今日の「 お気に入り 」 。
最近読んだ 村上春樹さん ( 1949 - ) の随筆「 村上
朝日堂の逆襲 」( 新潮文庫 )の中に 「 国分寺・下
高井戸コネクション 」というタイトルの小文がある 。
その冒頭に こんな一節がある 。
「 僕はだいたい寝つきが良い方で 、布団をかぶっ
た次の瞬間には石のようにぐっすりと眠っている
というタイプである 。すぐ寝る・よく寝る・ど
こでも寝る 、というのが僕の眠りの三大特徴な
のだが 、寝つきの悪い人にとってはそういうの
を目にするのは少なからず不愉快なことであるら
しい 。」
これだけでは消化不良になりそうだから 、もう
ちょっと引用を続けると 、
「 僕だって自分より早く寝ちゃう人間を見ると ――
そういうことは本当にごくごく稀にしかないのだ
けれど ―― こいつアホじゃないかと思う 。先日
義理の弟がうちに遊びに来て一緒に酒を飲み 、十
一時になったので『 じゃ 、もう寝るか 』と言っ
てそれぞれの部屋にひきあげたのだが 、ドアを閉
めたとたんに忘れものをしたことを思いだして客間
に戻ってみたら 、彼はもうしっかりといびきをか
いて熟睡していた 。その間約十秒というところで
ある 。僕だっていくらなんでも眠るのに二十秒く
らいはかかる 。
それでつれあいに『 あの男ほとんど脳味噌が空っ
ぽなんじゃないかな? 』とあきれて言ったら 、
『 あなただってだいたい同じくらいよ 』と馬鹿
にされた 。過度に健康な人間というのは 、はた
から見ているとたしかに馬鹿みたいである 。
もっとも僕だって昔から終始かわることなく寝
つきが良かったわけではなくて 、若い頃には明
け方まで一睡もできないという時期だってあった 。
こんな風にぐっすりとブラック・アウト的に熟睡
できるようになったのは小説を書くようになって
からである 。」
「 ・・・ 、僕にだってもちろんある程度の精神的
ストレスはある 。あまり沢山はないけれど 、ま
ったくないわけではない 。片づけていかなくちゃ
ならない仕事も山積しているし 、うまく話の通じ
ない人間もいるし 、道を歩いていると車と信号が
多すぎていらいらする 。でも僕の場合 、精神的
ストレスと眠りとはまったくべつの独自の道を歩
んでいるように思える 。要するに『 これはこれ 、
あれはあれ 』という感じである 。」
「 ・・・ 、とにかくまあそういう具合に僕の眠り
は僕のストレスときちんと一線を画しているわけ
である 。だから僕はぐっすりと気持ち良く眠る
ことができる 。」
「 夢なんてほとんど見ないし 、見たとしてもきれ
ぎれの断片を辛うじていくつか覚えているだけで
ある 。」
引用おわり 。
この小文のタイトル「 国分寺・下高井戸コネクション 」
の由来を知りたい方は 、「 村上朝日堂の逆襲 」( 新潮
文庫 )を買ってお読みください 。睡眠時間を削ってまで
読むに値するかどうかは保証の限りではありません 。
( ´_ゝ`)
夏の朝 まだ生ありと 目ざめけり ( 詠み人知らず )
( ´_ゝ`)