特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第354話 証言台の女秘書!

2007年10月15日 02時34分37秒 | Weblog
脚本 石松愛弘、監督 村山新治

巨額汚職事件のカギを握る存在として、地検特捜部の取調べを受けていた大手商社の専務が死体で発見された。現場の状況は自殺だと示していたが、特命課は口封じのための殺人と見て捜査に乗り出す。
専務と男女の関係にあった女秘書を尋問し「専務は政界への金の流れ示したメモが残していた。貴方はその所在を知っているはずだ」と問い詰める神代。女秘書は専務から死の直前に貸し金庫の鍵を託されていたが、「私はただの秘書ですから」とシラを切る。神代は「専務の口を封じた連中が次に狙うのは貴方だ。我々には貴方を守る義務がある」と告げ、その身辺をガードする。
神代の予想通り、怪しい影が女秘書を襲撃。橘らが救出して事なきを得るが、その直後、女秘書のもとに「あれは警告だ。1億で専務のメモを渡せ。メモが特命の手に渡ったら命はない」との脅迫電話が入る。脅迫者の魔手は女秘書の弟の身辺にも伸びる。両親を失った後、女秘書が親代わりとなって育てた弟は、今や唯一の生き甲斐だった。そんな弟の命を的にされ、やむなく脅迫者に鍵を渡す女秘書。だが、密かに弟をガードしていた特命課によって窮地を脱出。弟の説得もあって、鍵は特命課の手に渡る。
専務のメモが白日の下にさらされたことで、大物政治家たちに捜査の手が伸びる。だが、裁判の証言台に立った女秘書は「あのメモの内容はフィクション」と証言し、その信憑性を否定。検察側は大打撃を受ける。「あの女、俺たちをダシにして、被告側から報酬を吊り上げやがった」と憤る特命課。神代は女秘書を訪れ、「君はもう安全だと思っているかもしれないが、私が被告側なら今のうちに君を消す」と忠告する。
その言葉どおり、弟と一緒の女秘書に、チンピラを装った刺客が襲い掛かる。橘らの制止も間に合わず、弟は帰らぬ人に。「弟を殺したのは私・・・」責任を感じた女秘書は、買収の証拠となる1億円の小切手を神代に託す。小切手の振り出し先は、被告の息のかかったシンクタンクであり、神代は女秘書とともに事務所に乗り込む。隣接するビルからライフルスコープが女秘書を狙う。所長の態度から不穏な空気を嗅ぎ取った神代がとっさに女秘書をかばう。狙撃はそれたが、その隙をついて隠し持っていたナイフを取り出す女秘書。神代が止める間もなく、女秘書は所長を刺殺。改めてメモの信憑性を証言した後に、拘置所に送られる。
拘置所に面会に訪れた神代に、「こうして生き恥をさらすのは、神代さんのせい」と語る女秘書。一時は弟の後を追って死のうと考えていた女秘書だが、これからは神代を憎むことだけが生きる意味だと言う。「私はいくら憎まれようとかまわない、それで君の役に立てるのなら」と微笑する神代に、微笑を返す女秘書。その笑顔は、どこか儚く、切なげだった。

今回から石松愛弘が4話連続で脚本を担当。「挑戦」三部作や「面影」三部作など、神代課長をメインにした脚本で知られる石松氏だけに、一本目の主役はやはり神代です。范文雀演じる女秘書との大人の会話が実にムーディーな雰囲気をかもし出しており、いつもと違った趣があります。新聞記事で事件の経過を示す手法や挿入歌の使い方など、全般的に一昔前の刑事ドラマ風の演出が目立ちますが、それも悪くない味付けに思われました。
興味深いのは、女秘書が弟に向ける愛情。幼い頃、自分の不注意による事故で弟の足が不自由になったことで、今も自分を責め続け、その罪滅ぼしのように無償の愛情を注ぎ込む女秘書。しかし、そのために妻子ある専務と男女の仲になった自分を「弟は優しいから何も言わないけど、こんな私を軽蔑しているはずよ」と自嘲するなど、その愛情は非常に屈折しています。実際には、姉に対して感謝の想いしかなかった弟ですが、被告側の買収に応じたとき、初めて姉を非難します。「俺が足のせいで姉さんに甘えすぎていたから、姉さんを汚らしい人に変えてしまった」そう語った矢先に、刺客の手に掛る弟。その死が女秘書の自暴自棄に駆り立て、殺人を犯させるという皮肉な展開が素敵です。
一時は死を決意した女秘書が、唯一の生きる糧としたもの。それは憎しみという名を借りた神代への想いでした。そんな重たい思慕を大人の態度で受け止めることができるのは、これまで多くの哀しみを背負ってきた神代だからこそ。女秘書が皮肉めかして言った「正義のため」などではなく、そんな哀しみから多くの人を守るために、神代たち特命課は日々戦い続けているのです。長く神代の哀しみを見つめてきた視聴者ほど、ラストの彼の微笑に深い感慨を覚えるのではないでしょうか。

コメントを投稿