子ども被災者支援法の基本方針案に関する声明
平成25年9月5日
東京災害支援ネット(とすねっと)
代表(弁護士) 森川 清
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東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律、いわゆる「原発事故子ども・被災者支援法」(以下、「支援法」という。)の被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針の案(以下「基本方針案」という。)が発表され、意見公募や説明会の日程が発表された。しかし、基本方針案は、原発事故被害者(被害住民及び避難者)(以下、「被害者」という。)のニーズにこたえるものではないことから、支援策として評価することができないので、次のとおり、声明を発表する。
1 復興庁は、基本方針案を撤回し、原発事故被害者(被害住民・避難者)(以下、「被害者」という。)の意見に従い、そのニーズに合致した施策を盛り込んだ基本方針案を再策定するべきである。
基本方針案によれば、支援対象地域は、福島県内33市町村に限られており、原発事故による放射能の被害を受けた地域が東北・関東の非常に広い範囲に広がっている現状を無視するものとなっており、失望を禁じえない。
また、基本方針案には、被害者のニーズに合致した新政策は全く打ち出されていない。特に、避難区域外(以下、「区域外」という。)から今後新たに避難する住民への支援は全く行われず、区域外を含めた多くの避難者が切望している避難住宅の無償提供の長期的な継続は確約されなかった。むしろ、災害救助法に基づく避難住宅の無償提供については「平成27年3月末まで」と明記しており、避難者が望む長期的な無償提供を保障するものとは程遠い内容になっている。基本方針案に現在示されている期限をわざわざ明示することは、避難者に対し、期限をもって帰還を促すことにもつながりかねず、避難者のニーズと真っ向から対立するものであって、許すことはできない。
基本方針案では、従前からの一部避難者への限定的な高速道路の無料措置以外に移動の支援としてニーズの高い家族面会や一時帰宅等のために支出する交通費の補助など、避難者を直接支援する政策が打ち出されなかった。基本方針案に並んでいるのは、福島県内に向けた帰還促進のための施策が多く、福島復興再生特別措置法の基調となっている帰還促進政策を貫徹しようとする政策的意図が露骨にあらわれている。一方で、被害住民の一時避難や週末避難などに対する直接的な補助も行われないなど、被ばくを避けようとする被害住民のニーズに対応するものとはなっていない。
なお、支援団体のなかには、相談業務などの活動に補助金の支出を評価する団体もあるが、被害者無視の政策において支援団体にのみ与えられる補助金は、国が支援団体をコントロールすることでニーズを歪めるおそれがあり、評価できない。
以上のとおり、残念ながら基本方針案において従前の被害者支援が前進したと評価すべきものはなく、基本方針案を撤回して被害者のニーズに基づいて基本方針案を再策定すべきである。
2 復興庁は、支援法に基づく施策であると否とにかかわらず、原発事故被害者を支援する施策の策定に当たっては、広く被害者から直接意見を聴取するとともに、施策に関するニーズ調査を実施し、これらの聴取・調査の結果を公表し、これを施策に反映するとともに、意見や調査結果が施策に反映されていることを明らかにすべきである。
復興庁は支援法5条3項に基づく意見を反映させるために必要な措置として平成25年9月11日に福島市で行う「説明会」を開催するが、この説明会により被害者の意見を反映させるために必要な措置が行われたとはいえない。わずか1回の説明会で被害者の意見を反映させたとはいえないとともに、避難者は全国に避難していることから平日に福島市へ行くことのできない避難者の意見は無視されてしまう。
また、インターネットの利用を念頭に置いた「意見公募」については、行政手続法に基づく最低30日の意見公募の期間と比較して、2週間と極端に短いうえに、多くの避難世帯がインターネットの利用ができない状態にある中では、インターネット上に公開されている基本方針案を読むことすらできない世帯も少なくないと考えられ、意見公募の方法としては極めて不適切であって、これをもって意見を反映させるための必要な措置が行われたとはいえない。
残念ながら、政府には、被害者のニーズを把握し、これに基づいた政策形成をしているとはいえず、被害者のニーズとかけ離れた基本方針案につながっている。政府は、ニーズの把握のために真摯に努力すべきである。
3 国会は、支援法が政府に広範な裁量を認めていることが内容のない基本方針案の策定を招いた原因となっていることを認識し、政府に具体的な政策の実施を義務付けるよう、支援法の全面的な見直し(改正)を行うべきである。また、帰還政策のもととなっている福島復興再生特別措置法その他の支援法制全般の見直しも同時並行的に進めていくべきである。
支援法では、基本方針の策定について、策定時期を明示せず、その内容については政府の広範な裁量を認めている。国会の承認等も不要として、そのコントロールが及ばないし、被害者の意見を採り入れる具体的な方法についても何ら法定されていない。こうしたことが、被害者のニーズを無視した内容のない基本方針案の策定につながっている。
この状況を打開すべく、支援対象地域を具体的に法定するほか、政府に対して、無償住宅の提供、交通費の補助、政府の責任による全国的な健康診断の実施、大人も含めた医療費の無料化などの具体的な政策の実施を義務付け、行政の裁量を絞り込み、国会のチェック機能が果たせるような内容に法改正を行うべきである。
また、基本方針案において帰還促進の施策が基調となっているのは、帰還の促進を基本としている福島復興再生特別措置法その他の支援法制との整合性を図った結果であるから、これらの支援法制の全面的な見直しも同時に行うべきである。
支援法は全会一致で成立していることから、国会議員の多くが支援法の運用の現状を問題視しているのであれば、早急に法改正をすべきである。
4 被害者及び支援団体は、基本方針の策定を抽象的に求めるのではなく、被害者のニーズに従い、住宅、医療・健康、教育・子育て、交通費などの生活諸問題、保養、除染、その他行政サービスの享受などについて、具体的な政策を要求していこう。そのために、原発事故を引き起こした国の法的責任を追及し、具体的な政策要求をすすめる広範な連携を広げていこう。
抽象的に支援対象地域と基本方針の策定を求めるだけでは何も変わらない。これは、区域外避難者に対する高速道路の無料措置の打切り(2012年3月)に際し、全国の区域外雛者が立ち上がり、署名運動などでそのニーズを明確化して、一部避難者に対するものであるが、今年4月から高速道路無料措置を復活させたのと対照的である。具体的な政策要求をすすめていくことこそが大事だ。
そのためには、高速道路無料措置を求める動きにみられたように、被害者・支援団体の広範な連携と協力をすすめていく必要がある。
また、支援は「恩恵」であるなどと言わせないためにも、原発事故を引き起こした国の法的責任を厳しく追及していくことも忘れてはならない。
とすねっとでは、9月11日午後6時30分から日司連ホール(東京・四ツ谷)で開かれるイベント「福島・区域外避難と私たち-苦難と希望の先にあるもの-」において、被害者を対象とした政策アンケートの結果を発表し、そのニーズに基づく具体的な政策要望書を確定し、政府に提出する予定である。こうした具体的な要望の輪が全国的に広がっていくことが重要である。
具体的な政策要求を掲げて、粘り強く広範な運動を形成していき、具体的な要求をどんどん政府に、そして国会に提出しよう。
全国のみなさん、ともにがんばりましょう。
以上