「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

列車食堂 Long Good-bye 2024・07・04

2024-07-04 04:51:00 | Weblog

 

 今日の「 お気に入り 」は 、内田百閒さん

 ( 1889 - 1971 )の随筆「 御馳走帖 」( 中公

 文庫 )の中から「 列車食堂 」と題した小文 の

 一節 。

  引用はじめ 。

 「 つひこなひだ 、所用があつて 、と云ひ
  たい所だが 、用事はなかつたけれど 、大
  阪へ行つて来た 。用事のない者は汽車に
  乗せないとは云はない様だから 、忙しい
  人にまぎれて 、澄まして乗つて行つた 。
  用事はなくても 、お金を分別して 、支度
  をして出かけたのだから 、どう云ふわけ
  で行く気になつたかと云ふ事を考へつめる
  事は出来る 。それを強ひて云へば 、暫く
  振りで 、汽車ぽつぽに乗りに行つたので
  ある 。
   さう云ふわけで 、車中もひまで退屈だか
  ら 、頻りに食堂へ出入した 。汽車に揺ら
  れて腹がへつたわけではなく 、お酒や麦
  酒が飲みたいからなので 、だからきまつ
  た食堂の時間を避けて食堂車のお邪魔をし
  た 。   」

 「  初めて特別急行と云ふものが出来て 、一
  二等編成の『 富士 』が走り出したのは 、
  何年頃の事であつたか 、年代の記憶ははつ
  きりしないけれど 、当時の宣伝ポスタアに
  紅茶を注いだ紅茶茶碗の絵がかいてあつて 、
  特別急行は非常に速いけれど 、揺れないか
  らお茶も茶碗の縁をこぼれないと云ふ説明
  がついてゐた 。
   特別急行『 富士 』には医務室があつて列
  車医が乗つてゐるから 、進行中に気分が悪
  くなつた人は申し出てくれとか 、列車長と
  云ふのもゐると云ふ宣伝であつた 。列車長
  と云ふのは後で考へると 、専務車掌の事だ
  つた様に思はれる 。腕に列車長と書いたき
  れを巻いたのは後まで続いた様だが 、列車
  医の方はぢきに姿を消したのではないかと
  思ふ 。尤も私がその御厄介になつた事もな
  く 、何しろ部外の素人のうろ覚えだから余
  りあてにはならない 。
   『 富士 』は特別急行と云つても 、それ
  からずつと後に出来た超特急『 つばめ 』
  程速くはなかつた 。だから『 富士 』の
  食堂の紅茶がこぼれなくても当り前かも知
  れないが 、昔の『 つばめ 』は今の『 つ
  ばめ 』や『 はと 』と同じ速さで走つた
  けれど 、食堂車ではソツプを出した 。矢
  つ張り線路の所為ではないかと云ふ気がす
  る 。」

  引用おわり 。

 その昔 小学生だった頃 乗った 超特急「つばめ」 は 、大阪・東京間を 、

 8時間50分で 、飛ぶように 、走っていた記憶があります 。

  近時記憶が飛ぶ頻度が増えて来た 、ような気がする 、今日この頃 、

  気のせいばかりじゃないようで 。

 

コメント
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