今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「吉行淳之介の『なんのせいか』(大光社)という古本を見るともなしにひきこまれて読んだ。」
「吉行淳之介は実にいいことを言っている。ここではダイジェストするよりほかないから許してもらう。
○ 生きていることは汚れることだ、ということは生きているうちにしだいに分ってくる。汚れるのが
厭ならば、生きることをやめなければならない。生きているのに、汚れていないつもりならば、それ
は鈍感である。『牛も豚も魚も野菜も、みんな命あるものだ。それらを食べていいものか』と今も昔
も悩む人がある。
そういう残酷を犯すこと、そういう汚れかたをすることが生きてゆくことなので、これまで生きて
いたくせに、何を今さらである。だから、『純粋』とか『純潔』とか『純情』とかいう言葉くらい嫌
いなものはない。どれもこれも胡散くさいにおいをぷんぷん放っている。
○ 形容詞、とくに目新しい形容詞はなるべく使わないこと。なぜなら、文章はまずそういう部分から
腐るからである。
――全くである、ほかにも同感することがいっぱいある、この狭い枠内で紹介できないのが残念である。」
(山本夏彦著「死ぬの大好き」新潮社刊 所収)
「吉行淳之介の『なんのせいか』(大光社)という古本を見るともなしにひきこまれて読んだ。」
「吉行淳之介は実にいいことを言っている。ここではダイジェストするよりほかないから許してもらう。
○ 生きていることは汚れることだ、ということは生きているうちにしだいに分ってくる。汚れるのが
厭ならば、生きることをやめなければならない。生きているのに、汚れていないつもりならば、それ
は鈍感である。『牛も豚も魚も野菜も、みんな命あるものだ。それらを食べていいものか』と今も昔
も悩む人がある。
そういう残酷を犯すこと、そういう汚れかたをすることが生きてゆくことなので、これまで生きて
いたくせに、何を今さらである。だから、『純粋』とか『純潔』とか『純情』とかいう言葉くらい嫌
いなものはない。どれもこれも胡散くさいにおいをぷんぷん放っている。
○ 形容詞、とくに目新しい形容詞はなるべく使わないこと。なぜなら、文章はまずそういう部分から
腐るからである。
――全くである、ほかにも同感することがいっぱいある、この狭い枠内で紹介できないのが残念である。」
(山本夏彦著「死ぬの大好き」新潮社刊 所収)