されます。
万人長は原則、皇族つまりチンギス・カンの血族と姻族しかなれません。チンギス・カン直系の男子、兄弟、孫、女婿、女婿の兄弟、子息、などです。
万人長は十人の直属部下を持ち、それを千人長(ミンガン)とよび、多くは万人長の親族と姻族です。彼らがモンゴル最上級の世襲貴族階級(ノヤン)を形成します。千人長は帝国全体で百人くらい任命されていて、お互いに兄弟姉妹、血族姻族のネットワークでつながっています。
千人長の下には十人の百人長(ジャウン)が所属していてこれも親戚姻戚血縁ネットワークで結ばれています。百人長は十人の十人長を持ちます。十人長が小隊長ですね。千人長は宿営地の中心に大きなゲルを建てて居住し、部下とその家族は周辺に各戸のゲルを作って放牧村落として生活します。
このモンゴルシステムに随伴して、一夫多妻制により、権力と富を集中できる王族と貴族は多くの子孫を次世代に送ることになります。征服領域が拡大すれば千人長の村落は増加し、その男子の子孫を通じて王侯貴族のY染色体DNA型が大域に頒布されることは理解できます。

たとえば、カスピ海からウクライナ、ロシアにいたる西北アジア一帯(ジョチウルス、昔の教科書の国名ではキプチャク汗国)を支配したジョチ(チンギス・カンの長男)は一四人の息子を産み、それぞれ王族として支配地と軍団をあたえています。ジョチのひ孫のモンケ・テムルは十人の王子(ウズベク王朝の祖など)を持ち、個々にウズベク地方に軍団を展開させています。








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チンギス・カンの子孫(2)

2024-07-13 | その他


チンギス・カンの一族は一三世紀、ユーラシア全域にわたるモンゴル帝国を構築し、歴史上、一九世紀の大英帝国にならぶ巨大帝国を成立させました。
この帝国は、卓越した軍事技術と世界規模の貿易・商業、虐殺の恐怖風評、などを活用して世界の半分を征服しました。結果、人類の歴史上、大規模侵略の組織化と国際貿易の経済性の飛躍的発展により、全地球が一体化された時代を作り出した、といえます。
帝国の基盤は、世界で卓越した戦闘力を持つ騎馬軍団とその統率力です。戦闘力はモンゴル諸族の統一戦争と世界制覇の過程で洗練された合板短弓の武装と騎馬戦術、家族家畜帯同の集団的兵站と高速移動能力、で実現されました。
統率力は、モンゴルの伝統である一夫多妻、兄弟姉妹の姻族ネットワーク、皇后支配の妻妾集団による王国経営、皇族、将軍、兵士にいたる封建階級体制が、騎馬伝令(ジャムチ)による遠距離統制を実現し、世界貿易による商業収益を下敷きに完成していました。
モンゴル帝国の統帥体制は、基本的に伝統的封建体制であり、概括すれば日本や西洋の封建体制に似た血縁地縁を下地とする階級制忠誠契約制の人間関係によって維持されていました。
軍が社会と一体となり帝国を支配する。最盛期で軍人の総数は数十万人程度の世界帝国としては少数精鋭の組織でした。







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チンギス・カンの子孫(1)

2024-07-06 | その他


(98  チンギス・カンの子孫  begin)




     98  チンギス・カンの子孫


ジンギスカン料理とかバイキング料理とか、山賊や海賊の野蛮な料理ということで人気があります。割り勘負けするので筆者はふつう避けます。
歴史上のチンギス・カンといえば、人類史上最も多くの子孫を持つ男性として大いに人気があります。DNA考古学のポピュラーなテーマです。

前世紀末から日進月歩の分子生物学ですが、DNAをPCRで増幅し解析する技術が確立してから考古学にも応用され、目覚ましい発見が続いています。ジャーナリズムなど一般の興味を引き付けたテーマの一つは、先史や歴史上の事件の解析にも応用され、歴史上の諸民族の興廃と子孫の地理的拡散を、ミトコンドリアのDNA型とY染色体のDNA型で調査した研究成果です。
Y染色体は父系遺伝しますから祖父の祖父をたどって系譜を作りやすい。DNA型を地図上にマッピングすれば祖先の始まった土地が分かります。
最近のアジア人Y染色体DNA型調査(二〇一三年 Mark Jobling Edward Hollox Toomas Kivisild Chris Tyler-Smith「Human Evolutionary Genetics」)によれば、約千年前の過去、東アジアから急速に拡散したY染色体が発見されました。時期と地理上分布から推測するとその中心はチンギス・カンの足跡とみなしてよい、とされました(二〇一五年 Patricia Balaresque, Nicolas Poulet, Sylvain Cussat-Blanc, Patrice Gerard, Lluis Quintana-Murci, Evelyne Heyer & Mark A Jobling 「 Y-chromosome descent clusters and male differential reprodutive success: young lineage expansions dominate Asian pastoral nomadic populations」)。

チンギス・カンのY染色体DNAはそれを注入された子息たちを通じて子孫に頒布されました。モンゴル軍の拡張に沿ってユーラシア全域に拡散したと推測されています。
チンギス・カン一族は諸国の王家を抹殺し、新たな王朝を作り、自分が生ませた男子を王位につけ、また旧王家の子女を妻妾として子を産ませ、女子は政略結婚を通じて諸国の支配層の姻族とさせました。その結果、一家のY染色体DNAは満州、中国、チベット、中東、ウクライナ、バルカン、ロシアの王族貴族に頒布されています(二〇一八年 太田博樹「遺伝人類学入門——チンギス・ハンのDNAは何を語るか」)。
このDNA型を持つ男性は、一説では、世界中で一六〇〇万人いると推定されています。






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