このたび、地域創造のための専門情報誌「日経グローカル」誌(2016.2.15号)の「地方創生の旗手」欄に、私へのインタビュー記事が紹介されました! NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」での活動について取材を受けたものです。地方創生の「奇種」なら、まさにその通りですが、「旗手」とは汗顔の至りです。インタビュアーは旧知の西久保智美さん(コミュニティライター・五條市在住)で、2月4日(木)「ホテル杉の湯」(吉野郡川上村)のロビーで、吉野杉の美林を眺めながらお話しました。
大した資料も用意せず、思いつくまま2時間ほどダベった話を、こんなにきれいにまとめて下さいました。自分で読んで「おお、これはなかなか筋の通った話だ」と納得したほど、きちんと書いていただき、さすがはプロです。以下、記事全文を紹介させていただきます。
インタビュー 地方創生の旗手
NPO法人 奈良まほろばソムリエの会 専務理事 鉄田 憲男 氏
検定上級者がガイド 上質の奈良観光届ける
3つの世界遺産をはじめ、社寺や歴史の宝庫である奈良。通り一遍の案内では物足りない人たちに、一歩踏み込んだ奈良の魅力を伝える団体がある。ご当地検定「奈良まほろばソムリエ」の最上級合格者らでつくるNPO法人・奈良まほろばソムリエの会(奈良市)だ。現地のガイドや奈良、東京での講演会だけでなく、旅行会社とのコラボで「古事記ツアー」を企画すると、満員御礼の人気ぶり。会員の個性を生かして活躍する場づくりと、奈良観光が抱える課題について鉄田憲男専務理事に聞いた。
――前身の任意団体「奈良まほろばソムリエ友の会」を結成したのは2011年4月。まもなく5周年を迎える。
私自身、もともと奈良が好きで、奈良の本もよく読んでいた。きちんと整理して勉強したいと思っていた時に、奈良でもご当地検定の「奈良まほろばソムリエ検定」が始まり、4年目の10年1月に最上級資格「奈良まほろばソムリエ」に合格した。
その翌年、主催者の奈良商工会議所が、最上級の合格者を集めた会を開いてくれたのをきっかけに、参加者同士で盛り上がり、自主的交流の場をつくろうと、11年4月に会を発足させた。勉強をしたら、アウトプットもしたい。自分だけが知って満足するのではなく、誰かの役に立ちたいと活動の場を求めている人が多かった。
――NPO法人に移行した理由は。
任意団体として友の会をつくったが、これでは「親睦会」で終わってしまうと危機感を感じた。責任を持って活動していく以上は、法人組織でないと、と総会で諮り、すぐさまNPO法人の設立準備を始めた。社会貢献活動をする団体になることで、方向性もはっきりするし、会計の面もきっちりする。組織として動かしていくには必要なことだった。
――会の活動としてはどのようなことをしているのか。
ガイドや講演・講座など6つのグループに分かれ、それぞれ担当の理事を中心に活動している。例えば、ガイドグループでは、先輩のガイド案内に同行して勉強したり、研修会を開催したり、実践につなげられるよう研修体制を充実させている。また、講演会の講師をしたい人は、パソコンが苦手な人でも、まずはパワーポイントを学んでもらい、分かりやすい資料作りから研修する。
大学の先生が話すような講演はできないのだから、分かりやすい講演をすることが重要。ガイドだったら、既存のガイドがいる地域ではなく、隠れスポットだったり、市町村を越えたコースだったり、ソムリエの会だからこそできることをするべきだと思っている。
大阪電気通信大学の公開講座。2015.11.16に開催
――奈良まほろばソムリエの会の特徴は。
旅行会社からの依頼で、12年の古事記編さん1300年を記念した「古事記ツアー」をはじめ、テーマに基づいたいろいろなツアーを企画し、ガイドも手がけてきた。ツアーはガイド2人体制で、1人はバスの中、もう1人は現地で説明するようにしている。
以前、勉強しようと、偉い先生が同行するバスツアーに参加したものの、先生の話は現地で30~ 40分程度。もっと話を聞きたいといつも思っていた経験から、ソムリエの会ではバスの中で予習を兼ねて説明してから、現地に案内するようにした。そして、話す内容は事前にマニュアルにして、説明できないものは写真などを使って見える化に取り組むことで、参加者の皆さんには喜ばれている。
