「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・10・20

2007-10-20 08:05:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「お盆に私は、何人かの死んだ人に会う。去年死んだ人のうしろに、何十年も前に死んだ人がいて、その回りに、見おぼえがあるようでない人がひしめいているのを見る。遠いご先祖らしい。
 ご先祖というと、ばかにして笑う人がいる。そして、関係ない、と言う。このごろの家族は核家族で、夫婦を単位とする。何はともあれ両親と別居するのが結婚の条件で、新郎新婦は、まず両親と縁を切ってから世間に出る。
 それは若いものばかりではない。大人たちも、前の世代とは無縁である。たとえば、建築家に設計を依頼して、仏間を――というと、びっくりする。そんなものもあったなあ。
 建築家が忘れたのは、我々が忘れたからである。仏間はおろか、仏壇のある家もまれになった。あっても老婆が拝むだけで、彼女はそれを子や孫には伝えない。ひとり恐縮して拝んでいる。老婆が死んだら、故人の祭は絶えるだろう。」

   (山本夏彦著「毒言独語」中公文庫 所収)
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