今日の「お気に入り」は、中野孝次さん(1925-2004)の著書「ローマの哲人 セネカの言葉」より。
「 ふつうの旅なら、よく整えられた道に従い、土地の者に聞けば迷うことはありません。が、この旅
では事情が違って、最も好まれる、最も多くすすめられる道が、実は一番誤らせるのです。だから
ここで何よりも注意しなければならぬのは、羊が群についてゆくように本能的に先行者の後ろにつ
いてゆくことで、これではみなの行く道を行くことになり、本来辿るべき道を行くことになりませ
ん。
ところで、多数者の賛成したことを最善と見做して、大勢の意見に従いたがる我々の性向くらい、
我々を大きな災厄に陥れるものはありません。これではただ数に従うだけで、人生を理性の判断に
よって導くのではなく、模倣するだけだからです。
『幸福な人生について』1-2・3」
「 最も害があるのは、ただ先行者に従って行くことです。というのは、誰にとっても、ある事柄に
ついて自分で判断を下すよりも、何かを信用して受け入れる方がやさしいのですが、それでは決
して自分で自分の人生を導くことにはならないからです。そうやっていつでも他人に頼りきって
ゆくことで、過ちは手から手へ渡り、我々は愚弄され、奈落の底に突き落とされてしまう。他人
に従って身を律すれば、破滅あるのみです!
『幸福な人生について』1-4」
「 人間の問題に関しては、多数者の気に入る方が善ということにはなりません。むしろ大勢が集ま
るということ自体、それが最悪のものだという証拠なのです。
『幸福な人生について』2-1」
( 中野孝次著「ローマの哲人 セネカの言葉」岩波書店刊 所収 )