先日は小説『天河伝説殺人事件』(内田康夫著)になぞらえ、奈良市内発で吉野山~天川村への日帰りツアーを実施した。小説に出てくる能にちなんで謡い手を加え、3人体制でツアーを楽しんでもらう工夫をした。こういう取り組みができるのもソムリエの会ならではだろう。
――活動を通じて、奈良の観光の現状をどうみる。
平城遷都1300年祭をきっかけに、県民におもてなしの精神が生まれつつあると思う。奈良県の人は心おだやかで親切でやさしい人が多いが、それを表に出すことが苦手。これを自分なりに努力し、表に出せるようになるといい。
奈良県は地域に伝わる民俗行事の宝庫と思っている。十津川に行けば、すごい盆踊りがあり、曽爾に行けば、獅子舞があり、五條には狂言があり、多種多様の行事がごろごろとある。いわゆる横文字のイベントや、たくさんの人が来るような大きなイベントではなく、既存の民俗行事を掘り起こして、人に来てもらうようになれば、人口減少が進む地域も、もっと元気になる。
10月に東吉野村で行われる「小川祭り」も村民だけでなく、村外に出た住民が帰ってきて祭りに関わったりする様子を見て、いいなと思った。地域の人たちは地域で守ってきた祭り・行事ができなくなることを恥ずかしいと思うところもあるだろうが、声をかけてくれたら、ソムリエの会の保存継承グループでもお手伝いしたい。
「卑弥呼の大和」ツアーをガイド。2016.2.17実施
――外国人観光客も増加の一途をたどっている。取り組むべきことは。
奈良市界隈は、外国人観光客であふれている。中国人は、東大寺に行って鹿に鹿せんべいをあげたら奈良観光はおしまいと思っているが、それはきちんと奈良の観光をPRできていないから。特に県中南部の魅力をしっかり宣伝することが重要だ。
また、中国人はマナーが悪いと毛嫌いする人もいるが、日本人も昔、ハワイへ団体旅行などで大勢の人で押しかけ、タバコのポイ捨てや、味噌汁がないと文句を言ったり、写真を勝手に撮ったりとマナーが悪かった時期がある。でもハワイの人は温かく受け入れてくれ、今の交流がある。
あきらめるのではなく、理解してもらえるように話しかけてほしい。観光関係に関わってなくても、一般の県民が動き出すきっかけとして、自分ができることから始めてほしいし、ソムリエの会としても取り組んでいきたいと思う。
てつだ・のりお 1953年和歌山県九度山町生まれ。南都銀行在職中の2011年、「奈良まほろばソムリエ友の会」を立ち上げ、事務局長に就任。13年NPO法人 奈良まほろばソムリエの会に移行、専務理事。14年には同会監修の「奈良『地理・地名・地図』の謎」(実業之日本社)を刊行した。
記者の眼
インターネットで奈良の観光について検索すると必ず上位に出る鉄田さんの「tetsudaブログ“どっぷり!奈良漬”」。2005年から始まったブログは、歴史や文化だけでなく、宿泊施設や飲食など便利な情報から、観光戦略や地域の取り組みなど、奈良の「いま」を読み解くことができる。情報の整理・分類、マニュアルづくり、見える化。銀行員として培ってきたノウハウが、宣伝下手といわれる奈良の観光をつくり変えていく(コミュニティライター 西久保 智美)
ずいぶんとお褒めいただき、恐縮です。観光ガイドや講演講師の養成については、よく他団体からも質問を受けます。当会には企業出身者が多いので、論理的・合理的思考の持ち主に恵まれています。見よう見まねで教えるのではなく、例えば講師の育成(担当=啓発グループ)だと、パソコン(PowerPoint)講座→講師養成講座→研究発表練習会→研究発表会→外部の講演会に派遣、とステップを踏みながら養成していく仕組みです。
おかげさまで、クラブツーリズム奈良旅行センター(近鉄奈良駅ビル5階)と奈良まほろば館(東京日本橋三越前)では常設の講座を持ち、奈良佐保短期大学にも講師を派遣し、この4月からは京都シニア大学奈良校(奈良商工会議所ビル内)でも毎週木曜日に授業を受け持つことになっています。
当会は今年で5周年を迎えましたが、活動はまだまだ緒についたばかり。これからも300人の仲間とともに、奈良を盛り上げてまいります!
