前々報、前報、でアルミ箔を利用した焙煎機(Compact Coffee Roaster 以下CCRと
略記)の小改造の話をした。
今回は、その焙煎した豆のエスプレッソ抽出速度の測定、解析から思いがけない
知見が得られたので、その話である。
前報.のマンデリンのCCRままのデータは、同一バッチの豆を去る5月に焙煎した時のもので、
その時エスプレッソ抽出速度の測定・解析も行っていたので、同一条件で
敏翁式焙煎豆(これも.に記したもの)の抽出特性も測定してみた。
この測定は特殊な方法で、詳細は本ブログに2012-05-04掲載「エスプレッソ 抽出濃度の解析」(★)
にあるが、要点を再録する。
『粉砕した珈琲粉~15gを2杯用フィルターに詰め、エスプレッソ機にかける。
時間t2後に素早く抽出液を受けているカップを交換し、さらにt3まで抽出液を採る。
("t1"は、「平均抽出時間」の私の議論で特別な意味を持つのでスキップしている)
t0からt2間に抽出された液量をq1、その平均濃度をc1
t2からt3間に抽出された液量をq2、その平均濃度をc2 とする。』
そのデータを下表に示す。
今回の粉砕条件はいずれもデロンギのコーヒーグラインダーKG364Jの目盛り"2"
(2番目に細かい)である。
t0(sec) t2(sec) q1(cc) c1(%) t3(sec) q2(cc) c2(%)
CCRのまま 8 25 44.3 7.28 40 40.98 1.38
敏翁式 7 25 68.3 5.28 40 54.9 0.477
この表からは、敏翁式の抽出速度はCCRのままに比べて相当早く両者の抽出特性は
相当異なるように見える。
しかし、このデータを私が開発した前述の(★)に掲載した抽出液濃度の抽出量依存性を指数関数と
仮定した場合のパラメータに置き換えると殆ど同じになる事を発見した。
指数関数近似とは
C = C0・exp(-α・q) …… (1)
で、C0はt0直後に出てくる液の濃度である。
C0(%) α C0/α/100(g) 抽出可能固形物最大量(%)*
CCRのまま 15.4 0.038 4.05 26.7
敏翁式 16.0 0.039 4.10 26.9
*:正確な珈琲粉量で計算
測定と解析(連立方程式をグラフ上で解く)の精度を考えるとこの両者の
パラメータは全く同じと考えても良いと思われる。
尚、C0/αは(1)式をq=0から無限大まで積分した値(C0が%表示なので100で除してある)で、
豆から抽出可能な固形物の最大量(抽出可能固形物最大量と呼ぶ)となる。
上表の関係が分かった時は戸惑ったが、一応次の様に考えを纏める事ができた。
抽出濃度の流速依存性を考えるのだが、抽出反応は珈琲粉表面から
湯への抽出物の拡散が律速しているとして良いと思うが、その拡散の抵抗
(濃度境界層の厚さをイメージ)が流速に逆比例するとすれば
説明できる。(「抽出速度・流速比例」モデルと名付ける)
層流では濃度境界層の厚さは流速の平方根に逆比例するが、
珈琲粉の層を強制的に湯を通すエスプレッソでは流速に逆比例する
と考えるのもあり得ると思う。
(乱流に関する取り扱いを教科書『J・Pホールマン「伝熱工学」』を捲ってみたが、これにぴったりな
記述は見つかっていないが)
また、次の考察も行った。
○ 前報で、敏翁式はCCRそのままより焙煎時の重量減が約3%ほど大きい。
○ しかし抽出可能固形物最大量(%)は変わらない。
○ 以上より、重量減3%に対応する物質は抽出可能固形物ではなく、湯の流速
を抑える機能に関係している可能性が大きい。
以上の「抽出速度・流速比例」モデルは私の仮説としても良いもしれないが、
新発見である。
また、この仮説の適用範囲はかなり広いのでないかと思われる。
例えば珈琲粉に脱酸素処理を加える事により抽出速度を相当程度
制御できる事は既に何回か話したが、このような場合も
