「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・11・22

2005-11-22 05:55:00 | Weblog
   今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

  「吉行淳之介の『なんのせいか』(大光社)という古本を見るともなしにひきこまれて読んだ。」

  「吉行淳之介は実にいいことを言っている。ここではダイジェストするよりほかないから許してもらう。

   ○ 生きていることは汚れることだ、ということは生きているうちにしだいに分ってくる。汚れるのが

    厭ならば、生きることをやめなければならない。生きているのに、汚れていないつもりならば、それ

    は鈍感である。『牛も豚も魚も野菜も、みんな命あるものだ。それらを食べていいものか』と今も昔

    も悩む人がある。

     そういう残酷を犯すこと、そういう汚れかたをすることが生きてゆくことなので、これまで生きて

    いたくせに、何を今さらである。だから、『純粋』とか『純潔』とか『純情』とかいう言葉くらい嫌

    いなものはない。どれもこれも胡散くさいにおいをぷんぷん放っている。

   ○ 形容詞、とくに目新しい形容詞はなるべく使わないこと。なぜなら、文章はまずそういう部分から

    腐るからである。

   ――全くである、ほかにも同感することがいっぱいある、この狭い枠内で紹介できないのが残念である。」

   (山本夏彦著「死ぬの大好き」新潮社刊 所収)
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