大した資料も用意せず、思いつくまま2時間ほどダベった話を、こんなにきれいにまとめて下さいました。自分で読んで「おお、これはなかなか筋の通った話だ」と納得したほど、きちんと書いていただき、さすがはプロです。以下、記事全文を紹介させていただきます。
インタビュー 地方創生の旗手
NPO法人 奈良まほろばソムリエの会 専務理事 鉄田 憲男 氏
検定上級者がガイド 上質の奈良観光届ける
3つの世界遺産をはじめ、社寺や歴史の宝庫である奈良。通り一遍の案内では物足りない人たちに、一歩踏み込んだ奈良の魅力を伝える団体がある。ご当地検定「奈良まほろばソムリエ」の最上級合格者らでつくるNPO法人・奈良まほろばソムリエの会(奈良市)だ。現地のガイドや奈良、東京での講演会だけでなく、旅行会社とのコラボで「古事記ツアー」を企画すると、満員御礼の人気ぶり。会員の個性を生かして活躍する場づくりと、奈良観光が抱える課題について鉄田憲男専務理事に聞いた。
――前身の任意団体「奈良まほろばソムリエ友の会」を結成したのは2011年4月。まもなく5周年を迎える。
私自身、もともと奈良が好きで、奈良の本もよく読んでいた。きちんと整理して勉強したいと思っていた時に、奈良でもご当地検定の「奈良まほろばソムリエ検定」が始まり、4年目の10年1月に最上級資格「奈良まほろばソムリエ」に合格した。
その翌年、主催者の奈良商工会議所が、最上級の合格者を集めた会を開いてくれたのをきっかけに、参加者同士で盛り上がり、自主的交流の場をつくろうと、11年4月に会を発足させた。勉強をしたら、アウトプットもしたい。自分だけが知って満足するのではなく、誰かの役に立ちたいと活動の場を求めている人が多かった。
――NPO法人に移行した理由は。
任意団体として友の会をつくったが、これでは「親睦会」で終わってしまうと危機感を感じた。責任を持って活動していく以上は、法人組織でないと、と総会で諮り、すぐさまNPO法人の設立準備を始めた。社会貢献活動をする団体になることで、方向性もはっきりするし、会計の面もきっちりする。組織として動かしていくには必要なことだった。
――会の活動としてはどのようなことをしているのか。
ガイドや講演・講座など6つのグループに分かれ、それぞれ担当の理事を中心に活動している。例えば、ガイドグループでは、先輩のガイド案内に同行して勉強したり、研修会を開催したり、実践につなげられるよう研修体制を充実させている。また、講演会の講師をしたい人は、パソコンが苦手な人でも、まずはパワーポイントを学んでもらい、分かりやすい資料作りから研修する。
大学の先生が話すような講演はできないのだから、分かりやすい講演をすることが重要。ガイドだったら、既存のガイドがいる地域ではなく、隠れスポットだったり、市町村を越えたコースだったり、ソムリエの会だからこそできることをするべきだと思っている。
大阪電気通信大学の公開講座。2015.11.16に開催
――奈良まほろばソムリエの会の特徴は。
旅行会社からの依頼で、12年の古事記編さん1300年を記念した「古事記ツアー」をはじめ、テーマに基づいたいろいろなツアーを企画し、ガイドも手がけてきた。ツアーはガイド2人体制で、1人はバスの中、もう1人は現地で説明するようにしている。
以前、勉強しようと、偉い先生が同行するバスツアーに参加したものの、先生の話は現地で30~ 40分程度。もっと話を聞きたいといつも思っていた経験から、ソムリエの会ではバスの中で予習を兼ねて説明してから、現地に案内するようにした。そして、話す内容は事前にマニュアルにして、説明できないものは写真などを使って見える化に取り組むことで、参加者の皆さんには喜ばれている。
先日は小説『天河伝説殺人事件』(内田康夫著)になぞらえ、奈良市内発で吉野山~天川村への日帰りツアーを実施した。小説に出てくる能にちなんで謡い手を加え、3人体制でツアーを楽しんでもらう工夫をした。こういう取り組みができるのもソムリエの会ならではだろう。
