今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集「茶の間の正義」の中から「昔話や童話を改竄するな」と題したコラムから。
「近ごろの名作童話は改竄がはなはだしい、エロ雑誌以上の悪書だから追放したいと論じたコラムを読んだことがある。
たとえば、桃太郎は鬼ヶ島に、鬼退治には行くけれど、鬼は殺さない。カチカチ山の兎は、狸のドロ舟を沈めない。仲直りしてしまう。
夏じゅう遊びくらしていた蝉は、同じく夏じゅう働いて、冬に備えていた蟻の家へ、食べ物をもらいに行くが、蟻は拒絶しない。にこにこして分けてやる。
拒絶しなければ、話にならない。冬、飢えないですむのは、夏の勤勉のたまものである。勤勉は美徳である。そして、利己的で残忍なものであると、表裏を同時に語るから、子供心にも強烈な印象を受ける。ながく記憶して、長じて思い当ることがあるのである。」
(山本夏彦著「茶の間の正義」所収)
「近ごろの名作童話は改竄がはなはだしい、エロ雑誌以上の悪書だから追放したいと論じたコラムを読んだことがある。
たとえば、桃太郎は鬼ヶ島に、鬼退治には行くけれど、鬼は殺さない。カチカチ山の兎は、狸のドロ舟を沈めない。仲直りしてしまう。
夏じゅう遊びくらしていた蝉は、同じく夏じゅう働いて、冬に備えていた蟻の家へ、食べ物をもらいに行くが、蟻は拒絶しない。にこにこして分けてやる。
拒絶しなければ、話にならない。冬、飢えないですむのは、夏の勤勉のたまものである。勤勉は美徳である。そして、利己的で残忍なものであると、表裏を同時に語るから、子供心にも強烈な印象を受ける。ながく記憶して、長じて思い当ることがあるのである。」
(山本夏彦著「茶の間の正義」所収)