今日の「 お気に入り 」。
「 昆虫には昆虫の時間があり 、魚には魚の 、鳥には鳥の時間がある 。生命体の時間もそれぞれ違い
ます 。ただ 、共通して言えるのは 、生命というものが刻々と変わっていくということです。だか
ら、時間が積み重なっていく。ロボットは変わりませんから、生物のように時間が累積していきま
せん。
ロボットの大きな利点は疲れを知らないことと、同じことを何回でも繰り返せること。だから
結果が予測できる。それが機械の持つ信頼です。
かたや 、生物は彼ら自身が刻々と変わっていきますから 、まったく同じことは繰り返せません 。
つまり、同じことは期待できない。期待するとしたら、同じ ” ような ” ことなのです 。こうした
変化も含めて私たちは相手への ” 期待 ” をつくっていきます 。それは、機械に対するものとはま
ったく違う期待です 。
だからこそ 、相手の変化や状況に思いを巡らせる必要があるのです。それが実はとても楽しい
ことなんですね。自分も刻一刻と変わっていくし 、相手も刻一刻と変わっていく。
たとえば 、『 夫婦 』や『 親子 』というように、ある二人の関係を文字にしてしまったら、そ
の時点で化石化して 「 変わらない 」ように見えるけれども 、実は変わっていくものなんです 。
夫婦の間で 「 あなたと私の関係は一生変わらないよね ? 」と話しているときの関係は 、文字
にした場合の 「 変わらない 」とは明らかに違います 。
もしかしたら、ある日 、どちらかが盲目になるかもしれないし、事故によって片足を失うかも
しれない し、病気で寝たきりになるかもしれない 。でも 、そんなふうにお互いの状況が変わる
ことはあっても、あなたに懸けている私の想 ( おも ) いは変化しませんよという宣言のようなもの
なんですね 。」
( 出典:山極寿一著 「 京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ 」. 朝日新聞出版 刊 )