特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第508話 神代警視正・愛と希望の十字架(後編)

2010年02月13日 19時48分42秒 | Weblog
【あらすじ(後編)】
神代の暴挙にもかかわらず、政治家たちは被害届を出さないばかりか、口止めすらしていた。「まるで、課長が一生懸命事件にしようとしているように、やられたほうが消して回っているみたいだ・・・」政治家たちは、事件がマスコミに騒がれ、同じく神代の襲撃を受けた日将連との関係を追及されることを恐れているのだ。そして、両者のつながりには西岡も絡んでいる。「あのとき、奴は妙なことを言った・・・」江崎の存在に大げさに反応した西岡の態度を思い出す橘たち。「婦警を連れてきては不都合なことがあった・・・」「江崎じゃなきゃできんこと・・・」「女の人の身体検査!」特命課は政治家の女性秘書に目星をつける。
同じ頃、西岡は政治家のもとにいた。特命課が取ろうとした捜索令状を握りつぶしたと、手柄顔で報告する西岡。「奴らは私が抑えます。先生は神代の方を一つ・・・」「まるで私が探し出す力でも持っているような言い方だね」と惚ける政治家。やはり、西岡は政治家の走狗なのか?
翌日、特命課は政治家の事務所を強襲。女性秘書がペンダントにして隠し持っていたカギを奪い、金庫を開ける橘。そこには「日将連忘年会」と記された一本のビデオテープが隠されていた。テープの映像を消そうと、秘書が大きな磁石を押し当てる。
課に戻ってテープを再生したところ、そこには来賓として挨拶する政治家、そして新宿東署署長の姿があった。だが、磁石のせいで映像が乱れ、署長の顔ははっきりと確認できない。「まさか、警察の人間が・・・」と驚く紅林に、桜井が言う。「いや、それが出席していてもおかしくないんだ」桜井の調査によれば、日将連のバックには財界の大物、さらには東署署長の先輩に当たる本庁幹部たちがいるという。「課長はこの事件をきっかけに、どでかい大掃除をやろうとしているんですよ!」「暴力団と政界、そして一部警察の癒着。課長は最後の仕事として、ここに世間の目を向けさせようとした・・・」だが、証拠となるテープが不完全な状態では、もはや打つ手はなかった。悔しさをにじませる刑事たちの背後から、力強い声が響く。「まだやりようはある」一同が振り向く先には、神代がいた。「テープが消されたことを知っているのは、お前たちだけだ」やつれた様子でソファーに倒れ込む神代を取り囲む刑事たち。「課長!」「寝かせてくれ。二晩寝ていないんだ・・・」
テープの無事だった箇所をプリントして、東署に乗り込む刑事たち。顔色を変える署長に見せ、新聞社に電話をかける。「今回の不祥事に対し、はっきりと責任を取ると言え。でなけりゃ・・・」「君ら、脅迫する気か・・・」ついに署長を追い詰める特命課。そこに、課に残してきた犬養から無線が入る。「大変です!課長がテープと一緒に消えました!」
その頃、西岡は神代の伝言を政治家に届けていた。「テープは終わりまではっきり映っている。あれがマスコミに流れたら・・・」「神代の要求は?」「職を追われて金が必要らしい」そこに、神代本人から電話が入る。
神代の身を案じ、車で出動しようとする特命課。そこに無線が入る。「神代より各車」「課長、どこです!」「政治家との取引に成功した」「取引?テープが無傷だと思わせたんですか?バレたらどうするんですか!」ハッタリがバレるということは、神代の生命の危機を意味する。「今どこですか!」「現在地を!」「課長ぉぉぉ!」刑事たちの絶叫に、神代はようやく取引場所を明かす。「箱根だ」
最後の闘いを前に、神代は影の協力者である同期の方面本部長に別れを告げていた。「お前を止められん自分がもどかしい。お前が今、やろうとしていることは、俺の願いでもあるからだ・・・」「若い者のことは頼む」盟友に後事を託し、神代は一人、死地に赴く。
箱根へと懸命に車を飛ばす特命課の前に、西岡が現れる。「西岡、貴様!」色めき立つ特命課に、西岡は意外なことを告げる。「俺も一緒に行くはずだった。土壇場ですっぽかされた」「要点を言え!」「本当のことを言う。俺と課長はグルだった」「ふざけたるな!」咄嗟に殴りかかる叶。「ふざけちゃおらん!」すぐさま殴り返し、吠える西岡。「嘘でこんな涙が出るか!」気づけば、西岡の頬を大粒の涙が伝っていた。「俺も一緒に連れて行ってくれ!神代さんはな、死ぬ気なんだ・・・」
暴力団と政治家、警察上層部の腐敗を正すべく、神代と西岡が長い戦いを決意したのは、特命課創設に先立つ13年前のことだった。西岡は敵の懐にもぐりこむべく、あえて周辺に黒い噂をばら撒いていたのだ。「神代さんは、一番大きな不正は警察の不正だという考え方の人だ。警察が曲がったことをしたら、世の中は腐るとね」「課長は今、何をしようとしている」「使い物にならなくなったテープの代わりに、新しい証拠を作ることだ」「どういうことだ?」「それは・・・自分が殺されて見せることだ!」「何だと!」神代の真意を知った刑事たちに衝撃が走る。「なぜ課長が死ななければならん!」「これは愛だ。神代さんの大きな愛だ。神代さんはそれを、最後の仕事にしようとしているんだ」
その頃、神代は箱根山中に車を止め、防火耐震装置付きのビデオカメラに語りかけていた。「これから私とこの車に起こることを、しっかりと見届けてください。そして、何故こんなことが起こったのかを、しっかりと考えていただきたい」神代の車をめがけて、黒い車が迫りつつあった。車はビデオテープ、そして神代の命を狙っている。差し向けたのは政治家に他ならない。神代は自らが政治家に殺されるシーンを映像に残すことで、政治家と日将連、警察幹部たちとの黒い関係を明らかにしようというのだ。「どんな小さな不正であろうと、警察の不正を見逃してはいけない。そして、政治家の不正も見逃してはいけない。そういうものに隠された、物事の本質を見極めてほしい。私の死を思い出すたびに、そのことを考えて下さい。そしてそれは、真実に目を向ければ、日本中で起こっていることなのです・・・」生命の危機を前にして、ひたすらビデオに語り続ける神代。それは、一人の男が死を賭して訴えかける、社会へのメッセージに他ならなかった。
ぐしゃり!黒い車が神代の車に追突。神代を乗せたまま、車は崖下に滑り落ちていく。危ういバランスで崖の中腹に止まった車中で、神代は流血し、運転席にうずくまっている。刺客は止めを刺さんと、黒い車から降りて銃を取り出す。そこにサイレンを鳴らして到着する特命車両。殺し屋は止めを諦めて身を隠し、神代はサイレンの音を耳にしつつ、意識を失う。車は不安定なまま、今にも崖下に落ちそうだ。「課長!」橘、桜井、紅林、叶、時田、犬養、杉、そして西岡。車から飛び出した刑事たちが、必死の形相で神代を救出する。
・・・そして、事件解決後、警視庁4課に特別室が新設され、西岡が室長に就いた。さらに、紅林、時田を率いて橘が特命第1課の課長に、叶、犬養、杉を率いて桜井が特命第2課の課長に就いた。この両課を統括する特命捜査部の部長は、もちろん神代だ。満足げに、そして誇らしげに、見つめ合う刑事たち。その胸には、社会に巣食う悪との終わりなき闘いへの誓いと、心強い仲間たちへの確かな信頼があった。
《特捜最前線:完》

