国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

幻の夢

2010年04月16日 | マスターの独り言(ジャズ以外音楽)
人生の節目節目に
僕はビーチ・ボーイズを聴いているような気がする。
最初はワゴンセールのCDからだったが、
友達から『ペット・サウンズ』を教えてもらってからは、
ビーチ・ボーイズが、
ブライアン・ウィルソンという1人のミュージシャンの表現の場所であることを知った。
それはあまりにも深すぎる音楽であり、
聴くにはそれなりの覚悟を決めておく必要があった。

後年、村上春樹氏や中山康樹氏の著作にふれる中で
ビーチ・ボーイズが、ブライアン・ウィルソンが創り上げてきた曲のもつ
カリフォルニアの明るさとそれに対比するような鬱積した薄暗い感情の
絶妙なブレンド具合がたまらなく僕の中に染み込んでいった。
それは画家のゴッホが描く
太陽や空にうねる渦の塊のように明るくとも
どこか不安でどこか狂おしいほどの悲しい感情にも似ている。

『スマイル』について知ったのは、
『ペット・サウンズ』の凄みに気づいたころだった。
タイトルもジャケットもコンセプトも全て決まり、
レコーディングは日に日に進められ、大量の音源が作られていったのに
発売されなかった幻のアルバム。
気づいた頃ちょうどブライアン・ウィルソン名義で『スマイル』が作られ発売された。
流れるように進んでいく曲。
どこにも文句のつけようのない美しい調べ。
不安でありながらも明るく振る舞い、それでも不安がにじみ出てしまう。
老練のブライアンが、できなかった仕事をやりとげたのだ。

だが、もし1960年代に幻でなかったのならば…
僕は想像してしまう。
それは世紀の大傑作だったのか。それとも史上最悪の駄作だったのか。
『ペット・サウンズ』と同じようにリアルタイムでない僕の心を打ったのか。
それとも一生聴くことのないアルバムだったのか。
そんな「もし」を考えてしまう。

ブートレグとして当時の音源が発売されている。
それらを聴いても『スマイル』の全容はつかめない。
永遠に解くことのできないパズルだろう。
でも、あの「サーフズ・アップ」の曲の美しさを
あの「グッド・バイブレーション」のどうしようもないほど不思議なメロディーを
不完全ながらも耳にすると改めてその混沌さと斬新さを感じてしまう。

幻は結局幻だ。
でもその儚い幻の夢を今もたまに見てしまうことがある。