国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

がんばれ、エヴァンス! 負けるな、エヴァンス!!

2010年04月01日 | マスターの独り言(アルバムのこと)
その演奏はジャケットのように赤く燃え上がる。
普段は「リリカル」などと美しい面だけが取りざたされるエヴァンスであるが、
この演奏は違う。
共演者ジェレミー・スタイグの怒濤のフルートの音色に、
引っ張られるようにエヴァンスの演奏は最初からトップギアが入る。

そもそもエヴァンスは自身のリーダー作に限っては
あまりホーン奏者との演奏を残していない。
僕はズート・シムズやリー・コニッツとの共演作を聴いたことがあるのだが、
ソロで生み出す華麗なメロディストの面と
リズムセッション側の与えられた役割との面で
その演奏での歯車がカッチリと噛み合わないような感じになってしまっている。
リーダー作ではスタン・ゲッツやフレディー・ハバードとの好演もあるのだが、
エヴァンス自身はリーダーとなると
ホーン奏者との共演が上手くいかなかったのだろう。

『ホワッツ・ニュー』の録音もスムーズにいったわけではない。
ドラムのマーティ・モレルの言葉から、
ジェフリーとエヴァンスの関係はかなり微妙な様子だったようだ。
音色は密やかであれでも、演奏はかなり熱く、トップから飛ばすジェフリーに対して、
エヴァンスは丁寧に燃え上がっていく。
独走状態のジェフリー相手に、
エヴァンスはどう全体をまとめようかと気を回していたのだろう。

1曲目の「ストレート・ノー・チェイサー」などは、
ジェフリーが「吹くよりもしゃべってるんじゃないの?」というソロ演奏を聴かせる。
その背後ではエヴァンスの演奏がいつの間にか止まっていたりして、
演奏自体はまとまっているのだが、エヴァンスの困惑顔も浮かんで見える。

だが一方で「スパルタカス」や「ラヴァー・マン」のようなスローバラードになると
その美しさはかなり胸を打つ。
静けさの中にパッと燃え上がる青い炎。
とめどなく溢れ出る華麗なメロディー。
エヴァンスは「リリカル」ではないと言いながらも、やはりその演奏は素晴らしいのだ。

そして極めつけは「ソー・ホワット」。
不安げな出だしから、あのテーマをジェレミーが吹くと
エディ・ゴメスの力強いベースと初参加のマーティ・モレルが
エヴァンスを助けつつがっぷり四つで取り組む。
ジェレミーの勢いは最後まで衰えることはないのだが、
それでもまとまりが出てくるのは、
エヴァンストリオがガチンコでぶつかっているからだろう。

全ての演奏が終わった後、エヴァンスがどう感じたのかは分からない。
だが、とりあえずジェレミーとの共演アルバムは最初で最後になった。