特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第474話 エアロビクス・コネクション!

2009年06月30日 03時09分13秒 | Weblog
脚本 石松愛弘、監督 三ツ村鐵治
1986年7月17日放送

【あらすじ】
東南アジアのフィラネシア国で政変が勃発し、革命軍が新政権を樹立。新政権は前大統領の円借款にからむリベート疑惑を追及し、日本企業数社を告発する。捜査に当たった特命課は、疑惑企業の社長がフィラネシアから帰国することを察知し、社長を監視下に置く。だが、社長は何者かに刺殺される。犯人の狙いはリベートの証拠となる裏帳簿ではなかったかとみて、特命課は社長とともに帰国した駐在員を尋問する。
「警察は国家権力とつながっている」と特命課を敵視し、沈黙を守る駐在員だが、その妻子の近辺にも怪しい影が付きまとう。駐在員の妻はエアロビクス教室のインストラクターを勤めていたが、新設される大規模スポーツクラブから好条件でスカウトされた。だが、そのスポーツクラブの理事長は、リベート疑惑の黒幕と目される大物政治家の懐刀だった。黒幕が妻に接近する狙いは何か?特命課は妻の勤めるエアロビクス教室をマークし、生徒として江崎と杉を潜入させる。
そんななか、駐在員は黒幕に接触。資料を盾に、自身と家族の安全を要求するが、特命課のガードを振り切って逃走したところ、刺客の手にかかって命を落とす。杉が値追跡したものの、刺客はトラックの荷台に飛び乗って逃走を果たした。
失意のなか、駐在員の遺品からマイクロフィルムを発見する妻。その手元に、息子の誘拐を示唆する脅迫状が届く。息子を守るため、そして夫の復讐を果たすため、妻は黒幕との対決を決意する。
そんななか、杉はエアロビクス教室の生徒である若者が、駐在員を殺した刺客だと気づく。江崎に事情を伝えて若者を尾行する杉。立ち聞きしていた妻もその後を追う。尾行に気づいた若者は杉を振り切って逃走するが、妻はものすごい加速で若者に追いつく。呆気にとられる杉と視聴者。若者の反撃で窮地に陥る妻だったが、ようやく追いついた杉が取り押さえる。
実行犯は捕らえたものの、依然として黒幕は闇の中。神代は妻に協力を依頼するが、妻は警察を信じることができない。妻と息子の身の安全を気遣い、説得に努める叶だが、妻は「貴方がたに協力すれば安全なんですか?主人だって貴方がたの目の前で殺されました。主人がどんな気持ちで死んでいったか、貴方にわかるんですか?」と叶を拒絶する。
神代から理事長と黒幕の関係を知らされた妻は、理事長に黒幕との面会を申し出る。それは神代の描いたシナリオどおりの展開だった。神代は捜査のために、妻の命を危険にさらそうというのか?
息子を伴い、黒幕に面会する妻。叶は息子に仕掛けた盗聴器を通じて、その会話に耳を澄ます。妻がマイクロフィルムの代償として要求したのは、金ではなかった。「私の夫を、この子の父親を返してください!」むろん、死んだ命が返ってくるはずもなく、妻は特命課の存在を盾に、フィルムを手にしたまま「今日の会話は録音しました」と言い残して黒幕の前から立ち去る。
もちろん、黒幕がこのまま手をこまねいているはずは無い。妻は自らの命を的に、黒幕を陽のあたる場所に引き摺りだそうとしているのだ。杉と叶が見守るなか、一瞬の隙をついて、二人組が妻のバックを奪い、息子を連れ去る。身を挺して二人組の車に立ちはだかる叶。車で包囲していた特命課のフォローもあって、叶は無事に息子を救出。ようやく叶を信じた妻は、マイクロフィルムを特命課に託す。こうして全ての真相が明らかになり、黒幕と理事長にも法の裁きが下った。東京を去る妻と息子に別れを告げ、叶はまた、厳しい捜査の渦中へと戻っていくのだった。

【感想など】
疑獄事件の渦中で、巨悪の前に翻弄される家族の悲劇と絆を描いた一本。それだけの話にしておけば、可もなく不可もない、ごく普通の話で終わったと思うのですが、何を思ったか意味不明のエアロビクスシーンをからめたことで、訳が分からなくなってしまった感があります。
特に冒頭、フィラネシア(この架空の国名もまた、えらく適当です)政変を伝える新聞記事が緊迫感をかもし出すなか、突如エアロビクスシーンに切り替わって視聴者を困惑させたかと思えば、次のような意味不明のナレーションが混乱に拍車をかけます。「人生は闘いだと言われます。でも、人間は争いよりも平和を求める気持ちの方が、ずっと強いと思います。エアロビクスは体の中のムダなエネルギーを燃やすのに役立ちます。無理なく楽しく身体を動かして、心の安らぎに到達しましょう!」って、なんかの宗教か?

何を思ってこんな奇天烈な脚本を書いてしまったのか、想像をめぐらせて視たところ、一つの仮説が浮かびました。かつての「地獄の子守唄」シリーズよろしく、4本連続執筆の依頼を受けたは良いものの、さすがにネタ切れになった石松氏。1話分(第475話)は藤井邦夫氏に代わってもらうことにしたものの、それでもネタに困った挙句、「三題噺」をやろうと思いついたのです。(ちなみに、三題噺とは落語の一形態で、寄席の客から適当に挙げてもらった3つの言葉を盛り込んで、即興で演じること。有名なところでは三遊亭円朝の「芝浜」があります。)
適当にテレビのチャンネルを回して、放送していた内容を3つ盛り込もうとした石松氏。まず映ったのがニュース番組で報じられる「海外の政変」。次のチャンネルで流れていたのが「エアロビクス」だったというわけ。それだけならまだしも、3番目のチャンネルで放送していたのは、何と「サイボーグ009」(再放送)。普通の脚本家であれば、さすがに「これは無理だ」と諦めるところでしょうが、そこは石松氏。前言撤回を潔しとせず、「海外政変」「エアロビクス」そしてサイボーグ009から「加速装置」をお題として、今回の脚本を執筆したのです。
こう考えれば、誰もが呆気に取られた妻の加速シーンにも説明がつくというもの・・・とまぁ、こんなわけの分からん妄想くらいしか感想の書きようのない一本でした。これを最後に(すでに発注済みだった第476話は別)、特捜から二度とお呼びがかからなかったのも納得というものです。