退職前のある年のことです。前任者から担当地域を引き継いだ中に、高齢者がいました。私が担当する一年あまり前に配偶者を亡くしその後一人暮らしを続けておられたのです。家賃は国が決めた基準を3000円ほど超過していました。
指導監査に来た県職員は生活保護を実際に担当したことのない職員でしたが、「家賃が基準額を超えてるのに転居指導をしていない」というのです。
私は30年以上も同じところに住んでいる高齢者に転居指導など必要ではないし正しい「指導」だとは思えないと強く述べたのですが、後日送られてきた文書ではしっかり指摘してありました。
生活保護にかかわる現業員や査察指導員は社会福祉主事でなければならないとされていますが、生活保護制度が始まって60年「当分の間」資格に関する指定科目を履修していなくても「法学・民法・経済学」などの3科目を一般教養で履修しておれば社会福祉主事として任用できるとの「三科目主事」をそのままにしています。
まず、生活保護担当者として配置される職員に対しきちんとした研修制度が確立されなくてはいけないでしょう。
全国にある27の町村設置の福祉事務所のうち8つが「権限委譲」という仕事の押し付けをどんどん進めてきた広島県にあります。
設置にあたっては町職員が県の福祉事務所で1年~2年の実務を担い経験を踏んではいますが、残念ながら書類をきちんと揃えて「指導・監査をどう受けるか」といった視点が主で、生活保護の本来の目的や役割をきちんと学んだとはお世辞にも言えないのが実情です。
このような中では、増え続ける生活保護受給世帯への関わりもどんどんと薄くなってしまいます。
また、できれば新たな保護申請は受けつけずに相談だけで終わらせたいということになってしまうのもやむを得ないかも知れません。
現業員が2人や3人程度の福祉事務所では職員が研修を受けたり、学習したりすることもままならないのが実情ではないでしょうか。
これでは厚生労働省が「生活保護担当員の資質の向上」をいくら叫んでも効果はないでしょう。まずは国が率先して新任職員の研修を始めるべきです。(私が福祉事務所から精神保健福祉センターへ配属換えになった時には、4週間の民間精神病院での実習と、3週間の国立精神神経研究所での研修がありました)
旅費や宿泊費も国が負担してはどうでしょう。
これまで生活保護は主として福祉事務所の外からの強い働きかけによって少しずつでも改善されてきたといえます。
これに合わせて福祉事務所の内側からの改善への努力が重なっていけば本当の意味での生活を守るネットになっていけると思うのです。
京都では福祉事務所のスタッフが生活保護ニュースを発行し、新たな制度や事業について説明していると聞いています。
私は退職前の数年前から生活保護受給者に保護変更通知を渡すだけではなく、保護費の計算書も見ていただいて、説明することをやってきました。これはある人から「私の保護費はどんなふうに計算されてるんですか」と尋ねられたことがきっかけでした。
説明する中で自分の計算の間違いに気づくことも幾度かありひやりとさせられたこともありました。