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【要望24】原子力損害賠償紛争審査会の委員と電力業界との経済的関係(利益相反問題)に関する意見書

2011年10月07日 16時52分25秒 | とすねっとの要望書

 

原子力損害賠償紛争審査会の委員と電力業界との経済的関係(利益相反問題)に関する意見書

平成23年10月7日

とすねっと要望書第24号

原子力損害賠償紛争審査会 会長 能見善久 殿

東京災害支援ネット(とすねっと)    

代表 弁護士 森 川  清     

(事務局) 〒170-0003東京都豊島区駒込1-43-14

SK90ビル302森川清法律事務所    

TEL0120-077-311  FAX03-6913-4651

 

第1 意見の趣旨

1 原子力損害賠償紛争審査会の野村豊弘委員,大塚直委員について,委員の役職を解くべきである。

2 原子力損害賠償紛争審査会の委員全員の電力業界との経済的関係について直ちに公表し,経済的関係にある委員の役職を解くべきである。

 

第2 意見の理由

1 はじめに

 当団体は,主に都内で東日本大震災の被災者を支援する活動に携わっている弁護士・司法書士・市民等のボランティア・グループであり,インターネット(ブログ)やニュースレター「とすねっと通信」などを通じて被災者に必要な情報を提供したり,都内や被災地の避難所や電話での相談活動を行っている。

 

2 原子力損害賠償紛争審査会の委員の「日本エネルギー法研究所」からの報酬等の受領についての報道

 本年9月23日,原子力損害賠償紛争審査会の野村豊弘委員,大塚直委員が,「日本エネルギー法研究所」から毎月20万円程度の報酬を得ていたことが報道された。

 具体的には,野村豊弘委員は,本年4月から同研究所の理事・所長に就き,月額20万円程度の報酬を得ていた。大塚直委員も同研究所の研究部長として同額程度の報酬を得ていた(但し,6月末に辞任し,4~6月分の報酬を返納したとのことである。)。また,他に委員1人が同研究所の役職に就いていたが,委員就任に当たって役職を辞任したとのことである。

 同研究所は,昭和56年,原子力を中心にエネルギーを巡る法律問題について調査や研究を進める目的で設立されたもので,運営費のほとんどを電力会社9社でつくる「電力中央研究所」からの研究委託に頼っている。

 

3 原子力損害賠償紛争審査会における電力業界からの独立性確保の必要性

 現在,原子力損害賠償紛争審査会は,福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所にける事故(以下,「本件事故」という。)に関する被害者への損害賠償の指針を策定している。ここで策定される指針の内容は,本件事故に関して賠償金の支払義務を負う東京電力をはじめとする電力業界に大きく影響を及ぼすことになる。

 一般に,審議会や科学研究等において対象企業との経済的関係にある者は,その審議や研究において,対象企業にとって有利な評価等をする傾向にあり,審議や研究を歪めかねないことが指摘されており,それを明らかにした報告もある。「裁く者」が,「裁かれる者」から「金員」を受け取るのであるから,いわば当然のことである。

 したがって,仮に,東京電力をはじめ電力業界と経済的関係のある者が審議会の委員として審議,議決に加わることになれば,東京電力をはじめとする電力業界に有利な評価をし,審議を歪める危険がある。

 また,たとえ不正な目的を有していなくとも,対象企業との経済的関係が,公正・中立な判断を損う可能性があること,また少なくとも外部からみて公正さ中立性が損なわれているように見えることは適切でないということは,言うまでもない。

 そのため,最近では,審議や研究に際して,こうした経済的関係を開示すること,内容,金額等に応じて審議や議決の参加に規制を加えることなどは世界的に広く行われているところである。

 よって,原子力損害賠償紛争審査会の審議においては,被害救済の見地から,電力会社を含む電力業界から独立性を担保されなければならない。

 特に,原子力損害賠償紛争審査会は,現在,本件事故に伴うに関する被害者への損害賠償の指針のみを議論をしているのであるから,経済的関係のある委員は委員として議論,議論に参加すべきではない。

 なお,国家公務員倫理法及び同規程においては,国家公務員が利害関係者から金銭,物品又は不動産の贈与を受けることをはじめ未公開株式を譲り受けること等を禁止している[国家公務員倫理規程第3条]など公務員と事業者との経済的関係につき禁止等の規制を加えている。審査会の委員は,公務員ではないとはいえ,その公益性の高さ故に,こうした法規制と同様の高い倫理性が求められているのである。

 

4 電力業界との経済的関係が明白であること

 ところが,今般,2で述べたように,原子力損害賠償紛争審査会の野村豊弘委員,大塚直委員が,「日本エネルギー法研究所」から毎月20万円程度の報酬を得ていたことなどが明らかとなった。

 「日本エネルギー法研究所」が電力会社9社から作られる組織である「電力中央研究所」からの研究委託費で運営されているということは,電力中央研究所というクッションを置きながらも,実質的には,電力会社からの研究委託費を受領していたことになる。この事実からして,野村豊弘委員,大塚直委員と電力業界との経済的関係が存在することは明らかである。

 しかも,問題であるのは,平成23年8月5日に「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下,「中間指針」という。)が策定された後に,この経済的関係の問題が明らかになったということである。

 電力業界と経済的関係にある者が委員にいることが明らかにされないままに中間指針が策定されてしまったのである。これでは,本件事故により甚大な被害を被り,過酷な避難生活を余儀なくされている多くの被害者の信頼を損ねることになる。

 この点,報道によると所管する文部科学省原子力損害賠償対策室は「会議は公開で行われており,東電寄りの立場を取るとは考えられず,中立性は確保されている。」と説明しているとのことである。

 しかし,会議が公開であることと経済的関係の問題は,全く関係ないことであり,筋違い甚だしいものと言うべきである。しかも,現に,中間指針については,現状回復,完全賠償の見地から,きわめて不十分であることは,当団体の平成23年9月27日付「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」に対する意見書をはじめ,様々な団体が指摘するところである。

 

5 委員全員の電力業界との経済的関係について直ちに公表すべきこと

 また,報道によれば,氏名は公表されていないが他に委員1人が同研究所の役職に就いていたことが報じられているが,その委員が具体的に誰か明らかにされていない。

 また,他の委員についても,電力業界との経済的関係について,その有無,内容等について,何ら明らかにされていない。

 このような事態は,本件事故の被害者のみならず,国民全体に対する裏切りであり,原子力損害賠償紛争審査会への信頼を大きく損ねることになる。

 したがって,原子力損害賠償紛争審査会におかれては,委員全員と電力業界との経済的関係を明らかにすべきである。なお,この経済的関係の問題については,いかなる形であれ研究,審議を歪めることになりかねないのであるから,報酬,講師料,寄付金講座などどのような体裁も問題となるのである。

 そして,電力業界と経済的関係にある者については,委員の役職を解くべきである。

 

6 結語

 よって,意見の趣旨記載のとおりの対応を求める次第である。

以上

 


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