――活動を通じて、奈良の観光の現状をどうみる。
平城遷都1300年祭をきっかけに、県民におもてなしの精神が生まれつつあると思う。奈良県の人は心おだやかで親切でやさしい人が多いが、それを表に出すことが苦手。これを自分なりに努力し、表に出せるようになるといい。
奈良県は地域に伝わる民俗行事の宝庫と思っている。十津川に行けば、すごい盆踊りがあり、曽爾に行けば、獅子舞があり、五條には狂言があり、多種多様の行事がごろごろとある。いわゆる横文字のイベントや、たくさんの人が来るような大きなイベントではなく、既存の民俗行事を掘り起こして、人に来てもらうようになれば、人口減少が進む地域も、もっと元気になる。
10月に東吉野村で行われる「小川祭り」も村民だけでなく、村外に出た住民が帰ってきて祭りに関わったりする様子を見て、いいなと思った。地域の人たちは地域で守ってきた祭り・行事ができなくなることを恥ずかしいと思うところもあるだろうが、声をかけてくれたら、ソムリエの会の保存継承グループでもお手伝いしたい。
「卑弥呼の大和」ツアーをガイド。2016.2.17実施
――外国人観光客も増加の一途をたどっている。取り組むべきことは。
奈良市界隈は、外国人観光客であふれている。中国人は、東大寺に行って鹿に鹿せんべいをあげたら奈良観光はおしまいと思っているが、それはきちんと奈良の観光をPRできていないから。特に県中南部の魅力をしっかり宣伝することが重要だ。
また、中国人はマナーが悪いと毛嫌いする人もいるが、日本人も昔、ハワイへ団体旅行などで大勢の人で押しかけ、タバコのポイ捨てや、味噌汁がないと文句を言ったり、写真を勝手に撮ったりとマナーが悪かった時期がある。でもハワイの人は温かく受け入れてくれ、今の交流がある。
あきらめるのではなく、理解してもらえるように話しかけてほしい。観光関係に関わってなくても、一般の県民が動き出すきっかけとして、自分ができることから始めてほしいし、ソムリエの会としても取り組んでいきたいと思う。
てつだ・のりお 1953年和歌山県九度山町生まれ。南都銀行在職中の2011年、「奈良まほろばソムリエ友の会」を立ち上げ、事務局長に就任。13年NPO法人 奈良まほろばソムリエの会に移行、専務理事。14年には同会監修の「奈良『地理・地名・地図』の謎」(実業之日本社)を刊行した。
記者の眼
インターネットで奈良の観光について検索すると必ず上位に出る鉄田さんの「tetsudaブログ“どっぷり!奈良漬”」。2005年から始まったブログは、歴史や文化だけでなく、宿泊施設や飲食など便利な情報から、観光戦略や地域の取り組みなど、奈良の「いま」を読み解くことができる。情報の整理・分類、マニュアルづくり、見える化。銀行員として培ってきたノウハウが、宣伝下手といわれる奈良の観光をつくり変えていく(コミュニティライター 西久保 智美)
ずいぶんとお褒めいただき、恐縮です。観光ガイドや講演講師の養成については、よく他団体からも質問を受けます。当会には企業出身者が多いので、論理的・合理的思考の持ち主に恵まれています。見よう見まねで教えるのではなく、例えば講師の育成(担当=啓発グループ)だと、パソコン(PowerPoint)講座→講師養成講座→研究発表練習会→研究発表会→外部の講演会に派遣、とステップを踏みながら養成していく仕組みです。
おかげさまで、クラブツーリズム奈良旅行センター(近鉄奈良駅ビル5階)と奈良まほろば館(東京日本橋三越前)では常設の講座を持ち、奈良佐保短期大学にも講師を派遣し、この4月からは京都シニア大学奈良校(奈良商工会議所ビル内)でも毎週木曜日に授業を受け持つことになっています。
当会は今年で5周年を迎えましたが、活動はまだまだ緒についたばかり。これからも300人の仲間とともに、奈良を盛り上げてまいります!