【感想など】
最終三部作の結末は、神代課長が己の命を賭けて送る、私たちへのメッセージで締め括られました。警察や政治家の不正から、目をそむけてはいけない。社会のあちこちで、今も行われている不正に対し、怒りを忘れてはならない。課長のメッセージは、放送から20年以上を経た現在もなお、いや、放送当時以上に、私たちに大切なことを訴えているように思われます。もちろん、市井に生きる私たち一人ひとりの力は、巨悪に対してあまりに小さい“蟷螂の斧”でしかありません。しかし、それでもなお、権力者の不正に馴れてはいけない。諦めてはいけない。目を逸らしてはならない。不正の事実を知ろうとすること、そしてその不正に対して怒りを覚えること、何故そんな不正が生じるのかを考えることを、やめてはならない。それだけが、私たちが巨悪に立ち向かう術だからです。

神代課長は、私たちに「真実を見極めろ」「不正を見逃すな」と語るのみで、決して「巨悪に立ち向かえ」とは語りませんでした。前話で桜井弁護士が語ったように「それは警察の仕事」だからです。しかし、だからといって、私たちが無関心でいることは許されない。不正を許さない風土、悪を憎む気風が社会の根っこにあって、はじめて警察の中の正義が力を発揮する。そう神代課長は訴えているのだと、私は思います。たとえ、大きな行動には移さなくとも、社会に生きる一人ひとりが、不正を許さず、悪を見逃さず、他者への愛情と思いやりを忘れずに日々を暮らしていくこと。それが社会正義を実現する第一歩に他ならない。振り返ってみれば、この最終回のみならず、これまで特捜最前線で描かれたドラマの一つひとつが(もちろん例外はありますが)、そう私たちに訴え続けてきたのではないでしょうか。

番組終了後、神代課長以下の刑事たちが一列に並び、「この10年間にわたって、特捜最前線をご支援いただき、本当にありがとうございました」と、視聴者に向かって深々と頭を下げられました。もちろん、台本にはありません。これはもう、想像というより妄想の領域ですが、このシーンはラストカットの撮影が終了したあと、出演者の皆さんのなかから、誰からともなく「最後に是非、視聴者の皆さんに挨拶がしたい」との声が挙がったことで、実現したのではないでしょうか。そんな妄想を抱かせるほど、出演者一人ひとりの演技からは、特捜最前線という番組や、そこで描かれるドラマ、そこに込められた社会への熱いメッセージに対する真摯なまでの責任感が伝わってくるのです。彼らが10年間にわたって送り続けてくれたメッセージを、私たちは確かに受け取りました。そのメッセージをどう受け止め、どう活かし、どんな世の中を作っていくか、それは私たち一人ひとりに委ねられています。

幸いなことに、放送から20年以上が経過しても、特捜最前線を愛する声は途絶えることなく、CS放送やDVDを通じて、新たに特捜最前線の魅力に触れる人は増え続けています。出演者の皆さんをはじめ、脚本家の皆さん、スタッフの皆さんが心血を注いで私たちに送り続けてくれたメッセージは、そうした視聴者たち一人ひとりの胸に、今も確かに息づいているものと信じています。そう思えば、頭を下げて御礼を述べるのは、むしろ我々の方ではないでしょうか。このブログの(取りあえずの)締め括りとして、まことに僭越ではありますが、皆さんを代表して御礼を述べさせていただきます。
10年間にわたって、すばらしいドラマを提供していただき、本当に、本当にありがとうございました。皆さんが生み出したドラマを、そしてそこから受け取った感動を、私たちはこれからも後世に語り継いでいきます。

特捜最前線よ、永遠なれ。