リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

★お知らせ★




思うところがあってFC2ブログに引っ越しました。 引越し先はこちらで新規の投稿はすべて引越し先のブログのみとなります。

問題なのは無縁社会ではなく無援社会だろっ!

2011年02月13日 | Weblog
週末に放映されたNHKの無縁社会の特集番組。
昨年からシリーズで特集を組んでいるが、これほど、うさん臭く、突っ込みどころが満載の番組もめずらしい。
「無縁社会知っていますか?」と街頭インタビューしていた場面があったがそりゃ公共放送があれだけキャンペーンをはれば聞いたことぐらいはあるだろう。
「無縁社会」という自らがつくった漠然と不安を煽る言葉ありきの番組で、NHKはこの言葉を広めることで一体何を伝えたいのか最期まで分からなかった。


無縁社会
NHK「無縁社会プロジェクト」取材班
文藝春秋


人々は田舎にある古くからの因習や相互監視が嫌で、自由で豊かな生活に憧れ都会に出て来たのだろう。
自動車、スーパー、コンビニ、携帯電話、インターネット、賃貸住宅、派遣の仕事・・・。
縁が薄くても生きて行ける社会をつくってきた。
ノスタルジーに浸るのもよいが、無縁社会をエンジョイしている人もいるはずだ。

結果、人々はバラバラになってしまった。
いまの状況からいかに因習に縛られた旧来とは違った形で、どうあらたな縁を紡いでいくのか。
期待していたのはそういった提言だったがそれは皆無でひたすら暗いトーンで番組は進行した。

冒頭に紹介されたTweetはNHKの自作自演の疑いが濃厚であることが無惨にも晒された。まぁ捨てアカウントを使ったのかもしれないが、せっかくTwitterを使っているのにそれでは縁は出来ない。

番組内で紹介されていた、縁をつくるために近所の掃除をはじめた男性。
「誰も声をかけてくれない。」というが、自分から挨拶をすればいいのに・・。
子供に声をかけて、そだてたカブトムシをプレゼントとかしていた。
そりゃ立派だ。

自分の部屋をニコニコ動画で中継し反応を読み上げさす男性。(ネコビデオ氏)
なるほどたしかに孤独死はありえないかもね。

居酒屋でPCを前に一人で飲み会をする女性。
なんで、わざわざ。家でやればいいのに。

暗い部屋の中にPCの明かりだけが光っている画面を見せるなどネットを使った縁作りには悪意があるのではないかと思うほど否定的。
討論で「ネットの縁は本当の縁じゃない」と言っていたおばちゃんもいたが・・・。
袖すり合うも他生の縁なのに、ネットで関わりをもつなんて立派な縁だと思うが。

大きく広がりつつあるソーシャルネットワークシステムなどの紹介もなし。
エジプトであれだけのムーブメントを巻き起こしたというのに・・。
そもそもネット上のソーシャルメディアと地域コミュニティは対立するものでも無関係なものでもないのだが・・。
実名主義のFacebookなどはリアルな人間関係とシンクロしているのだぞ。

無援社会の行く末を再現した映像は酷かった。
職場でも「代わりはいる」といわれ、脳梗塞で倒れた母親も施設にも入れない。
介護しつつ悲惨な生活になっていく・・・。
これも問題なのは無縁より無援。
将来のを予測してつくった映像というが、これは現状の問題

後半の議論は雇用問題が中心になっていた。

高校卒業後パチンコ屋に正規で就職し涙を流して喜ぶ母子家庭の母娘。
これには泣けてくる。
高校を中退になった茶髪ピアスの少年。
これで彼は高校との縁も失った・・・。とのナレーション。

ここで問題なのは無縁ではなく無援だ。孤独ではなく孤立だろう。
無縁社会だの言っている暇があれば社会保障や教育、雇用、貧困問題に対して正面から向かい合えば良い。

働き盛りに広がる無縁社会ということで、「働く」というつながりを失うことで縁が切れることが強調されていた
「人はつながりの中に自分の存在や役割を感じられて初めて生きていける」などとセンセーショナルな煽りだが、これも筋違い。
仕事を通じて自己実現など望むべくも無い非正規雇用の非人間的な扱いが問題なのであって無縁とは関係がない。
不安定な非正規雇用ほど、賃金も社会保障も乏しく、現状では生きていくために働くだけで精一杯で、縁をつくれない人も多いのだ。

「自己有用感」ってやたら主張していた人もいたが・・。
それを逆手にとられて安い賃金でつかわれているNPOのスタッフやボランティア、介護職などの対人援助職も問題だろう。
いいかげん雇用と生存保障を分けて考えることは出来ないのだろうか?

そうすれば仕事だけに縁を求めなくてもよくなるだろう・・。
生存におびえること無く、家族との生活や地域社会、その他、それぞれの分野で縁を気づいて行ける様な社会。
そこにネットをどう活かすかというような方向に議論がいけば面白かったのだが・・。

やはり人間関係という縁も含めて、湯浅誠氏らの主張する「溜め」という概念のもとに貧困を論じるのが有用だと思う。

家庭福祉、企業福祉があてに出来ない今、個人ベースの福祉、最低限のセーフティネットをどうつくるべきなのかというのが本質のはずだ。個人的に考えつく解決は、相続税100%、ベーシックインカム、寄付税制改革、教育無償化・・。などである。

その上で高齢者や障害者をどう包摂していくかというのは誰にとっても関係のある問題だから、それを地域づくりに結びつけて地域を紡ぎ縁を結んで行けば良い。

それにしてもNHKは「無縁社会」で何を訴えたかったのだろうか。