「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・12・28

2005-12-28 06:25:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「私はテレビも新聞もろくに見ません。それでいて知ったふりして毎週コラムを書くのは申訳ないので、

  時々実物を見に行きます。六本木に行きます。原宿に行きます。行けば得るところがあります。

  六本木の『アマンド』は渋谷のハチ公と同じく目じるしだなと分ります。今度はそのハチ公前に立つと、

  ハタチそこそこの若者につきあたります。このスキンシップに揉まれたくて若者は盛り場に集まるのだなと

  分ります。

  アベックはいくらでもいますが羨望にたえないのはいません。ながいながい息もつまるような接吻をしている

  男女は、むかしパリでよく見ましたが東京では見ません。街頭の接吻は日本人には馴染まないとみえます。

  私は若者の大群を見て、もう一度ハタチの昔にかえりたいとはつゆ思いません。あれは虫けらです。

  私は折々女になる、犬になるくらいですから虫けらになるくらいわけはありません。その目で見あげると人間

  の雌雄は区別がつきません。

  言うまでもなく私は若者をばかにしているのではありません。それどころか私は十年前のハチ公前に立ちます。

  若者たちが雑踏していること今と同じです。五十年前のそこに立ちます。ひしめいているのは今の老人のハタチ

  の昔で、それは現在只今の、いや百年前の千年前の若者と寸分たがいません。」

  (山本夏彦著「愚図の大いそがし」文春文庫 所収)

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