パラメータC0、αは変わらないと思われる。
略記)の小改造の話をした。
今回は、その焙煎した豆のエスプレッソ抽出速度の測定、解析から思いがけない
知見が得られたので、その話である。
前報.のマンデリンのCCRままのデータは、同一バッチの豆を去る5月に焙煎した時のもので、
その時エスプレッソ抽出速度の測定・解析も行っていたので、同一条件で
敏翁式焙煎豆(これも.に記したもの)の抽出特性も測定してみた。
この測定は特殊な方法で、詳細は本ブログに2012-05-04掲載「エスプレッソ 抽出濃度の解析」(★)
にあるが、要点を再録する。
『粉砕した珈琲粉~15gを2杯用フィルターに詰め、エスプレッソ機にかける。
時間t2後に素早く抽出液を受けているカップを交換し、さらにt3まで抽出液を採る。
("t1"は、「平均抽出時間」の私の議論で特別な意味を持つのでスキップしている)
t0からt2間に抽出された液量をq1、その平均濃度をc1
t2からt3間に抽出された液量をq2、その平均濃度をc2 とする。』
そのデータを下表に示す。
今回の粉砕条件はいずれもデロンギのコーヒーグラインダーKG364Jの目盛り"2"
(2番目に細かい)である。
t0(sec) t2(sec) q1(cc) c1(%) t3(sec) q2(cc) c2(%)
CCRのまま 8 25 44.3 7.28 40 40.98 1.38
敏翁式 7 25 68.3 5.28 40 54.9 0.477
この表からは、敏翁式の抽出速度はCCRのままに比べて相当早く両者の抽出特性は
相当異なるように見える。
しかし、このデータを私が開発した前述の(★)に掲載した抽出液濃度の抽出量依存性を指数関数と
仮定した場合のパラメータに置き換えると殆ど同じになる事を発見した。
指数関数近似とは
C = C0・exp(-α・q) …… (1)
で、C0はt0直後に出てくる液の濃度である。
C0(%) α C0/α/100(g) 抽出可能固形物最大量(%)*
CCRのまま 15.4 0.038 4.05 26.7
敏翁式 16.0 0.039 4.10 26.9
*:正確な珈琲粉量で計算
測定と解析(連立方程式をグラフ上で解く)の精度を考えるとこの両者の
パラメータは全く同じと考えても良いと思われる。
尚、C0/αは(1)式をq=0から無限大まで積分した値(C0が%表示なので100で除してある)で、
豆から抽出可能な固形物の最大量(抽出可能固形物最大量と呼ぶ)となる。
上表の関係が分かった時は戸惑ったが、一応次の様に考えを纏める事ができた。
抽出濃度の流速依存性を考えるのだが、抽出反応は珈琲粉表面から
湯への抽出物の拡散が律速しているとして良いと思うが、その拡散の抵抗
(濃度境界層の厚さをイメージ)が流速に逆比例するとすれば
説明できる。(「抽出速度・流速比例」モデルと名付ける)
層流では濃度境界層の厚さは流速の平方根に逆比例するが、
珈琲粉の層を強制的に湯を通すエスプレッソでは流速に逆比例する
と考えるのもあり得ると思う。
(乱流に関する取り扱いを教科書『J・Pホールマン「伝熱工学」』を捲ってみたが、これにぴったりな
記述は見つかっていないが)
また、次の考察も行った。
○ 前報で、敏翁式はCCRそのままより焙煎時の重量減が約3%ほど大きい。
○ しかし抽出可能固形物最大量(%)は変わらない。
○ 以上より、重量減3%に対応する物質は抽出可能固形物ではなく、湯の流速
を抑える機能に関係している可能性が大きい。
以上の「抽出速度・流速比例」モデルは私の仮説としても良いもしれないが、
新発見である。
また、この仮説の適用範囲はかなり広いのでないかと思われる。
例えば珈琲粉に脱酸素処理を加える事により抽出速度を相当程度
制御できる事は既に何回か話したが、このような場合も
パラメータC0、αは変わらないと思われる。