平成25年3月12日付で、内閣府、東京電力、原子力損害賠償支援機構宛執行しました。
原発事故賠償の時効問題に関する要請書
平成25年3月12日
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
東京電力株式会社 代表執行役社長 廣瀬 直己 殿
原子力損害賠償支援機構 理事長 杉山武彦 殿
東京災害支援ネット(とすねっと)
代表 弁護士 森 川 清
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要請の趣旨
1 東京電力及び原子力損害賠償支援機構に対し,時効の起算点,中断事由を表明した特別事業計画を撤回し,時効主張をすることはないことを表明することを求める。
2 主務大臣(内閣府機構担当室及び経済産業省資源エネルギー庁)に対し,特別事業計画認定の取消を求める。
3 政府に対し,閣法で,原発事故による損害賠償については民法の時効規定を適用しないとする特別法の制定を求める。
要請の理由
1 政府は,2013年2月4日,東京電力株式会社及び原子力損害賠償支援機構が提出していた原子力損害賠償支援法46条1項に基づいて申請した総合特別事業計画の変更を認定した。そして,東京電力は,同日,「原子力損害賠償債権の消滅時効に関する弊社の考え方について」と題する見解を発表した。
これらによれば,福島第一原発事故(以下「本件原発事故」という。)に関する損害賠償請求について,「中間指針等に基づき賠償請求の受付をそれぞれ開始した時」を起算点とし,「請求を促す各種のダイレクトメールや損害額を予め印字する等した請求書を受領した時点」を時効中断事由とし,再び時効期間が開始するとしている。
2 本件原発事故による被害は,財産的損害のみならず,社会経済生活,生まれ育ったコミュニティ・地域社会の破壊,放射能による健康被害の危険など,広範かつ多種・多様なもので,未だにその全貌が明らかでなく,その収拾の見通しすら立っていない。
ところが,加害企業である東京電力は,加害者であるにもかかわらず,自ら策定した賠償基準に固執し,被害者らに押しつけ,被害者の要求を拒み続けた。原子力損害賠償紛争解決センターも裁定機能がないことなどが影響して,解決が遅々と進まない状況にある。
こうしたなかでの今回の東京電力及び原子力損害賠償支援機構の動きは,本件原発事故の加害者が自ら時効の起算点を設定し,援用することを宣言したに等しい。
これは,自らの被害の全体像を把握していない被害者に対して,「時効」で動揺させ,自ら定めた低額な賠償基準による解決を押しつけようとするものであり,到底許されるものではない。また,今後,訴訟等の手続において東京電力から消滅時効の主張がなされることになれば,争点が余計に増えることとなり,訴訟手続の遅延を招き,被害救済を遅らせることとなる。
総合特別事業計画の変更を申請した東京電力及び原子力損害賠償支援機構,これを認可した政府は,被害者を切り捨てることを表明したに等しい。
東京電力らは,民法146条を盾に時効利益の事前放棄は出来ないとしている。しかし,そもそも本件原発事故は終結しておらず,損害の全体像が明らかとなっていない現状では,時効期間は進行していないのであり消滅時効の主張はしないと表明すれば足りるはずであるし,本件原発事故の被害の特質や加害企業である東京電力の悪質性からすれば消滅時効の主張自体が信義則に反するのである。また,立法で民法146条の例外として時効利益の事前放棄を認める特別法を制定するよう東京電力及び原子力損害賠償支援機構は働きかけをすべきである。
なお,東京電力の現会長は,東京弁護士会の元会長であり,原子力損害賠償支援機構には日本弁護士連合会の推薦で元事務総長が理事となっていることは,両者において最後まで被害救済を行なう姿勢を堅持する指導的役割が期待される。
3 よって,本件原発事故による被害者をひとりでも切り捨てないためにも,東京電力及び原子力損害賠償支援機構に対し,時効の起算点,中断事由を表明した特別事業計画を撤回し,時効主張をすることはないことを表明することを求める。また,主務大臣(内閣府機構担当室及び経済産業省資源エネルギー庁)に対し,認定の取消を求める。そして,原発事故による損害賠償については民法の時効規定を適用しないとする特別法の制定を求める。
以上