世にも恐ろしい、心を操る寄生虫 (以下、ナショナル ジオグラフィック2014年11月号から一部抜粋)
『 愛らしい姿でおなじみのテントウムシは、実は貪欲な捕食動物だ。生まれてから死ぬまでの間に、数千匹ものアブラムシを捕まえて食べるという。
しかもテントウムシは、ほとんどの敵から身を守るすべをもっている。危険が迫ると脚の関節から出す有毒な体液は、口にすると苦く、襲った動物はすぐに吐き出してしまう。硬い羽に描かれた赤や黒のきれいな斑点は、実は捕食動物に向けた「後悔するぞ」という警告なのだ。
万全の防御策をもったテントウムシは、一見、怖いものなしのように思える。だが実際には、恐ろしい天敵がいる。その生きた体に卵を産みつける寄生バチだ。
テントウムシを操る寄生バチ
寄生バチの一種、テントウハラボソコマユバチの繭(まゆ)を外敵から守るテントウムシ。ハチに卵を産みつけられて宿主となったテントウムシは、ハチの幼虫が体外に出た後も行動を操られる。(Photograph by Anand Varma; Jacques Brodeur Lab, University of Montreal/National Geographic)
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寄生バチの一種、テントウハラボソコマユバチは体長わずか3ミリほど。雌は産卵の準備が整うと、テントウムシの近くに飛んでいって、脇腹に素早く針を刺す。数種類の化学物質とともに注入されるのは、1個の卵だ。卵がかえると、ハチの幼虫は宿主となったテントウムシの体液を吸って成長していく。
テントウムシの体は少しずつむしばまれていくが、外見や行動に変化はなく、ひたすらアブラムシを食べ続ける。だが、いくらアブラムシを食べても、その栄養はハチの幼虫に吸いとられてしまうのだ。約3週間後、ハチの幼虫は宿主の体を離れて成虫になる時を迎え、テントウムシの外骨格の割れ目の間を、体をくねらせながら出てくる。
驚いたことに、寄生バチの幼虫が体内からいなくなった後も、テントウムシは依然としてこのハチに操られている。幼虫がテントウムシの腹部の下で繭(まゆ)を作っている間も、動かずじっとしているのだ。
テントウハラボソコマユバチが繭から羽化するまでの間は、外敵に狙われやすい。クサカゲロウの幼虫などは、このハチの幼虫が大好物だ。だがこうした捕食動物が近づくと、テントウムシは脚をばたばた動かして追い払ってしまう。まるで寄生バチのボディーガードだ。成虫になったハチが繭を破って飛び立つまでの1週間、テントウムシはこうして護衛の役を務める。
宿主を操る遺伝子が特定されつつある
意思を奪われていたテントウムシの大半は、ハチの羽化後にようやく死を迎え、その行動を支配してきた寄生バチに対する奉仕を終えるのだ。
ホラー映画にありそうな奇怪な物語だが、決してフィクションではない。裏庭や空き地、農地、草原など北米のあちこちで、寄生バチはテントウムシをゾンビに変え、ボディーガードにしてこき使っているのだ。
このように宿主に取りつく寄生虫や菌類、ウイルスなどは、まとめて「寄生体」と呼ばれる。テントウムシ以外の昆虫はもちろん、魚類、哺乳類に至るまで、驚くほど多くの生物が、実は寄生体に行動を支配されていることが明らかになっている。宿主にされた生物は、たとえ体内を食い荒らされて死に至る運命にあったとしても、寄生体に仕え続ける。
彼らはなぜ、自らをむしばむ敵と戦わず、逆に生かすために全力を尽くすのだろうか。研究者たちは、宿主の行動を操る寄生体の遺伝子を特定しつつある。 』
『 愛らしい姿でおなじみのテントウムシは、実は貪欲な捕食動物だ。生まれてから死ぬまでの間に、数千匹ものアブラムシを捕まえて食べるという。
しかもテントウムシは、ほとんどの敵から身を守るすべをもっている。危険が迫ると脚の関節から出す有毒な体液は、口にすると苦く、襲った動物はすぐに吐き出してしまう。硬い羽に描かれた赤や黒のきれいな斑点は、実は捕食動物に向けた「後悔するぞ」という警告なのだ。
万全の防御策をもったテントウムシは、一見、怖いものなしのように思える。だが実際には、恐ろしい天敵がいる。その生きた体に卵を産みつける寄生バチだ。
テントウムシを操る寄生バチ
寄生バチの一種、テントウハラボソコマユバチの繭(まゆ)を外敵から守るテントウムシ。ハチに卵を産みつけられて宿主となったテントウムシは、ハチの幼虫が体外に出た後も行動を操られる。(Photograph by Anand Varma; Jacques Brodeur Lab, University of Montreal/National Geographic)
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寄生バチの一種、テントウハラボソコマユバチは体長わずか3ミリほど。雌は産卵の準備が整うと、テントウムシの近くに飛んでいって、脇腹に素早く針を刺す。数種類の化学物質とともに注入されるのは、1個の卵だ。卵がかえると、ハチの幼虫は宿主となったテントウムシの体液を吸って成長していく。
テントウムシの体は少しずつむしばまれていくが、外見や行動に変化はなく、ひたすらアブラムシを食べ続ける。だが、いくらアブラムシを食べても、その栄養はハチの幼虫に吸いとられてしまうのだ。約3週間後、ハチの幼虫は宿主の体を離れて成虫になる時を迎え、テントウムシの外骨格の割れ目の間を、体をくねらせながら出てくる。
驚いたことに、寄生バチの幼虫が体内からいなくなった後も、テントウムシは依然としてこのハチに操られている。幼虫がテントウムシの腹部の下で繭(まゆ)を作っている間も、動かずじっとしているのだ。
テントウハラボソコマユバチが繭から羽化するまでの間は、外敵に狙われやすい。クサカゲロウの幼虫などは、このハチの幼虫が大好物だ。だがこうした捕食動物が近づくと、テントウムシは脚をばたばた動かして追い払ってしまう。まるで寄生バチのボディーガードだ。成虫になったハチが繭を破って飛び立つまでの1週間、テントウムシはこうして護衛の役を務める。
宿主を操る遺伝子が特定されつつある
意思を奪われていたテントウムシの大半は、ハチの羽化後にようやく死を迎え、その行動を支配してきた寄生バチに対する奉仕を終えるのだ。
ホラー映画にありそうな奇怪な物語だが、決してフィクションではない。裏庭や空き地、農地、草原など北米のあちこちで、寄生バチはテントウムシをゾンビに変え、ボディーガードにしてこき使っているのだ。
このように宿主に取りつく寄生虫や菌類、ウイルスなどは、まとめて「寄生体」と呼ばれる。テントウムシ以外の昆虫はもちろん、魚類、哺乳類に至るまで、驚くほど多くの生物が、実は寄生体に行動を支配されていることが明らかになっている。宿主にされた生物は、たとえ体内を食い荒らされて死に至る運命にあったとしても、寄生体に仕え続ける。
彼らはなぜ、自らをむしばむ敵と戦わず、逆に生かすために全力を尽くすのだろうか。研究者たちは、宿主の行動を操る寄生体の遺伝子を特定しつつある。 』