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精神科医師のブログ。
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高次脳機能障害専門セミナー(松本)

2010年07月13日 | Weblog
7月10日に松本文化会館で開催された高次脳機能障害専門セミナーに行ってきた。

高次脳機能障害とは交通事故や転落などの脳外傷、脳の病気などで脳機能の損傷がおこり、記憶障害や注意障害、遂行機能障害(物事の段取り)を来したり、性格が変化してしまうなど社会的行動に障害がおこるもののことを言う。
他の精神障害と同様、見えない障害で分かりにくいために理解されず苦しんでいる人も多い。

地域活動支援センターなどのいつもの支援者の方々と顔をあわす。
お声がけした当事者、当事者家族もいらしていた。

一つ目の講演は「前頭葉機能症状の回復とリハビリテーション」というタイトルで慶応義塾大学の精神科の加藤元一郎先生の講演。

脳科学的な知見と臨床症状を対照させて考えるのは面白い。
脳外傷の後遺症としての高次脳機能障害はリハビリテーション科で扱われることが増えて来たが、認知症とともに精神医学を学ぶ入り口としても最適なのではないかと思う。
前頭葉の機能に関していろんなモデルをとおして説明していたがリハビリテーションの方法論はまだまだ確立していないという印象をうけた。

まとまっていないが、メモとしての箇条書きをのしておく。

・前頭葉にいろんな行動レパートリーが直接コードされているわけではない。
・前頭葉には後頭葉に集められた環境から感覚器を通じてあつめられた入力情報、また辺縁系からの情動の情報などが集められて統合されて想起されたアウトカムイメージ(それぞれにRewardとPunishmentあり)のなかからトップダウンでコンテキストにあわせた行動が選択され出力される。
・いくつかのアウトカムイメージが想起されるが人には保持情報容量の限界があり、だいたい7つくらいが限界。
・つまり人間は一度に7つぐらいのことしか考えられない。
・ドパミンの濃度が多くての少なくてもワーキングメモリーの容量が少なくなる、ちょうどいいドパミンの濃度がある。
・遂行機能障害というのは脳のどの部位の損傷でも生じる注意や空間認知、記憶などが障害されていないことを前程として純粋な遂行機能障害といえる。
・高次脳機能障害(注意、記憶、遂行機能、社会的行動)の中で注意障害は訓練次第で回復するが、それ以外はなかなか難しい。
・最も適切な行動とそのルールの素早い学習(Rapid learning)には効率的に目の前の刺激を処理するためのルールを抽出しそれを保持することが重要で、それには前頭前野、側頭葉内側部(海馬など)との連携が重要。
・代償方略としてタイマーやメモリーノートなどいろんなツールがあるが使いこなすには、病識が鍵となる。
・病識(Remember to remember)があれば補助的ツール(メモなど)を活用することで自立できる。
・病識に関係するのは右前頭葉内側(アルツハイマー病での病識と血流低下をみた研究でも示されている。)であり、高次脳機能障害をかかえる患者にTinker Toy(組み合わせのおもちゃ)やハノイの塔をひたすらやらせることで病識がでてくるとともに、その部位の血流低下も改善された。

高次脳機能障害のリハビリテーションには料理が一番良いといわれているるが、それを裏付けるような内容であった。


二つ目の講演は「高次脳機能障害者にとっての家族(会)とは」というタイトルで北海道の脳外傷友の会コロポックルの副代表の篠原節先生のお話。
理論的、専門的な内容と、具体的、実践的な内容の講演がセットになっているというのはとても良いと思った。

講師は息子さんが交通事故による高次脳機能障害を抱えていらっしゃるが、そういうことが無ければこんな人生を送ることは無かっただろうという非常にパワフルな生き方をされている方である。
常に前向きで楽しんで生きようというエネルギーが感じられた。

高次脳機能障害ということ自体あまり知られていなかった時代、どこへ行っても適切な診断もえられず支援も乏しかった。
ほんとうに苦労されたのだと思う。
同じ苦しみをもつ家族とともに家族会を設立し、相談にのったり作業所を始め、またモデル事業にも協力した。
家族会からいろんな活動の母体としてのNPOが産まれたが、家族会としての脳外傷友の会「コロポックル」と作業所や委託事業などをうけるNPO法人コロポックルさっぽろを分け、協力しながら運営していくという方法はいいと思った。

コロポックルさっぽろ

家族のスタンスとして大切なこととして・・

それは、つかず離れずホットな無関心。
一人で抱えず、周囲を引きずり込んでみんなでやる。
おまじないの言葉として「これは病気、病気、・・。障害、障害・・・。しょうがない」と唱える。

専門職にたいするメッセージととして・・

苦労をねぎらい主介護者を楽にしてほしい。
先の見えない不安を抱えた家族に見通しをつけてほしい、家庭内や地域をシンプルに整理してほしい。
そのためにピアカウンセリングや学び合いの場としての家族会を社会資源の一つとして活用してほしい。

高次脳機能障害に関わらず、家族会、当事者の会などはリカバリーの鍵となるものだ。
専門家のスタンスとしてはサポーティッドピアサポートという関わり方がますます大切になるだろう。